215、大魔王に忍び寄る〈黒い人影〉
そこはヴァグドーたちがいる異世界の別の何処かにあるハズの大陸の近くにある孤島での出来事である。
●【No.215】●
とある大陸の北側に、小さな孤島があり、その孤島に大きな城が建っていた。
そこは『魔族の城』である。
その小さな孤島の外側には、様々な魔物が棲みついており、強力なモンスターは孤島から出ることができない。
さらに強力な魔族も、この孤島の中央部にある『魔族の城』の城内に棲みついており、ここで力を蓄えている。
その一部の上位魔族の間で密かに囁いてることがある。
我らが主、大魔王デスゴラグション様が暴挙に出ているのではないのか、と―――
その常識的・理性的・心ある上位魔族の中には、自分たちが主とする大魔王様が、自分たちが支配する予定の大陸を、まだ完全に支配していないのに、他の大魔王様が支配する大陸への支配へ乗り出してきたことに、少なからず疑問に思ってるのだ。
この大魔王デスゴラグションの言動に、密かに疑問を持ち囁き続ける上位魔族たち。
「これは一体どういうことなのかっ!? これからこの大陸の主要国の侵攻を開始するのではないのかぁ……っ!?」
「まさか……トンノクニを攻める戦力で、これから大魔王イザベリュータ様が支配する予定の大陸を占領するつもりなのかぁ……っ!?」
「否、悪魔神ヴォグゲロルスが祀っていて、現在でも信仰があるという大陸に侵攻すると、私は聞いたけど……?」
「なんと大魔王ゼン様が支配する予定の大陸にも、我らが侵攻すると聞いたけど、それは本当なのかぁ……っ?」
「おい、本当に全世界に侵攻を開始するのかぁ……っ!?」
どうやら情報が錯綜しているみたいだ。
また城内の某所にて、下位の魔族たちも集まってヒソヒソ話をしていると、そこに上位魔族の一人が現れて話しかけてきた。
「我らが大魔王様が、全世界に侵攻を開始すると言うのは、本当なのですか?」
「ああ、勿論だ。 ただし、当然この大陸の侵攻も同時に開始される。」
「お待ちください。 全世界を同時に侵攻するなど、現在の我らの戦力では、とても無理ですぞ。」
「ああ、そんなことは判っている。 だがしかし、大魔王デスゴラグション様のご命令は絶対だ。」
「それでは上位魔族の皆さまが、大魔王様をお諫め致さないのですか?」
「否、今でも我同胞が大魔王様をお諫めしているけど、まるで人が変わったかの様に、我らの言葉に耳を貸さないのだ。」
「なんと……遂にご乱心されたか……?」
「このままでは……我らは大魔王エリュドルス様……大魔王イザベリュータ様……大魔王ゼン様に加えて、悪魔神トニトリエクルスや悪魔神ヴォグゲロルスとも敵対することになり、とてもでありませんけど、太刀打ち出来ませんぞ。」
「………」
「それについては大魔王様は理解されてますか?」
「残念ながら理解されていないかもしれないな」
「……っ!!?」
「そ、そんなぁ……バカなぁ……」
「やはり、ご乱心されたか……?」
そこにまた別の上位魔族の一人がやって来て、そこにいた上位魔族たちに話しかけてきた。
「おお、ここにいたか。 聞いたか? 悪魔神トニトリエクルスが大魔王デスゴラグション様の背後を狙い始めたぞ。」
「―――えっ!!?」
「な、何ぃっ!!? それは本当なのかぁ!!?」
「ああ、そういう報告を受けている。 勿論、大魔王様にもこの報告を受けている筈だ。」
「それで大魔王様の対応はどうなのか?」
「対応……? そんなモノはない。 そもそも大魔王様は悪魔神の存在を未だに信用していない。」
「ではすぐに説得を!」
「まぁ待て。 あの大魔王様にこれ以上の説得や諫言は通用しないようだ。 ここは大魔王様のご命令通りに行動して、前方から来る他の大魔王様たちの反撃と、背後から来る悪魔神の挟撃を待ってから、万が一でも、我らの大魔王様が、他の大魔王様たちや悪魔神に敗れるようなことになれば、我々は心置きなく撤退すればよいのだ。」
「そ、それは正気ですか……?」
「な、なんと……それでは大魔王様を見捨てるのかぁ……っ!?」
「ああ、その通りだ。 この案は他の上位魔族たちの賛同を得ている。 もうこれ以上、面倒見きれない。」
「―――えっ!!?」
「遂に上位魔族様が大魔王様を見限った……っ!!?」
「……な、なんと……本当に……」
この後も上位魔族と下位の魔族との間で、ヒソヒソ話の話し合いが続いていた。
ここに来て、大魔王デスゴラグションの乱心・暴挙により、徐々に少しずつ部下たちの忠誠心や信頼度が失われつつあった。
ここは城内の奥の方にある『玉座の間』の中の奥の方にある玉座に座る大魔王デスゴラグション。
この大魔王デスゴラグションは無言のまま俯いている。
その姿は、全身黒いローブに覆われており、とても素顔を見ることはできない。
また側近でさえ、大魔王デスゴラグションの素顔を見ることができず、もし仮に素顔を見た者がいたら、たとえ誰であろうと、容赦なく処刑されてしまう。
謎の多い大魔王である。
この大魔王デスゴラグションは全く他人を信用しておらず、たとえ側近であっても心を許しておらず、ほとんど一人でいることが多い。
それなので、多くの側近や部下からは、彼に対しての忠誠心や信頼度がガタ落ちしており、当の本人もその事を知っているのか、いないのか、よく解らないのだ。
本当に何を考えているのか、よく解らない大魔王である。
それでも何故、今回だけは乱心して、これだけ蛮行を引き起こそうとしているのか?
『ヒヒヒ、まずはこの世界をかき混ぜてやる。 ヒヒヒ』
突如として、大魔王デスゴラグションの左側から、不気味で薄気味悪い声がした。
だがしかし、この『玉座の間』の中には大魔王デスゴラグション以外、誰もいない。 さらに大魔王デスゴラグションも無口のまま。
『ヒヒヒ、この後……アイツがどう動くのか……見物だな……ヒヒヒ』
また大魔王デスゴラグション以外、誰もいない筈の『玉座の間』の中、大魔王デスゴラグションの左側から、先程同様に不気味で薄気味悪い声がした。
よく見ると、そこに "大きな黒い人影" がうっすら見えてる……?
この姿……何処かで見た覚えが……?
こ、こいつは―――
まさかの〈地球神アクナディオス〉だぁ!!
なんとこんなところで、あの〈地球神アクナディオス〉が出てくるのかっ!?
一体何が目的なのかっ!?