214、とある大魔王の反乱分子
今回から新章に入ります。
今回からまた大魔王エリュドルスが登場します。
●【No.214】●
ここは魔族の国の中にある大魔王城の中にある『玉座の間』の中にて
その『玉座の間』の奥の方にある玉座に座る大魔王エリュドルスの目の前に、上位魔族のデイラルスが突如として現れた。
このデイラルスとは、現在ヴァグドーたちと共に行動している上位魔族のテミラルスの姉にあたる女性型の魔族であり、これまでに大魔王エリュドルスによって粛清されてきた上位魔族の中でも、見事に生き残った数少ない上位魔族の一人である。
ちなみにヴァグドーや勇者アドーレたちとは、もう既に面識がある。
「お呼びですか? 大魔王様」
「来たか、デイラルスよ」
そのデイラルスが、大魔王エリュドルスの目の前で立ったまま質問してきて、大魔王エリュドルスも俯いたまま応える。
「まず余の判断で、そなたたちAクラスの階級を変更する。」
「……階級を……ですか?」
「今までは、上位魔族という位置付けの階級だったが、これからは "大魔公" という階級に改める。」
「…… "大魔公" ……?」
「ああ、そうだ。 大魔王に次ぐ地位の階級だ。」
「……大魔王様に次ぐ地位……?」
「そこでテミラルスを呼べ。 デイラルスよ」
「……えっ!?」
「現在ヴァグドーたちのところにいるテミラルスを、すぐ余のいるこの『玉座の間』まで来るように伝えよ。」
「……宜しいのですか? ここでテミラルスを呼び戻すと、現在ヴァグドーたちの仲間に、新たに加わった悪魔神オリンデルスの監視対象から外れることになりますけど……?」
「ああ、構わぬ。 悪魔神は後回しだ。 それよりももっと重大な事件が起きた。」
「……重大な事件……?」
「ああ、そうだ。 大魔王デスゴラグションの部下共が、この大陸に侵入してきた。」
「……えっ!!?」
「大魔王デスゴラグションの部下の上位魔族の幹部共が、この大陸の『東の岬』より侵入してきた。 しかも余からは、また何の連絡もないままに……だ。」
「……っ!!?」
「余直属の監視役の使い魔の報告では、あくまで目視での確認だけだが、その数おおよそ "50" だ!」
「……ご、50……っ!!?」
「ああ、これは明らかに『観光』や『冒険』などのレベルの数ではない。 ―――これは『侵攻』だ!」
「……えっ、ちょっと待ってください。 それって……もしかして……『四大魔王大陸間不可侵条約協定』違反なのでは……っ!!?」
「ああ、その通りだ。 だがしかし、そもそも大魔王デスゴラグションは最初から、この『四大魔王大陸間不可侵条約協定』には反対しておった。 奴は "この世界に大魔王は一人だけ" の精神を未だに貫いておる。 それ故に、余たち他の大魔王も悪魔神のことさえも、未だに認めておらぬ。 非常に厄介な奴だ」
「そ、そんなぁ……」
「余と大魔王イザベリュータと大魔王ゼンの三人は、この協定に賛成しておる。 それぞれの大陸は、それぞれの大魔王が支配するのが、一番だからな。 だがしかし、大魔王デスゴラグションだけは、この協定に反対しておった。 全ての大陸・全ての世界を欲するは、大魔王の欲……ある意味、奴は本物の大魔王道を貫いておる。 だが、それでは我らの立つ瀬がない。 そこで我ら三人の大魔王が協力体制をとっていたが、まさか向こうから攻めてこようとは……な。」
「そ、そんな……バカなぁ……」
そこに大魔王直属の監視役の使い魔の一人が、慌てた様子で『玉座の間』に入ってきて、すぐに大魔王エリュドルスの目の前で跪いた。
「申し上げます!」
「……なんだ……?」
「はっ、大魔王イザベリュータ様が支配する大陸と大魔王ゼン様が支配する大陸にも、大魔王デスゴラグションの部下の上位魔族たちが侵攻を開始したとの報告が入りました。」
「……えっ!!?」
「……ちっ、これは大魔王の反乱だな……」
「ちょっと待ってくれ! ではもう大魔王デスゴラグションが支配する大陸の完全制覇は完了したということかっ!? あの大陸は、もう完璧に魔族が支配する大陸になったということかっ!?」
「いいえ、その様な報告は受けておりません。」
「………」
「バ、バカな! じゃあ何か! 自分が支配している大陸の完全制覇も成し遂げていないまま、余所の大陸の侵攻を開始したというのかっ!?」
「はっ、おそらくその様な推測がなされるかと思われます。」
「な、なんという自己中で身勝手な大魔王なのだ……!」
「………」
この驚愕の衝撃的な事実に、デイラルスは声を大きく荒らげて狼狽しており、大魔王エリュドルスは冷静に受け止めていた。
「了解した。 引き続き監視を続行せよ」
「はっ、了解しました!」
そこで大魔王直属の監視役の使い魔の姿が、そのままフッと消えてしまった。 (※じゃあ来る時にも、なんでそれをしなかったのか? よほど慌てていたから……かな?)
「さて、デイラルスよ。 もうそろそろテミラルスのもとに行くがいい。 現在テミラルスはギドレファナス共和国の方へ向かっている最中だ。」
「はい、判りました。 ただちにギドレファナス共和国へ向かいます。」
そこでデイラルスが踵を返して後ろに振り向いて、そのまま『玉座の間』を出ていった。
「………」
大魔王エリュドルスが俯いたまま、またしばらく考え込む。
やはり来おったか……デスゴラグションめ!
悪魔神の予言書の通りに、奴がここまで来ることは、余も予測していたが……まさか本当にここまで来るとは……な。
ちっ、やはり奴の目的も、ヴァグドーたちと同様に、あの『悪魔神の魂と心臓』が目当てか……?
だがしかし、そうはさせんぞ!
絶対にデスゴラグションなどに、あの『悪魔神の魂と心臓』は渡しはせんぞ!
どうやら今回ばかりは、ヴァグドーや勇者アドーレや悪魔神オリンデルスたちとも協力せねばなるまいか……?
否、それでもなんとかせねばなるまいな!
それが仮に、たとえ彼や勇者や悪魔神や大魔王たちと共闘してでも……なっ!!
遂に余所の大魔王が、この大陸に侵攻を開始したのか?
さすがに寛大な大魔王エリュドルスでも、これには黙って見過ごすことは出来ないようだ。




