207、エネルギー武闘台・無事閉幕
●【No.207】●
エネルギー武闘台の決勝戦
既に試合は終了しており、ヴァグドーも勇者アドーレも、お互いに相手を倒しきることができなかった。 両者共に、全く決定打がない状態である。
勝負は審判団の最終ジャッジに委ね、先程その最終ジャッジも終了して、決勝戦勝者にして、今回のエネルギー武闘台の優勝者が決定する。
最終闘技場の中央には、ヴァグドーと勇者アドーレが並んで立っている。
今回の勝負、ほぼ互角。
お互いに攻めていて、お互いに守っていた。
まだ全てを出しきった訳ではないけど―――
両者の実力は拮抗しており、まさに甲乙つけがたい試合であった。
だがしかし、優勝者はただ一人だけ、審判団の苦渋の選択・決断に苦慮していた。
ヴァグドーは腕組みして、無言で落ち着いていた。
勇者アドーレも目を閉じて静かに、その時が来るのを待っていた。
そして遂に―――
「勝者・アドーレ!」
ここで審判団の代表が右手を前方に突き出し、勇者アドーレの方へ向けた。
その瞬間、今回のエネルギー武闘台の優勝者は、勇者アドーレに決定した。
オオォーーッ!!
ウワァーーッ!!
ざわざわざわ―――
パチパチパチパチ―――
一般観客席からは、歓声・どよめき・驚愕・拍手などの声や音が、一斉に鳴り響いていた。
「おお、勇者アドーレの優勝だぁ!」
「凄いわぁ! 勇者アドーレ様ぁ!」
「う~ん、ヴァグドーさんの方が強そうに見えたんだけどなぁ~?」
やっぱり勝ったのは、勇者であり子爵でもあるアドーレだった。
ここで勇者アドーレが小声で、ヴァグドーに話しかけてきた。
「今回は残念でしたね。 ヴァグドーさん」
「いや、今回はいい経験をさせてもらったよ。 アドーレ」
「……??」
「なるほど、たまにはいいモンだな。 こういう大会に出場するのも」
「……そ、そうですね……ヴァグドーさん」
なんといつもなら、ここでも「じゃな」とか「じゃのう」とか、お爺さん言葉を使ってくるのに、この一瞬だけ、まるで本当にヴァグドーが、ただの二十代男性のような晴れ晴れとした清々しさであったのを、間近にいた勇者アドーレだけが見ていた。
これが本当の素のヴァグドーなのか…?
だけど、勇者アドーレは今見たことを胸の中に、そっとしまいこんだ。
一般観客席の一番後ろの方で立って見ていた勇者アクナルスと悪魔神オリンデルスの二人が話し合っていた。
「……勝ったのは、勇者アドーレか」
「ああ、ヴァグドー先輩もかなり健闘していたけど、やっぱりアドーレ先輩の勝利だったね。」
「だが何故、ヴァグドーは勝利できなかった?」
「全てが互角。 倒しきることもダメージを与えることもできなかった。 完全に決定打がない状態で、あと勝敗を決するに必要な材料があるとすれば―――それは身分の差……」
「……!」
「……アドーレ先輩は勇者にして、子爵の位地にいる。 一方のヴァグドー先輩は、いくら最強無双といっても、ただの一般の冒険者にすぎない。」
「なるほど、ヴァグドーは勇者アドーレを倒しきれなかった時点で、既に敗北していた……か」
「まさに審判団も苦渋の選択・決断したんだろうね? だけど、これでルールある試合の中とはいえ、ヴァグドー先輩が戦闘で初敗北を喫したわけだね。」
「……初敗北……」
「そうそう、ところで悪魔神オリンデルスは、このままヴァグドー先輩たちと同行していくのかい?」
「ああ、そうだね。 ヴァグドーたちと一緒に冒険するのも悪くない。 面白そうだ」
「そうか、それならヴァグドー先輩たちに「よろしく」と伝えておいてくれないか? 自分はもうデュラルリダス王国に戻らないといけない。」
「もうヴァグドーたちに会わないのか?」
「こう見えと意外と忙しい方でね。 きっとデュラルン女王陛下やアロトリス様も待っているだろうからね。」
「そうか、わかった。 では伝えておこう、勇者アクナルスよ」
「ありがとう、それでは失礼するよ。 悪魔神オリンデルスよ」
そう言うと勇者アクナルスが踵を返して後ろに振り向き、そのまま何処かへ立ち去っていった。
そして、悪魔神オリンデルスが勇者アクナルスの後ろ姿を見送る。
はたから見ると、まったく不思議で面白い光景である。
エネルギー武闘台・閉会式
○優勝 :勇者アドーレ
●準優勝:ヴァグドー
特別観戦席からヴァグドーと勇者アドーレのいる最終闘技場の中央まで降りてきたアテナ代表。
連合国統括代表閣下であるアテナ代表から勇者アドーレに、黄金の優勝カップと賞金と副賞の大型船の目録が授与された。
「優勝おめでとうございます。 勇者アドーレさん」
「はい、どうもありがとうございます。 アテナ代表」
また審判団の代表からヴァグドーにも、白銀の準優勝楯と賞金と副賞の???の目録が授与された。
「今回は残念でしたな。 ヴァグドー殿」
「ほっほっほっ、かまわんかまわん。 ワシにとって準優勝も上等じゃよ」
最後にアテナ代表の閉会式の挨拶で締めくくり、こうして今回のエネルギー武闘台は無事閉幕した。
勇者と悪魔神が一緒に観戦するのも珍しい。
やっぱりヴァグドーは心の広い謎の男だった。




