204、最後の決勝戦・バスターC
●【No.204】●
ここで勇者アドーレの八本の黄金の剣がヴァグドーを襲う。
その黄金の剣の剣先が、ヴァグドーの伝説の皇剣【消滅罪の剣】の刀身に触れると、同時に小規模な爆発が起きていた。
ボォン、ボォン、ボォン!
ヴァグドーは盾も持っていないし、鎧も着ていない。
なので剣の刀身で防御する以外に防ぐ方法がない。
まさか生身で防ぐことができないので、回避や後退ができない時には、剣の刀身で防いでいく。
だけど勇者アドーレは、構わず八本の黄金の剣を巧みに操って、剣先の爆発で容赦なくヴァグドーに襲いかかる。
「ふむ、なるほどのう」
「ふふふ、さぁーヴァグドーさん! 一気に行きますよ!」
なおも勢いづく勇者アドーレと、何かを考え込みながら対処するヴァグドー。
「ほっほっほっ、なるほどなるほどのう。 彼にも通用するか否か、ひとつ試してみるか」
「……??」
そこでヴァグドーが、八本の黄金の剣の猛攻をかいくぐり、またもや猛烈に全速力をもって、突然走り出した。
ダッダッダッ!
「……っ!!?」
「行くぞ!! アドーレよ」
「ですが、行け! 黄金の剣よ!」
「むっ、来るか!?」
ガギィ、ガギィ、ガギィーーン!
ここでヴァグドーの素早い動き・走りにプラスして、左手に持った伝説の皇剣【消滅罪の剣】の刀身で、襲いかかる黄金の剣を次々と叩き落としていく。
ここまでは前回と同じ動きだが、ひとつだけ違う動きをしていた。
それがヴァグドーの右手の動きである。
ヴァグドーの右手、何かを持っていた。
ダッダッダッ!
ヴァグドーの高速の走りは、あまりにも速すぎる為に、八本の黄金の剣でもヴァグドーの動きを捉えることができず、ヴァグドーを襲うこともできずに、遂にヴァグドーの独走を許す。
このまま一直線に勇者アドーレに攻撃可能な距離まで、一気に駆け上がるのかと思ったけど―――
ダァッ、ブゥン!
なんと突然ヴァグドーが、ある程度まで勇者アドーレに近づくと、右手に持ってた剣を勇者アドーレの胸部めがけて投げつけた。
「ふん!」
「……っ!!?」
ガキィーーン! グサリ!
とっさに勇者アドーレが伝説の皇剣【磨羯龍の剣】の刀身で、ヴァグドーが投げつけた剣を弾き飛ばし、その剣は勇者アドーレの近くの地面に剣先が突き刺す形で立っていた。
「こ、この剣は……っ!!?」
「…ふっ…」
勇者アドーレがこの剣を見た瞬間、あまりのことに驚愕して硬直した。
また一般観客席に座って観戦していた、カグツチやテミラルスやニーグルン姫たちも、あの剣を見た瞬間、動揺してざわついた。
「あ、あの剣は……師匠の禁断の魔剣……ではないか?」
「そういや、ここ最近使ったところは見てなかったわね。 ヴァグドー」
「遂にヴァグドー殿がアレを使用しましたか?」
「まぁ、相手が勇者アドーレ様では仕方ありませんわ」
お久しぶりに使用した、あの剣に対して、それぞれが感想を述べている。
それと一般観客席の一番後ろの方で立って観戦していた、あの勇者アクナルスでも、あの剣を見た瞬間、凄くビックリしていた。
「あ、あの剣は……ヴァグドー先輩は、遂にあの剣を……?」
「……??」
一方の隣にいた悪魔神オリンデルスは、一体なんのことなのか、疑問でしかなかった。
「あの剣が、一体なんだと言うのだ? あの剣が……?」
「あの剣は……魔蛇の剣……だよ」
「な、何ぃっ!!? あの剣が魔蛇の剣……だとぉっ!!?」
「ああ、正確には……伝説の皇剣【八魔蛇の剣】だけど……ね。」
「な、何ぃっ!!? 八魔蛇の剣……だとぉっ!!? バカな……あの剣は人間では扱えないはずだぞぉっ!!?」
「そう、ヴァグドー先輩以外の人間には扱えないのさ」
「……!」
ここで悪魔神オリンデルスも驚愕して絶句する。
それにしても驚くべきは、ヴァグドーだけが装備できて、使用頻度も少なかった、あの "魔蛇の剣" を使用してきたことだ。 限られた者にしか装備できずに、使用できる戦闘も制限されてきた剣で、実際には、拳などの肉弾戦を好むヴァグドーにとって、活躍する場面があまりなかった剣である。
この魔蛇の剣も、実は伝説の皇剣【八魔蛇の剣】であった。
もっとも、この事実はヴァグドーをはじめとするヴァグドーたち一行なら知らない者はいない程、既に周知されている。
その伝説の皇剣【八魔蛇の剣】を、ヴァグドーは勇者アドーレに対して、遂に使用してきたのだ。
動揺する勇者アドーレは、剣先が地面に突き刺さった魔蛇の剣を見て、少し考え込む。
こ……この剣の能力は……「特殊な蛇の鎖」で縛り付けて固定して、そのモノの動きを止めること……。
「ま……まさか……っ!!?」
「そう、そのまさかじゃ。 伝説の皇剣【八魔蛇の剣】よ。 黄金の剣の動きを止めよ。」
ドサドサドサドサッ!
ここで勇者アドーレの八本の黄金の剣が、空中から地面に落ちてきて、まるでガラクタのように動かなくなった。
よく見ると、八本の黄金の剣が紫色の蛇の鎖に巻き付けられた様に、思うように自由に動けないようだ。
「ほっほっほっ、これでもう黄金の剣での【ストリンガー・ドラグーンソード】は使えまい。 アドーレよ」
「……!」
魔蛇の剣の能力によって、八本の黄金の剣は地面に固定されてしまい、これで勇者アドーレは黄金の剣が使用不可能になってしまった。
ちなみに魔蛇の剣も能力発動中は使用不可能である。
真顔で勇者アドーレがヴァグドーのことを見つめながら思った。
見事です!
確かに今までは、ただ単に最強なだけだと思っていたけど、そうではなかった。
真の最強とは、あらゆる攻撃に対して、いかに防御・回避・後退できるか、だと思っていた。
ヴァグドーさんはこの旅で、既にそれを身につけてきた真の最強です。
これは称賛に値します!
だがしかし、だからといって勇者アドーレはヴァグドーに勝利して、大会に優勝することを諦めてはいなかった。
これまで左手だけで闘ってた意味がこれで判りましたね。
また右手はお留守になったけどね。
でも闘いはまだまだこれからです。




