16、重厚なる者
●【No.016】●
ワシは夜になって、再び街の外に出ていて、例の "地獄の沼" の所まで来ていた。
さらに出会ったばかりの美少女剣士カグツチも、ワシの後をついて来ていたのじゃ。
どうしてもワシと一緒についてくると言うので、せめて「ワシの邪魔だけはするなよ」と、警告しておいたのじゃ。
夜の "地獄の沼" という所は昼間にはなかった、異様な雰囲気と何とも言えない緊張感と異常なまでの恐怖感を、漂わせていた。
夜なので沼の周辺は当然暗いのだが、沼の奥の方で何かが動いている感覚があり、二つの赤い光がこちらの方を見ている感じであった。
ヴァグドーの後ろにいるカグツチが、恐怖で身体をブルブルと震わせながら、話しかけてきた。
「ほ…ほ、本当に戦うつもりなのか…?」
「無論じゃ! わざわざここまで来たのじゃ! ならば、その凶悪なモンスターとやらを、倒したいとは思わないのか!?」
「………うぅっ くっ」
カグツチは最早、半泣き状態であった。
「おい、恐いのならば、街の中に入っておれ!」
「そ、そういう訳には…いかない…のだ…! ヴァグドー… あんたの強さを見るまでは…!」
「ふん、ならば勝手にせい!」
すると突然、
「グゴゴオオオォーーッ!!」
…と、大きな唸り声がした。
「………何っ!?」
「…むむっ 現れたか?」
夜の "地獄の沼" の奥の方から、非常に不気味な姿をした化物が、遂にその姿を現してきた。
赤い瞳の蟹のような巨大で紅いハサミを両手に持ち、漆黒の鋼鉄をまとった身体の恐竜のような化物の姿をした、全長も巨大な凶悪なモンスターであった。
「グゴガガアアーーーッ!!」
「…こいつ! この化物から物凄いパワーを感じるぞ!!」
「ふう、なんじゃ… この程度のパワーなのか? あまり強くはないようじゃがな…」
「えっ!? こんなに凄い化物なのに……か?」
「ふん、ほれ、早く構えろ! ヤツが攻撃してくるぞ!」
「は…は、はい!!!」
カグツチは震える両手で赤い剣を抜き取り、恐竜のような化物の方に向けて構えていたのだが、両手が震えているので、剣も一緒に震えていた。
「……はぁ~~……」
それを見ていたヴァグドーは、思わずため息をついた。
「お前さんはワシの後方支援だけをするのじゃ。 前に出るなよ、邪魔じゃからな。」
「わ、わかったよ」
恐竜のような化物は蟹のような巨大なハサミの右手で、ヴァグドーの胸めがけて攻撃してきた。
《巨蟹黒竜》
蟹ハサミ両手の漆黒の身体の巨大な恐竜(化物)で、ハサミで攻撃する。 レベル:88
巨蟹黒竜の右手のハサミがヴァグドーの胸を貫くのかと思ったが、ヴァグドーは左手だけでそれを受け止めた。
ヴァグドーは右手の手刀で、巨蟹黒竜の右手のハサミを切断した。
ザァン!
切断面から黒い液体がドバーッと出ていた。
「グガア…グゴオオオ」
慌てた巨蟹黒竜は今度は左手のハサミで、ヴァグドーの胸めがけて攻撃してきた。
ヴァグドーは【氷結の剣】を取り出して迎え撃ち、巨蟹黒竜の左手のハサミを凍結させた。
ピッキィン!
ヴァグドーの姿が一瞬消えた。
次の瞬間、ヴァグドーは巨蟹黒竜の左頬の所に突然現れて、右足の回し蹴りで攻撃した。
ドゴォン!
鉄脚一発!!
巨蟹黒竜は白眼を剥いて、その場に倒れた。
巨蟹黒竜はまるで蟹の様に、口から泡を吹いて気絶していた。
巨蟹黒竜の戦意喪失。
ヴァグドーは巨蟹黒竜に見事、勝利した。
ヴァグドーがあまりにも、あっさりと倒してしまうので勘違いしがちだが、先の巨紅龍や巨蒼龍同様にこの巨蟹黒竜も本来ならばとてつもなく強く、とても人間の力で勝てる相手ではないのである。
そう、あまりにもヴァグドーが強すぎるのだ!
「ふう、まぁ、こんなモンかの。」
カグツチはこの一部始終の出来事に無言でポカーンとしていたが、ヴァグドーが後ろを振り向くと、いつの間にか土下座をしていて、
「お願いです! ヴァグドー師匠! どうか私を弟子にして下さい!」
…と、ヴァグドーにお願いをしていた。
「……はぁ?」
ヴァグドーは唖然としていた。
絶望老人、ヴァグドーに仲間が…?