165、『天衣無縫』:5
さしずめ第2関門ってところかな?
●【No.165】●
ヴァグドーたち五人『天衣無縫』パーティーは、次の直線だけの通路をそのまままっすぐ歩いていた。 この通路も直線だけしかなく、分かれ道はおろか曲がり道すらない。 一見して、全く道に迷わずにすむけど、はっきり言ってほとんど手抜きである。
まあ、ワシは別に構わんぞ。 まっすぐでも手抜きでも最後まで辿り着けさえすればのう。 それに簡単で良い。 なんと…ここでも、大型の漆黒のカラスの集団が見当たらない…? これは一体どういうことなのか…? 訳が解らんが、ここは注意深く行動した方がいいな。
そこでヴァグドーたち五人『天衣無縫』パーティーがしばらくの間まっすぐ歩いていると、また比較的に広く明るく何もない空間が現れてきた。 勿論だが、今回も壁だけしかなく出口がない。 今度はようやくこの部屋中に、大型の漆黒のカラスの集団がカァーカァー鳴きながら飛び回っているようだが、それ以外は特に何もしてこない。
そこでヴァグドーたち五人『天衣無縫』パーティーが、その広く明るく何もない空間(部屋)の中に入って内部を見渡した。
その部屋の奥の方では、上半身が裸で褐色の肌に筋肉が極限までに鍛え上げられた肉体美と黒いズボンを履いた、長身の謎の男性が立っている。
「…なっ!?」
「…ちっ!!」
「…おっ!?」
まるで見せつけるように、変なポーズを決めている上半身が裸の長身の男性の名前をミスターカラスポーンと言う変な奴で、突然…なにやら話しかけてきた。
「ふふふ、ようこそ人間諸君。 おやおや、何故か大魔王も混じっているようだが、まあいい。 私の名前はミスターカラスポーンだ。 もう判っていると思うが、私を倒さない限り先へは進めないぞ。」
「………」
勇者アドーレや大魔女シャニルたちは、いちいちツッコむのも面倒なので無言で聞き流した。
「ふむ、お前さんが次の相手なのか? ならば引き続きワシが相手になろうか」
唯一ヴァグドーだけが真面目に普通に答えた。
ここでワシが、また前に出てきた。
当然じゃが、こやつもワシが戦うぞ。 何故かこやつはワシと同じ匂いがするからじゃ。 あの肉体美がどの程度のものなのか、見極めてやろうぞ!
「おやおや、こいつは驚いた。 まさかあんただけなのか? この私と戦うのは?」
「無論じゃ。 このワシだけで十分じゃよ」
「ふふふ、余程身の程知らずと見た。 まさか先程のミスカラスレディとの戦いで自信がついたのなら、それは大きな間違いだぞ。」
「ほーう、一体何が違うんじゃ?」
「勿論、あんな小娘よりも私の方が何十倍も強いからだ。 あんな小娘ごときに苦戦するようでは、話にならんぞ。」
「ほーう、それは楽しみじゃ。 このワシはまだ "苦戦" というものをしたことがないんじゃ。 ぜひしたいものじゃな」
「バカめ、そんなに死にたいようだな!」
「ほーう、お前さんにワシが殺せるかの?」
「ふふふ、そんな強がり言って後悔するなよ。 人間よ」
「では参ろうかの」
ここでミスターカラスポーンが攻撃する構えで臨戦態勢になった。
一方のヴァグドーはただ立っているだけで、勇者アドーレや大魔女シャニルたちも後方で待機・見学している。
「よーし、行くぞ! 人間!」
ここでミスターカラスポーンが勢いよく地面を蹴って、ヴァグドーの前まで急接近して、右拳で素早くヴァグドーの顔面を殴りつけた。
タッ! バキッ!
だがしかし、ヴァグドーは怯むどころか微動だにしない。
「な、何っ!? ば、バカな!?」
その後もミスターカラスポーンがヴァグドーの身体のあちこちを殴ったり蹴ったりしたけど、ヴァグドーは無言で全くびくともしない。
バキッ、ドカッ、ズドッ、ゴーン!
もう疲れたのか、ミスターカラスポーンが攻撃をやめてしまった。
「…はぁ…はぁ…はぁ……そ、そんなはずがぁ…っ!?」
「ん? もう終わりか? 遠慮せんでどんどん攻撃してこい!」
「な、何っ!? ちくしょう!!」
そこでミスターカラスポーンが再度、右拳を素早くヴァグドーの顔面に叩きつけた。 だがしかし、やっぱりヴァグドーは微動だにしなかった。
バキッ!
「……っ!!?」
「やはり…お前さんもこの程度か…?」
するとここで、ヴァグドーがアッパー気味のボディーブローをミスターカラスポーンの腹部に叩きつけて、続けて左肘をミスターカラスポーンの顔面に叩きつけた。
ズドォン、バァキィッ!!
「ぐがあああぁーーーっ!!?」
そのままミスターカラスポーンが後方にある壁まで吹っ飛ばされてしまい、そのままの勢いで壁に激突、壁は大破して瓦礫は消えてしまった。 ミスターカラスポーンは前のめりに倒れて気絶した。
ドッゴォーン!! スゥッ!
そこで出口と次の通路が現れた。
「ふむ、どうやらこれで先に行けそうじゃな」
「はい、そのようですね。」
「それじゃあ、先へ急ぎましょう」
「ああ、そうだな」
「やはり…この程度では参考にならんな。」
その時、大魔王が小声で何か呟いていた。
こうして、ヴァグドーたち五人『天衣無縫』パーティーは、その出口から次の通路に向かって歩き出した。
所詮はただの兵士……主人公の敵ではなかった。




