161、『天衣無縫』:1
次の舞台は『アロトリス』からヴァグドーたちへ。
●【No.161】●
―デュラルリダス王国―
大きなお城の『アロトリス』から出て、
この街の家の屋根を飛び跳ねながら、デュラルン女王様をさらった誘拐犯を追いかける。
この大魔王エリュドルスという男性が追いかけながら言う。
「…まさか…この余に見逃しがあったとは…。 確かに…悪魔神の信者は全て抹殺したはずなのだが、あの『悪魔神の予言書』などに頼るべきではなかったようだな。」
そこで大魔王が、少し考え込んでからまた言う。
「…まさか…別の悪魔神の信者ではあるまいな。 確かに…『悪魔神の予言書』には、なにやら "三大悪魔神" などと表記していた部分があったが、余は悪魔神トニトリエクルスのことしか、注意していなかった。」
そのまま大魔王が考え込みながら、それを口にして言う。
「…まさか…何処かで誰かが、他にも悪魔神の存在を知っていて、そこから信者が誕生して、別の悪魔神を復活させようとしているのか? ただでさえ、もう悪魔神トニトリエクルスが復活寸前なのに、他にも悪魔神を復活させようというのか?」
そこで大魔王が、だんだんと怒りの沸点を高めてきた。
「…おのれ…許さんぞ! この余が何十年もかけて仕上げてきた "この世界" を! それを何も知らずに…ただ興味本位で悪魔神を復活させて、"この世界" を消滅させようとする、無能でマヌケな信者共め!」
そして、握りしめた拳をさらに力強く握りしめ―――
「この大魔王エリュドルスが全力で阻止してやるぞ!」
ここでさらに速度を上げて、その誘拐犯を追いかける大魔王エリュドルス。
その後方では、同じくデュラルン女王様をさらった誘拐犯のあとを追う、ヴァグドーグループ(ヴァグドー、勇者アドーレ、レイドルノ、大魔女シャニルの四人)が、家の屋根を飛び跳ねながら、もの凄い速度で追いかけてる。
その四人が追いかけながら、話し合っている。
「ちっ、意外と速いな」
「やれやれ、誘拐犯はただ者ではないようじゃな。 これだけ速く追いかけとるのに、全然追いつけぬわ。」
「はい、ですが…邪悪な気配は消せません。 いくら速く逃げようとも追跡できます。」
「ふっ、それは便利だな」
「さっさと、追いついて捕まえてボコって、早く女王様を取り戻して、パーティーの続きがしたいわねぇ~♪」
「ふむ、そうじゃな。 じゃが、決して油断してはならぬ。 "油断大敵" と言うように、油断は最大の敵なんじゃよ。」
「はい、そうですね。 心得ました。」
「はぁ~ 相変わらず堅苦しいわねぇ~ そんなの油断する間もなく、すぐやっつけちゃえばいいんじゃない?」
「ふっ、先程まで油断して気絶した者の言う台詞ではないな。」
「むぅ、何よ! あなただって、油断してたじゃない!」
「ふん! 余計なお世話だ!」
「お二人共、少しは落ち着いてください。 現在は追跡中ですよ。」
「むぅ~~」
「……ふん」
「……ふむ、感じてきたぞ。 だんだん近づいてきておる。」
するとここで、ヴァグドーグループの向かってる方向の、さらに先の方では、ようやく大魔王エリュドルスの後ろ姿が、少しだけ小さく見えてきた。
一方の大魔王は、もうすぐ街を抜け出し、この広大な森の中に入ろうとしていた。 どうやら誘拐犯のアジトも、森の奥の方にあると見ている。
「ほーう、あのまま森の中に入るのかの? まぁ…森はワシにとって、最も得意な戦場じゃがな。」
勿論、ヴァグドーは全ての戦場が得意である。
「…えっ、そうなのか? ヴァグドー公よ」
「ふむ、今まで数多くの森に行っておるからのう。」
「そう言えば…ヴァグドーちゃんは森の中で、修行してたんだよねぇ~ 99年間も……」
「確かに凄いことですよ。 全く頭が下がる思いですね。」
「それはまた…凄いな。 確かに真似できないけど、何故99年間も森の中で……?」
「ふむ、それは転生先が森の中じゃったからのう。 本当は…もう少し森の中で修行するつもりじゃったが、突然ドラゴンが現れての。 あれがひとつの契機じゃったわい。」
「へぇ~ そうなのぉ~」
「………」
「そう言えば…あのドラゴンに襲われたとされる、あのアーラントの町は、見事復興できたであろうか…?」
するとそこで―――
「…あっ、大魔王が森の中に入りましたよ。 やっぱり森の中にあるようですね。」
「よーし、飛ばすぞ!」
「はーい、了解~」
「ふむ、行くぞ!」
「はい、判りました!」
「このワシが森での戦い方を見せてやるわ!」
そのヴァグドーが最も得意と豪語する森フィールドの中に、四人が今まさに入ろうとしており―――
どうやら先行している大魔王の方は、その卑劣な誘拐犯のあとを追って、既にこの広大な森の中に入っていった。
果たして、大魔王やヴァグドーたちは、誘拐犯に追いつくことができるのか!?




