157、前夜祭:2
今回は大魔王視点である。
でもまあ、よくも大魔王が普通に人間のパーティー会場にいるものだな。
●【No.157】●
―デュラルリダス王国―
◎「王族の街」◎
その大きなお城の『アロトリス』のある広大な某フロアを使用して、そこを前夜祭のパーティー会場にしている。
ヴァグドーたち一行や久しぶりに会った、その知り合いたちがパーティー会場のある一部の場所に集合して、なにやら雑談している。
一方で、そのパーティー会場の一番端の隅の方には、なんと…あの大魔王エリュドルスが二人のお供を引き連れ、静かに佇んでいた。
まず一人目のお供がAクラスの爵位を持つ、上位魔族のデイラルスである。 デイラルスは深紅のパーティードレスを着て現れている。 それから大魔王からの信頼度がかなり高く、お気に入りである。
次に二人目のお供がAクラスの爵位を持つ、上位魔族のギロリルスである。 ギロリルスは身長が異常に高く、全身を白銀の鎧兜で包み込み、顔がまったく見えない。 それから大魔王への忠誠心が非常に高い。
肝心の招待客でもある大魔王エリュドルスの容姿とは、今回だけは白いフード・ローブ・マントを身につけており、当然だが、顔が見えない。
今回の大魔王エリュドルスが、この二人をお供として、デュラルン女王様のお誕生日パーティーに連れてきている。
その大魔王エリュドルスが、無言で静かにヴァグドーのことを見つめていると、急にギロリルスが話しかけてきた。
「主よ、アレがヴァグドーなのですか?」
「ああ、そうだ」
「正直…何も…特に変わった様子が見られない…普通の人間のように見えますが…?」
「……」
「まったく…強そうには見えませんが、彼が人間の中では一番強い男なのですか?」
「ああ、そうだ」
そこにデイラルスも会話に参加してきた。
「彼はとっても強いわよ。 私は強い男がとーっても好きだけど、彼だけは格別ね♪ まったく次元が違うわ♪」
「ほーう、なるほどな。 汝ほどの女子が人間の男をそこまで評価するとは、やっぱり相当なものなのだな。」
「あら、あなたは違うの?」
「んー、そうだな。 我が今まで知っている人間の中では、やっぱり彼女が一番強いと思うのだが……な。」
「……彼女……?」
「…それは…勇者マイカのことか? …ギロリルスよ」
「はい、主よ」
今度は大魔王エリュドルスがギロリルスに質問してきた。
「…勇者マイカ…? 誰ですか、その人は…?」
「それは先代の勇者のことだ。 当時の主……つまり大魔王エリュドルス様が対峙した中では、既に他と並ぶほどがないほどの最強ぶりで、まさに国士無双であった。」
「ああ、そうだな。 外見がか弱きただの乙女に見えたけど、その強さは桁違いの力を見せた本物だったな。」
「へぇ~ そんな凄い人がいたんですね。 それで現在は何処にいるのですか?」
「…行方不明だ……詳細は不明で…噂では別の違う世界に行ったとも言われている。」
「…えっ、それって…人間の力で他の世界を行き来できるのですか?」
「ああ、そうだな。 彼女には『アカシックレコード・ロイヤルカード』という特殊なアイテムがある。 それがあれば…色んな世界を移動することが可能だろうな。」
「へぇ~ そんなに凄いんですかぁ~?」
「相変わらず、汝は何処か他人事だな。 あまり彼女には興味がないのか?」
「ああ、そうだぞ。 現在の勇者が、一体どの程度強いのか…よく知らないけど、やっぱり当時の勇者マイカが歴代最強であろうな。」
「……ん!」
そこで勇者アドーレと大魔王エリュドルスの目が合った。 普通はあり得ない構図である。 普通の一般的なRPGでは、勇者と大魔王の対峙・対面場所はほぼ最後・最終局面であろう。 それがよもや、女王様のお誕生日パーティーのパーティー会場で出会うなど、まったくの異質である。
確かにお互いに目が合ったけど、特に何も起こらない様子である。 双方共にこのような前夜祭のパーティー会場で、別に何か起こそうという気はないらしい。
するとそこに―――
「あっ、女王様のお出ましですよ!」
デイラルスがある方向を指差して声を上げており、それに気づいた大魔王が勇者アドーレから目をそらし、デイラルスの指差した方向を見てみると―――
「ほーう、なるほどな」
「ホント、綺麗で美しいですよね!」
「んー、まさに見事だ」
遂にデュラルン女王様と『アロトリス』が現れた。
ざわざわ、ざわざわ
なんと…デュラルンの登場に、周りにいた王族や貴族たちも興奮気味に騒ぎ始めていた。
そのデュラルンの容姿がとても凄かった。 前夜祭にもかかわらず、白色・蒼色・紺色の三色からなる豪華で美しいドレスを着て、白銀のティアラや真紅のネックレスや黄金のブレスレットなどを身につけ、高価で綺麗なハイヒールを履くなど、まさに女王の名にふさわしい派手な格好をしている。
一方の『アロトリス』の容姿は、紺色のシンプルでシックなドレスを着て、さすがに派手さを抑えている。
早速だが、デュラルン女王様がヴァグドーの前まで、ゆっくりと歩いて近づき―――
「早速ですが、私と一緒に踊ってくれませんか?」
「ふむ、そうじゃな」
そう言うと、ヴァグドーがデュラルンの手を取り、美しい音色の落ち着いた演奏が流れる中、パーティー会場の中央では二人が向き合い踊り始めた。
ちなみにだが、テミラルスとデイラルスは姉妹なのに、一切目を合わせていない…? この姉妹に何かあるのか…?




