153、走る鉄の箱の中で
現在、最終目的地に接近中!
●【No.153】●
―デュラルリダス王国―
◎「商売の街」◎
案内役だった勇者アクナルスや妄唇将軍とは、既に別れており、ヴァグドーたち一行が再び11人に戻り、そこから新たな案内役として、メイドのディアナが加わった。
次の街に行く為の三ヶ所に分かれた大きな関所。
右側にある関所には、その次の街である「獣人族の街」まで行くことができて、主に獣人たちが多く暮らしている。
中央にある関所には、その次の街である「貴族の街」まで行くことができて、主に貴族たちが多く暮らしている。
左側にある関所には、その中に『特別急行鉄車』と呼ばれる紺色の電車みたいな乗り物が停まっており、『銀の招待状』を所持している者しか乗車するができない。 一度乗ってしまうと、最終目的地であるお城の『アロトリス』まで降りることも停まることもない。
まさに『特別急行』である。
ちなみに今現在の乗車客は、ヴァグドーたち一行以外にいないようで、それぞれが『特別急行鉄車』の中にある座席を適当に座り、最終目的地であるお城の『アロトリス』に到着するまで寛いでいるけど、もの凄いスピードで走っている。
そのとある座席では―――
「これは…また変わった乗り物だよな。」
「私もこんな乗り物、初めて乗りましたよ。」
「へぇ~ こんなデカイ箱が走るとはねぇ~♪」
「これがデュラルリダス王国に伝わる噂の『鉄車』ですか?」
「はい、そのようですね。 姫様」
「ふーん、人間もなかなか面白いモン作るじゃないか。」
「へぇ~ 走る鉄の箱ねぇ。 いい記念になったわね。」
「うん、そうだね。 アルラトス」
などとカグツチやニーグルン姫たち八人が、この珍しい乗り物に若干興奮気味である。
一方の別の座席では―――
「…」(これ、電車よね?)
「…」(ええ、電車ですよね?)
「…」(ふむ、電車じゃの)
などとヴァグドーや勇者アドーレや大魔女シャニルの三人が、無言で冷静にそれぞれアイコンタクトをとっている。
その様子を見ていて、向かい側に座っている案内役のメイドのディアナが、ヴァグドーたちに話しかけてきた。
「これは…この乗り物はアロトリス様が設計・製作した乗り物で、アロトリス様の前世の記憶を呼び起こして造ったそうです。」
「…っ!?」
「…何…?」
ヴァグドーと勇者アドーレの二人が、そのディアナの発言に驚いている。
「その乗り物の名前は…確か… "電車" …ですね」
「…っ!?」
「この王国には… "電気" があるのかっ!?」
「いいえ、ありません。 この乗り物には、原理や方法などは企業秘密ですが、ある魔法で動いております。」
「やはり…知っておったか」
「…と言うことは…『アロトリス』さんも…もしかして……」
そこで大魔女シャニルが真面目に答えた。
「ええ、そうよ。 私たちと同じ『日本の転生組』よ。」
「「……」」
そこでヴァグドーと勇者アドーレの二人が言葉を失う。
まさか…いや…まさかと思ったが…やっぱり…そうだったのである。
おそらく…『アロトリス』も "転生者" であり…もしかしたら…本当に日本人…なのかも?
これでヴァグドー、勇者アドーレ、大魔女シャニル、レイドルノ、勇者アクナルスに『アロトリス』の六人が "転生者" であると思われる。
「ふむ、シャニルよ。 お前さんはアロトリスのことを知っておるのか?」
「えぇ、そうねぇ。 おそらく…私の知ってる彼女なら…その通りだと思うわぁ。」
「……?」
「なんじゃと!?」
この大魔女シャニルの意味深長の言い回しに、ヴァグドーや勇者アドーレの二人が、なにやら不可解に思っていた。
そこに今度は―――
「ダーリン、ヤッホー♪」
「ヴァグドー様、どうもです」
「師匠、この乗り物…凄く速いですよ。」
などと言いながら、カグツチたちがヴァグドーたちが座る座席まで近づいてきた。
「ふむ、そうじゃな」
そのヴァグドーがそう言いながら、車窓から外を眺めていると、するとそこで―――
「もうまもなく、お城の『アロトリス』に到着します。」
と案内役でメイドのディアナが、乗車客であるヴァグドーたち一行に声をかけてきた。
「…着きましたか…」
「ふむ、そうかい」
「は~い、了解~♪」
「はい、判りました」
こうして、ヴァグドーたち一行を乗せた『特別急行鉄車』が「王族が暮らす街」の中にあるお城の『アロトリス』の手前で停止して、無事に到着することができた。
【備考・参考】
1.「企業秘密」とは、この異世界でも普通に使用されている言葉で意味も同じ。
2.『特別急行鉄車』とは、日本の電車・列車をもとに造られた「紺色の鉄の箱」の乗り物で、複数台存在する。 走る速度は時速およそ、約250キロ以上は出ており、凄く速いのだ。




