152、最後の関所
ようやく、ここまで来たか。
●【No.152】●
―デュラルリダス王国―
◎「商売の街」◎
翌朝、ヴァグドーたち一行が宿泊していた温泉宿から出てきて、勇者アクナルスの案内で、そのまま次の街に入る為の関所の方まで向かっていった。
次の関所まで歩いている道中で、勇者アクナルスがなにやら少し微笑んでいる。
「―――フッ」
それを見ていて不審に思ったヴァグドーが話しかけてきた。
「一体何がおかしいのじゃ?」
「……?」
「おっと、これは失礼。 次の街のことを思って、ついつい…とね―――フッ」
「次の街…じゃと?」
「次の街は…些か、厄介な街でな。 この俺も正直…あまり行きたいとは…思わない街なんだよ。」
「……?」
「まぁ、行ってみればわかりますよ。 先輩」
「…何…?」
「……」
などと話し合いながら歩いていると、次の街に入る為の関所に到着していた。
「…ん? なんじゃ…こりゃぁ…?」
なんと…今度の関所は今までよりも大きく…しかも三ヶ所に分かれていた。
勇者アクナルスがまず右側にある関所を指差して―――
「あっちが獣人族が暮らす獣人族の街。 こっちが貴族共が暮らす街。 どっちに行っても、最終的には王族が暮らす街まで到着できる。」
「ほーう、そうかい」
「どっちも厄介な街なのさ。」
右側にある関所には、次の街の…「獣人族が暮らす街」に行くことができ、中央にある関所には、次の街の…「この王国の貴族が暮らす街」に行くことができる。 どの街に行っても、さらに…その次の街である「王族が暮らす街」まで到着することができるのだ。
「ならばあっちの関所は一体何なのじゃ!?」
そう言って、ヴァグドーが左側にある関所を指差していた。
「あぁ、あれは―――」
ヴァグドーの疑問に勇者アクナルスが答えようとすると、その時…左側にある関所から、"ある女性" が出てきて、まっすぐヴァグドーたち一行の方に歩いて近づいてきた。
「お待ちしておりました。 ヴァグドー御一行様ですね。」
「…メイド…?」
「…メイド…さん…」
「…ん? なんじゃ…お前さんは…?」
「はい、私はデュラルン様の専属メイドの一人、"ディアナ" と申します。 ヴァグドー御一行様をお迎えにきました。」
「……」
「…何…?」
そこにデュラルン女王様のお付きの専属メイドの一人で、紺色のメイド服を着ている "ディアナ" と言う名前の美女が現れていて、ヴァグドーたち一行に話しかけてきた。
「…何故…どうして…このワシが "ヴァグドー" じゃと…わかったのじゃ…?」
「ふふふ、ご自分ではあなた様が、今どれだけ有名なのか、ご存知ないようですね。」
「……」
「なんじゃと!?」
そこでヴァグドーたち一行が黙り込んでしまった。
「様々な国々を旅するお爺ちゃんみたいな親しみやすさに、20代の鋼の肉体を持ち、それに…あのヴァグドゥルス様にお顔がとても似ております。」
「……」
「そして、その禍々しい極悪な気配……デュラルン様だけでなく、アロトリス様もお好きなタイプと思いますよ。 ふふふ」
「……」
さらに勇者アクナルスもすっかり黙り込んでしまった。
「なので一発で判りました。 ようやく来ましたか…と」
「……ちっ!」
「そ…そうでしたか、それはどうもです…。」
「ふ~ん、なるほどねぇ~♪」
「……不覚……」
思わずヴァグドーが口にしてしまった。 その「不覚」と言う言葉を―――
彼の正直な気持ちが思わず言わせてしまった。 だがしかし、一体何がなんで…「不覚」なんだろうか…?
「ふふふ、それではヴァグドー御一行様には、左側の関所の方を通ってください。 この関所は一直線で「王族が暮らす街」まで行くことができます。」
「…何…?」
「それは本当に良かったですね。 これで厄介な街に行かずにすんで……」
ここでディアナがヴァグドーたち一行を左側の関所の中まで案内するのだが―――
「どうやら我々はここまでのようです。 ヴァグドー様」
「先輩方、俺たちはここで一旦お別れですな。」
そこで案内役だった勇者アクナルスと妄唇将軍がヴァグドーたち一行にお別れの挨拶をしてきた。
「…えっ、そうなんですか?」
「あらら~ そうなの~?」
「…むっ、そうかい…」
「あぁ、これからはそのディアナと言うメイドが案内してくれるだろうし、俺たちはその左側の関所には入れない。」
「はい、残念ですが、ここで一旦お別れですな。」
「そうか、では達者でな」
「はい、また会いましょう」
「また…のちほどお会いましょう。 先輩」
「では行きましょうか」
そう言うと、案内役の勇者アクナルスや妄唇将軍とは、ここで一旦お別れして、ここからはメイドのディアナが案内することになり、早速だが、ヴァグドーたち一行が左側の関所の中に入っていった。
「…ん? これは…?」
「はい、これで一気にお城『アロトリス』まで行きますよ。」
「ほーう、そうかい」
「へぇ~ 楽チンね~♪」
「はい、判りました。」
ここには『特別急行鉄車』と呼ばれる『鉄の長い箱でできた車』が停まっており、この中に案内役のディアナやヴァグドーたち一行が乗り込むと、そのまま『特別急行鉄車』がお城の『アロトリス』の方に向かって走り出した。
どうやら新たな乗り物でお城まで行くようだな。




