151、ある満月の夜の温泉:1
●【No.151】●
―デュラルリダス王国―
◎「商売の街」◎
今夜も勇者アクナルスの案内で、ヴァグドーたち一行が近場の温泉宿に宿泊するようだ。
今回は大広間の複数の部屋を間借りして、女性陣が二部屋分 (実際には部屋同士が繋がってる)、男性陣が一部屋に分けて宿泊することになった。
早速だが、この温泉宿のご自慢の温泉から入浴することにした。 ヴァグドーたち一行の中で勇者の二人を除いた全員が、大浴場の方に向かっていった。
当然だが、脱衣場は男女別であり、ルドルス将軍や妄唇将軍たち男性陣が室内男湯の方に向かい、ヴァグドーだけが混浴露天風呂の方に向かっていった。
「ほーう、これは…なかなか広いものじゃのう。」
混浴露天風呂の方は、なかなか広くて景色も良く、かなりの全裸の男女が一緒に、既に入浴しているようだ。
ざわざわ、ざわざわ
全裸の男女が裸の付き合いみたいに、楽しそうに気持ち良さそうに、温泉に入浴していて、すぐ外の夜空では夜の闇ですっかり暗くなっているけど、満月の光に照らされて、混浴露天風呂は明るく…なかなか風情があって良いものだな。
「ふーう、ここもなかなか…いい湯じゃないか! これは骨身にしみるのう!」
その中にあって、ヴァグドーだけが一際目立つ。 彼の究極の鋼の肉体は…とても筋肉質で…形、色、艶、ハリなどが強烈に凄く…まるで…ベテランの漫画家が筋肉質の主人公を上手に描いたかのように、または天才彫刻家が男性の身体の筋肉質を上手に彫り上げたかのように―――とても美しい。
さらには、今まで…あれほどの熾烈な戦闘をしてきた筈なのに、目立った大きな傷などは、ほとんど無く―――とても美しい。
ざわざわ、ざわざわ
混浴露天風呂で入浴している男も女も皆が、ヴァグドーの全裸・肉体を注目している。
「ふふふ、そうかい。 皆が…ワシの身体に見とれるか…。」
そのヴァグドーが所定の位置まで行き入浴すると、ゆっくりとしゃがんで肩まで浸かって寛いでいる。
「ふむ、今宵もとても良い満月じゃのう。」
そこでヴァグドーが、夜空を見上げて満月を見つめていた。
一方で勇者アドーレと勇者アクナルスの二人が、宿泊している温泉宿の別の場所にいて、なにやら密かに話し合っていた。
「まだ何か用かい? 先輩」
「はい、先日聞いた勇者マイカのことについて、もう少し聞いておきたいのですが…。」
「……彼女のことなのか? だけど、この俺も正直…彼女のことはあまり知らないんだよ。」
「…そうなのですか…」
「そんなに彼女のことが気になるなら、『アロトリス』様に聞いてみるしかないな。 もしかしたら、『アロトリス』様の方が詳しいかもしれないぞ。」
「…『アロトリス』…さん…に…ですか…」
「あぁ、そうだな。 おそらく…勇者マイカのことが知りたければ、『アロトリス』様に聞くしかないかもな。」
「…なるほど…そうですね…」
「「……」」
そこで勇者アドーレと勇者アクナルスの二人も、外の夜空を見上げて満月を見つめていて、勇者二人による夜遅くまでの密談はまだまだ続いていた。
続けてカグツチやニーグルン姫や大魔女シャニルたち女性陣も、大浴場からの混浴露天風呂に入浴してきて、現在はヴァグドーがいる場所まで行きヴァグドーのすぐ側の周囲に、ゆっくりとしゃがんで肩まで浸かって寛いでいる。
ざわざわ、ざわざわ
カグツチやニーグルン姫たちが、ヴァグドーのすぐ側で楽しく気持ち良さそうにしているのに対して、一人…大魔女シャニルだけが夜空を見上げて満月を見つめている。
「……勇者マイカ……」
この時にシャニルが「何か」を小声で呟いていた。
それからヴァグドーたち一行が温泉を充分に堪能したあとで、今度は大宴会場に全員が集まり、今夜の晩ご飯―――とても美味しそうな豪華な肉料理・魚料理や特製のご飯・汁物やご自慢の飲み物などがずらりと並べられて振る舞われていて、その美味に思わず舌鼓を打っていた。
その後は全員が食事を終えると、あとは自由行動―――それぞれが宿泊部屋で寛いだり、休息したり、もう就寝したりしている。
そして、全員が寝静まったあとで、今夜も一人でヴァグドーだけが宿泊している温泉宿の外に出ていて、満月をバックに腕組みしながら空中浮遊をしている。
「ふむ、だいぶ慣れてきたかのう。 ふーう」
まったく、相変わらずの見張り役と空中浮遊の特訓をしてまで睡眠時間を削るとは、この努力を惜しまない姿勢は、本当に頭が下がる思いだな。
やれやれ、ヴァグドーたち一行は一体いつになったら、お城に到着するのか?




