127、『エルフの森里』:1
●【No.127】●
―デュラルリダス王国―
この王国の一番西側にある巨大な居城『アロトリス』の最上階にある豪華で広大な部屋の室内には、母親で王后のアロトリスと娘のデュラルン女王陛下が椅子に座っていて話し合っている。
「あのー、お母様。 少しお話しがありますわ」
「あらあら、一体何かしらね」
「はい、今度の私のお誕生日パーティーなのですが、私側からも招待したい方がいますわ。 既に先方には『銀の招待状』も贈呈してますの。」
「あらあら、そうですか。 それで一体誰なのです?」
「はい、ヴァグドー様ですわ」
「……? え、誰ですか、その方は……? それで階級は……? いや、爵位は……?」
「いいえ、ただの冒険者ですわ。 それ以外で彼に対する肩書きを私は知りませんわ。」
「……はぁ? ただの冒険者なの……? えーと、よく理解出来ないけど、その方に『銀の招待状』を贈呈したの……?」
「はい、そうですわ。 私…彼のことが大変気に入りましたので、ぜひ一度お会いしたいですわ。」
「……」
「それでは、よろしいですね? お母様」
「んー……ヴァグドー……何処かで聞いたことがあるような……ないような……んー」
「あらあら、どうかされましたか? お母様」
「まぁ、いいでしょう。 女王であるあなたが呼びたいのならば、私が特に言うことはありません。 それにあなたのお誕生日パーティーですしね。」
「本当ですか!? お母様」
「ええ、あなたがその方に『銀の招待状』を贈呈したのならば、仕方ありません。」
「はい、お母様。 どうもありがとうございますわ。」
「……」
この後もアロトリスとデュラルンの親子が話し合いを続けていた。
―-―・●・―-―
一方のヴァグドーたち一行は、既に大きな森が目の前に見えていて、この周辺まで出現してくる人型の狼モンスター「白狼人鎧」の大群や、凶悪なモンスター「紅狼公鎧」を倒しながら、遂に『エルフの森里』があるとされる "幻の森" の入口まで到着していた。
「ふむ、どうやら着いたようじゃな。」
「おお、ここがエルフが住むとされる森なのか?」
さすがに森の中まで、大型の馬車が進入することが出来ないので、森の入口付近で大型の馬車を停めて、ここからは全員が大型の馬車から降りて、森の入口まで歩いていく。
「さて、この広大で深そうな森の中の何処かに、エルフが住むとされる『エルフの森里』があるんじゃな?」
「これは…ここから先は、歩いていくしかありませんね。 一体どのぐらいの距離があるんですかね…?」
「さぁね。 とにかく行ってみるしかないんじゃない…?」
「そうよねぇ~♪ 取り敢えず…行ってみるしかないようねぇ~♪」
「……」
「よし、では行くぞ!」
そこでヴァグドーたち一行が、目の前にある大きな森 "幻の森" の中に入っていった。
ヴァグドーたち一行は、まず先頭を勇者アドーレが歩いていき、その後ろをカグツチ、ロンギルス、エクリバ、テミラルスが歩いていき、次に中央を大魔女シャニル、アルベルス、アルラトス、ニーグルン姫、ルドルス将軍が歩いていき、最後尾をヴァグドーが歩いていく。
やっぱり森の中に普通の道など無く、沢山の木々に囲まれた…まさに樹海の迷路なのだが、何故か…先頭を行く勇者アドーレだけが、この険しい獣道を迷わずに進んでいく。 まるで何かに導かれるようにして……。
その途中で前方に、灰色の大型ネズミの在来種モンスターである「激震鼠」が大群で出現しており、勇者アドーレが八本の【黄金の剣】で、激震鼠を全部斬り裂いて撃退している。
「はあぁーーっ!」
ザァン、ザァン、ザァン!
また左右に大きな木のモンスターである「薪魔樹」が出現しており、幹や枝を伸ばして、ヴァグドーたちに攻撃するが、大魔女シャニルが攻撃魔法の【焔王砲】で、攻撃してきた幹や枝や薪魔樹本体だけを燃やして撃退している。
「そ~れ~♪ 【焔王砲】♪」
ズドォーーン!
その後も様々な魔物が出てきては倒していき、迷うことなく先へ進むと、遂にエルフが暮らす『エルフの森里』の入口付近の所まで到着していた。
「……ん?」
するとそこには、『エルフの森里』の入口の前に、多数の「白狼人鎧」とリーダー格の「紅狼公鎧」がいて、性懲りもなくまた『エルフの森里』に攻め込もうと準備をしていた。
「ふふふ」
それを見ていた、最後尾のヴァグドーがニヤリと笑い、突如として躍り出るように、紅狼公鎧と白狼人鎧がいる所まで急接近して、ヴァグドーの右肘が紅狼公鎧の背中を素早く強打、さらに側にいた白狼人鎧たちにも素手の打撃で、全員に素早く攻撃していった。
ドカッ、バキッ、ズドッ!
ドサドサッ、ドササッ!
最早…ヴァグドーのあまりの速度に、白狼人鎧も紅狼公鎧も悲鳴すら上げられずに、無言で倒れていった。
「やれやれ、前から思っておったが、魔物と言うのは危機管理能力がなっておらんのう。」
「いや、それは師匠があまりにも速すぎるので、対応できないのですよ。」
「ふむ、そうかのう?」
「はい、まさに目にも映らぬ速さですよ。」
「……」
「でも、まぁこれで入口を塞ぐ邪魔者もいなくなりましたし、エルフが住む森里に入れますよ。」
「ふむ、そうじゃな。」
「では、入りましょうか。」
「はい、判りました。」
そして、遂にヴァグドーたち一行が『エルフの森里』の入口から中に入っていった。
どうやら絶望老人たちは、まず『エルフの森里』から行くようだが…?




