124、悪魔の勇者
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●【No.124】●
―デュラルリダス王国―
この王国の街中にある "ギルド冒険商" の中では、謎の男…〈暗闇の勇者〉なる者が登場している。 その勇者の名前は… "アクナルス" と言い、なんとレベルが99にも達している。
つまり、考えられる常識的なステータスの最高値までに達していて、最強となっている。
長身で漆黒の鎧兜と青紫色のマントを身に付けて、灰色の謎の聖剣を帯刀した、顔の見えない謎の男…。
主人が感心しながら、勇者アクナルスに声をかけた。
「いやぁ~ アンタ…勇者なのかい! しかもレベル99とは凄いね! 爵位はあるのかい?」
「…子爵だ…」
「おお、子爵か!? 男爵でも凄いのに、子爵とはねぇ~」
「……」
「あっ、そうだ! アンタ…今日は何処に泊まるつもりだい? もしよかったら、いい宿屋でも紹介しようかい?」
「ああ、そうだな、よろしく」
「…あいよ…」
主人が勇者アクナルスに、必死になって話しかけているけど、勇者アクナルスの方は、さっきからずっと背後の様子を気にしている。
そこに居たのは、ガラの悪そうな冒険者の男たちが、小バカにした笑みで、勇者アクナルスの方を見ていた。
だけど、この勇者アクナルスの方は、これから起こる出来事を既に予測していた。 背後に居る連中の…ガラの悪そうな冒険者の男たちの行動を…。
「……」
主人が勇者アクナルスの背後に居る連中の事を、そっと静かに覗いていると、勇者アクナルスの方から尋ねてきた。
「…で、おすすめのいい宿屋とは、何処のがいいんだ…?」
「…えぇ? あぁ~ えーと、ここなんかどうかな…?」
「ああ、ここだな?」
「そう、そこそこ」
「そうか、わかった」
そこで勇者アクナルスが、主人からおすすめのいい宿屋を聞き出すと、踵を返して振り返り、ガラの悪そうな冒険者の男たちの横を通り過ぎて、そのまま "ギルド冒険商" を出ていった。
再び街中に紛れる勇者アクナルス―――
「……」
だけど、そこで主人に紹介された、そのいい宿屋には行かずに……町外れの狭く薄暗く、人のいない路地裏まで来ていた勇者アクナルス。
すると何処からともなく不思議な声が聞こえてきた。
『……どうかしたのか?』
「ああ、何人か…人の気配を感じるな…!」
『……何? アレの事か?』
その勇者アクナルスが歩く先では、先程のガラの悪そうな冒険者の男たちが小バカにした笑みで、前方の細い道を塞いでいた。
「フフフ、これはこれは勇者様よ。 こんな所でお会いするとはねぇ~ フフフ」
「ククク、まさかこんな路地裏まで来るとはねぇ~ ククク」
「…この勇者…マヌケか…」
「……おい!!」(合図)
「……ん!?」
するとそこで、勇者アクナルスの背後にも、ガラの悪そうな冒険者の男たちの仲間が現れていて、この狭く薄暗い路地裏の中で完全に逃げ場を失い、挟撃されていた。
「ヘヘヘ、勇者様よ! アンタも今日までのようだな! この俺たちがアンタを倒して、勇者になるぜぇ!」
「ああ、アンリールノエロンでは失敗したが、ここでアンタを倒せば、何も問題がない!」
「ハハハ、ざまぁみろ!」
「…来たか…」(予測通りだ)
『ヒヒヒ、こいつら本当に美味しそうだな。』
「…食べたいのか…?」
『ああ、そろそろ腹も減ってきたしな。』
この不思議な声は勇者アクナルスにしか聞こえず、ハタから見ると独り言を言っているだけだが…。
「…? なんだコイツ…?」
「けっ、何でも構わねえ! さっさとやっちまおうぜぇ!」
「ああ、そうだな! とっととやっちまおうぜぇ!」
「ククク、くたばれぇ!」
すると突如として、勇者アクナルスの前後に居た、そのガラの悪そうな冒険者の男たちが、剣や鉄の棒などの武器を構えて、全員が一斉に勇者アクナルスに襲い掛かってきた。
そのガラの悪そうな冒険者の男たちが、全員で勇者アクナルスの方に急接近して、一斉に攻撃しようとした時―――
『いただきまーす』
なんと突如として、勇者アクナルスの周囲を大きな黒い人影が、複数体…直立したまま、まるで勇者アクナルスを取り囲むように出現しており―――
ススゥゥ~~~~…
「っ!!?」
「なにっ、なんだぁっ!?」
「そんなバカなぁっ!?」
「うわああああぁーーっ!?」
一瞬にして、ガラの悪そうな冒険者の男たち全員が、その大きな黒い人影に吸収されてしまい、その姿が消えていった。
『ヒヒヒ、やっぱり人間は本当に美味しいよなぁ~』
「ちっ、全く相変わらずの食欲だな。 つい先日には、人型の狼モンスターを沢山食したクセに…。」
『ヒヒヒ、やっぱり食欲だけは、誰にも止められないのだよ。 例え神といえどなぁ。』
「へぇ~ 驚いたな。〈地球神アクナディオス〉と言うのは、相当強欲な神なのだな。」
そうなのである。 この大きな黒い人影とは、あの〈地球神アクナディオス〉なのである。 ちなみに勇者アクナルス以外の者には見えていない。
『ヒヒヒ、キミにも〈悪魔の勇者〉と言う恐ろしい肩書きがあるではないか?』
「ふん、余計なお世話だよ」
むむっ!? …〈悪魔の勇者〉…!? 〈暗闇の勇者〉ではないのか!? しかも子爵の爵位まで持っている…!? それに何故、〈地球神アクナディオス〉と一緒にいるのだ!? まだまだ謎があり、ますますよく解らない勇者アクナルス。
「さあ、行くぞ」
『ああ、了解だ』
そのまま勇者アクナルスが、〈地球神アクナディオス〉と一緒に、狭く薄暗い路地裏の奥の方まで行き、その姿が消えていった。
……えっ!?
な、なんだろう!?
コイツの言ってる〈悪魔の勇者〉とは、一体何なんだ!?




