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ロリジジィは去年世界を救いました  作者: タイロン
序章
3/5

第2話 到着、王都『ハルバード』

地味にメインで投稿している「LINKED HORIZON ~異世界とか外国より身近なんですが~」(←広告)より1話1話が長い。疲れる。

 「ん、んん・・・・・・」


 うっすらと、視界が線を描き、次第にその線は太くなって意識は半ば覚醒した。開いたばかりの私の目には眩しすぎる、橙色。

なんだろう、ふんわりと香る甘い匂いと、頭に感じる柔らかな感触。ほんのりと温かくて気持ちが良い。もう少し、もう少しだけこうして寝ていたいと思ってしまう。

 私の髪の毛を誰かが手ですいてくれているのを感じた。細くて脆そうな指の感触が、妙にくすぐったくて癖になりそうだ。あと少しで良いから続いてほしい。


 「おや、目が覚めたかの?」


 透き通るような、美しくも愛らしい女の子の声が聞こえて私の意識は完全に現実に帰ってきた。柔らかくて暖かいと感じていたそれは、声の主の太ももだった。

 

 「は、はい・・・すみません、ご迷惑をお掛けしたみたいで・・・」


 ゆっくりと体を起こして、何の気なしに体の調子を確かめるために首や肩を回す。すこぶる快調だった。一通り寝起きの体を起こすよな伸びをしてから、辺りを見渡す。今は夕日に照らされる草原と、頭上に高く聳える大樹、そしてそれより遙かに雄々しく聳える純白の城壁が見えた。私は膝枕をしてくれていた人物に視線を返す。


 その少女は幼い顔立ちに似合わず、年季を感じさせるような柔和な微笑みを浮かべて私の方を見ていた。健康的にほどよく白い肌、雪のような雲海のような水煙のような白亜の髪、海の深さを秘めた紺碧の瞳。思わず私は見惚れてしまい、しばらく何も言えないでただただ呆然としていた。


 そして、思い出した。なぜ自分がここで気を失っていたのかを。そして、今目の前で微笑む少女が何者だったのかを。


 確か傷だらけだったはずなのだが、今はどこも痛まない。きっと彼女が、私が気を失っているうちに魔法で治療をしてくれたのだろう。『エヴィルハウンド』を撃退してくれたのも彼女だった。助けようとして逆に迷惑をかけたことで情けないような、憧れの人に助けてもらえて嬉しいような、複雑な出会いだった。


 「『勇者』、エーミール・・・様」


 「うん?そうじゃよ、まぁ『勇者』とか様付けとかは仰々しいからよしておくれ。普通に・・・そうじゃな、気軽にエミィと呼んで欲しい」


 「そ、そんな、恐れ多いです!」

 

 「なんじゃい、聞き分けのない娘じゃのう。年上には逆らわんもんじゃぞ」


 ・・・年上?何を言っているのだろう、彼女は見た目からして、そう、大体9歳か10歳くらいが関の山じゃないか。幼い肉付きの顔や体はどこをどう見たって私より年上には見えない。

 

 「はぁ、疑っとるな?まぁええわい、この誤解は置いておいて、そうじゃな、じゃあ『勇者』としてお前に命じようか。エミィ、と呼んでくれ」


 少しむっとしたように頬を膨らませてから、『勇者』エーミール――――エミィは悪戯っぽくニヤリと笑ってそう言った。

 そこまでされたら私も断れないので、ここからは彼女のことをエミィと呼ぶことにした。

 そこまで考えると、あの伝説の『勇者』様を呼び捨てを通り越してあだ名で呼ぶことを許された自分がなんだかすごいんじゃないか、となんの根拠もない優越感がジンワリジワリ。


 「・・・は、はぁ。では、エミィ・・・?」


 「うむ。どうした?」


 エミィは今度こそ満足そうに頷く。やはり年相応の少女の仕草にしか見えない。年上というのは冗談だったのだろう。先ほどむくれていたのもきっと悪戯が上手くいかなかったからで。


 「私を魔物から助けてくださったのも、エミィ、ですよね?」


 「ははは、あんなの助けるのうちにも入らんわい!ちょーっと運動不足の解消をしたようなもんじゃて、気にするな」


 「そ、そうですか。さすがはエミィですね」


 ―――――あれ、なんかセリフが友達と会話しているのか偉い方と会話しているのか分からなくなってきた・・・?

 せめて「エミィさん」と呼んでいたらしっくりきていた・・・わけでもない感じがする。そもそも、初対面の人物にさすが、とか言ってる時点で違和感を感じるべきなのでは。


 「そうじゃろそうじゃろ、もっと褒めてくれてもいいんじゃぞ?・・・まぁ話がこじれるから良いけど。それと、その嫌に敬った敬語もやめて欲しい。敬語が素なのは分かったから、せめて普段通りに話してくれれば良い」


 ―――――おっと、完全に友達感覚で話すことを強要されましたよ?


 「は、はい。・・・あっ、そういえば!」


 「?」


 私は辺りをもう一度見渡す。一緒に来ていたはずの美青年ことアストラことヘタレがいないことに気が付いた。確か少し離れたところで剣を抜いたまま頭を抱えてうずくまっていたような気がしたのだけれど、彼は一体どこへ行ってしまったのだろうか?まさか先に王都に行ってしまうほど薄情者というわけでもあるまい。・・・いや、あるかもしれない。ヘタレだし。


 「エミィ、あの一つ聞きたいんですけど」


 「いいぞ、なんなりと言いなさい?」


 「確か、私と一緒に赤い髪の毛の男の人が来ていたと思うんですけど、彼がどこに行ったのか知りませんか?」


 「あぁ、あの無駄にイケメンの面白い坊やか。それなら、ほれそこに」


 そう言ってエミィは大樹の根元を指さした。さっき辺りを見渡したときにはそこも見たいたはずなのだが、見落としたのだろうか?

 エミィが指し示したところを見てみると、確かに何かがありました。それは明るめの黄土色の丸い塊・・・ではなくって、よくよく目を凝らしてみたところ、それはアストラさんの着ていたコートだった。


 コートからは何事か、呪詛のようなさえずりの如き断末魔のような声が漏れ出してきている。


 「・・・汚された・・・ボクの純潔が汚された・・・。まだ誰にも捧げていないボクの唇が、まさかあんなワンころに盗られるなんて・・・あぁ、もうおしまい、あは・・・あはははは」


 なんか関わらない方が幸せになれそうなので放置しておくことに。可哀想だが、彼が悪いのだ。イケメンが悪いのだ。私をたぶらかそうとした彼の性根が悪いのだ。呪うなら自分自身のその要望と心根を呪って欲しい。

 

 そんな彼への手向けとして私は、一言だけ呟いた。 


 「・・・君のご両親が悪いのだよ」


 「辛辣じゃな」


 「いえいえ、なんかきっとこれくらいが彼にはちょうど合ってるんです。ピッタリです。そんな気がします」


 その後、軽く自己紹介をして10分ほどして復活したアストラの加えた3人で、私たちは王都の大門に戻った。

      


          ●



 大きな門。王家の紋章を堂々と刻み込まれ、200年もの間王都を魔族の手から遠ざけ守り抜いてきた、大きな門、『朱雀』。名前の由来には心当たりはないけれど、偉大さはひしひしと伝わってくる。王都『ハルバード』には、東西南北、四つの門がある。東大門『青龍』、南大門『朱雀』、西大門『白虎』、北大門『玄武』。いずれも王国建国以後、戦争の直前に急遽建造されたと聞く。そして、この大門4つを繋ぐ円環大城壁『麒麟』もまた、そのときに作られたらしい。名前にはセンスを感じますが、5個もあって、やはり名前のルーツの分かるものが1つもないのがミステリアスな『四門一壁』です。


 「ま、そんなことはもうどうでも良いですね!」


 「どうでもいいんかい」


 私はその偉大なる南大門『朱雀』を見上げ、歴史の知識なんかを引っ張り出して余計な感慨に耽ることをせずに、ただただここまで歩んできた道のりとここから先に待つであろう新しい日々に思いを馳せた。

 ここをくぐれば、私にがここまで遠路はるばるとやってきたことが、きっと報われる。人々のために自分の力を振るえる生活が待っている。


 「さぁ、入ろう。ここからがボクたちの本番だよ」


 「何さらっと復活してんですか。アストラさんにはきっと本番なんてやってこないです」


 「酷いじゃないか、そんなことを言われると少し傷付くな」


 苦笑しながらアストラが胸を押さえて悲しみをアピールする。癪だが、様になっていていやらしい。さっきまでイヌにべろべろされて、魂がかき消えてしまいそうになっていたくせに。見るも無惨すぎて可哀想だとも思わなかったのは、きっと私が1人で戦っていた後ろで彼が頭を抱えていたことにも起因する。

 私が当初アストラに抱いていた感情は完全に消えていた。もうさん付けも悩んでいるところだ。敬意を示すところが分からないので、癖を捨ててでも敬語をやめてしまいたい。


 「ケンカなら余所でやるんじゃな。ほれ、行くぞ」


 「「はい!」」



 くぐる。今、大門をくぐって、王都の地面を踏む。

 きっと外のそれとは何も変わらないはずの空気も、門をくぐる前と後ではまったく違うように感じた。

 深く息を吸って、



 「やってきましたぁ!!王都、『ハルバード』ぉ!!」


 

 大声を出すと、すごく気持ちよかった。今までの汗はすべて報われてカラッと乾いて、期待と希望が肺を満たして、血流に乗って全身を駆け巡る。


 「ほほ、元気の良い。儂も若いころはこんなんじゃったんかのう」


 「また、ご冗談を。エーミール様はまだこんなにもお若くいらっしゃるじゃありませんか」


 「アストラよ、君にも要らぬ誤解をさせてしまってるようじゃな。まぁお前も後でいいわい、面倒臭い」


 すっかり傾いてしまった太陽は、今日の終わりを告げている。その橙色に輝く空の宝石を眺めながら、エミィは「ふむ」と考え込んでいた。


 「どうしたんですか、エミィ?」


 「いやの、もう日も暮れるじゃろう?」


 「はい、確かにそうですけど、それが?」


 「騎士団の面接は本部でしかやっていないんじゃが、その時間ももう終わってしまっとる」


 そういえば、そうだ。騎士募集の張り出しには、面接時間は朝の8刻から夕方の5刻半と書いてあった。そして、日が暮れているということはこの時期ならもう5刻半は過ぎてしまっているはずだ。

 

 と、なると。


 「あぁっ!ど、どうしましょう、今日面接できないとなると早く宿を確保しないとマズいじゃないですか!わぁぁ!」


 「確かに、もうこの時間となると宿の空きも少ないかもしれないね。早く探しに行こうか、ルイス」


 「なんでアストラさんが主導権握ろうとしているんですか!嫌ですよ、私はあなたにだけは従いたくないです、主に独断と偏見で!」


 「また騒ぎよるからに、周りの人が見ておるぞ」


 門の通行所の真ん中で乱痴気騒ぎ、痴話喧嘩。物珍しさに人が集まってヒソヒソと笑いながら話している。陰険だ、陰湿だ、もっと正々堂々笑うなら笑えば良いのに!どうせ端から見れば美少女と美青年のドラマティックなケンカ、というラブシーンを期待して来たんだろう、この野次馬どもめ。


 「あぅぅ・・・」


 「ははぁ、内心と態度が正反対なのにどっちも嘘じゃないとは、ルイスも面白いのう」


 そりゃそうだ。イラッともするし、ここまで見物客がいると恥ずかしいったらありゃしない。

 それより、今は宿の確保が先決だ。・・・と思っていたそのとき、エミィが歩き出そうとした私を引き留めた。


 「そうじゃそうじゃ、宿なら心配せんでいい」


 「え?と、言いますと?」


 「だんじゃい、物わかりが悪いのか、アホなのか」


 「酷いですよ!大体私は『勇者』様ほど頭も勘も良くないですから!」


 「はいはい、まぁかっかすることはないじゃろう。今日出会ったのも何かの縁じゃろうて。今日は儂のうちに泊まっていけばいいじゃろ?」


 こうしてルイスとアストラの両名は、王都到着1日目で生ける伝説と出会っただけでなく、その家にまで泊まることになったのだった。

 

 

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