第1話 ガール・ミーツ・ジジィ
本編は入ります。あと、前日譚微妙に修正しました。どうせまだ2話目なんで見直しといてください、とは言いません。だって特に内容変わらないですから。魔王は変態のままです。
「ふんふっふんふっふんふっふー♪」
あぁ、気持ちいい風!暖かい日差し!ささやかな幸せだけど、だからこそいい!多すぎるよりは足りないくらいがいい!
私の名前はルイスです!1年と2ヶ月くらい前に、モンスター討伐のお仕事に就くために村を発った15歳の女の子なのです!
趣味は、そうだなぁ・・・剣を振ることと魔法の特訓、かな!よくお父さんやお母さんには女の子らしくない、とも言われたりしたけど、そんな分からず屋の2人はなんとか説得してですね、この道を歩んでいるわけですけど、いや、説得がまた大変でしたね。ホント、骨が折れましたよ、物理的に。説得してから出発に3ヶ月って、酷いですよね。まぁ今更良いですけど。
チャームポイントですか?そうですね、自分で言うのは自慢みたいで嫌なんですけど、仕方ないですよね、キャラ説明ですから。
やっぱり自慢は両親からいただいたこのサラッサラの金髪ですかね!こうやって背中の半ばまで流しておくのが一番好きです!他にもいろんな髪型を試してはみたいんですけどね。この髪は村娘とは思えない美しさだってよく褒めてもらえます。お金にはならないですけど。
顔は、まぁ年相応だとは思うんですけど、でもちょっと子供っぽいかもしれません。まだまだ世間を知らないですからね、覚悟が足りてないんです。
目の色は明るい青ですよ!金髪碧眼、いやー、なんかお嬢様みたいですよね、すみません。身長は普通、胸も普通。これと言って女性らしさに富んでいるわけでもなければ、ロリボディというわけでもない、ま、成長途上ですね。
肌の白さには自信がありますよ!なんか日焼けしないんで、女の子としては嬉しい限りです!
と、まあ自己紹介はこの程度として。
私は、先ほども言ったようにモンスター退治のために働く決意を決めてこうして旅に出たわけなんですけど、そうして出発してからまさかの2ヶ月で魔王が退治されちゃったんですよ。いやー、びっくらこきましたね、あの日は。道すがらの小さな街で宿を見つけたところで舞い込んできたニュース。感動の方が大きかったんですけど、それから3日くらいして、そういえば自分の旅の意味は?ってなって・・・。
あ、でも安心してください、モンスターとかそこらにいっぱいいますよ。ほら、あそことか、そっちとか。魔王を倒したからといってモンスターが、魔族が消滅するわけじゃないですからね。
まぁ、そういうことでその知らせを聞いた街で引き返すことはせず、未だ人々の安寧を脅かす野蛮な魔獣たちを駆逐するために私はこうして旅を続けているんです。王都『ハルバート』へ!
王都『ハルバート』というのはですね、この世界、『ルイーナ』に住むすべての人々の中で一番偉い王様がお城を構える大都市なのです!ルイーナには、王都は1つしか存在しません。この世界の人間はみな、魔族との戦争のために一致団結したってことですね。
そう、戦争。戦争です。200年に渡り、人間を虐げてきた魔族と、それに抗うことを決めた人間との争い。長かったです。私は、生まれたときから戦争でした。中には、生まれてから亡くなるまで、ずっと戦争だった方々もたくさんいます。いえ、たくさんなんて生やさしい。当然です。200年です。人の寿命なんかよりずっと長いんですから。
しかし、そんな憎き戦争も、1年前に終わりを迎えました。――――――『勇者』エーミール。王国最強の剣の使い手にして、聖剣に選ばれし者。そして、その実態はまだまだ幼い少女。見た目10歳にも届かないとか。聞けばその姿はあどけなさを残しながらも凜々しく、国の未来を背負うに値する大きなものだったとか。曰く、純白の白髪は粉雪のように美しく、滝壺に煙る飛沫のように力強い、と。曰く、その紺碧の瞳は並々ならぬ覚悟を秘め、海より深く澄んだ、と。曰く、その剣捌きは巨大な悪龍をも軽々と縦に割った、と。
あぁ、かっこいい!私より年下だけど、いえ、年下だからこそ、彼女のことを尊敬して止みません!こうして剣客としての実力を磨く私としては彼女の剣は一度で良いので是非見てみたいです。
勇者様の御一行は、勇者様に従うだけあって、そうそうたるメンバーだったようです。『賢者』アルテマ、『武闘王』セイゲル、『大魔導』ステラ、『天騎士』リーシャ、『喜劇王』ジャップリン、『盗賊大帝』ルビー。私は剣の他に魔法も嗜んでいますからね、『賢者』様と『大魔導』様には憧れます。
そんな素晴らしい勇者様御一行のおかげで今こうして世界には刻一刻と平和の時が迫っているわけですが、まぁもうおわかりの通り、モンスターはいっぱいいます。これ以上あの方たちのお手を煩わせることのないよう、これからは私たちが頑張る番ですね!
そのために私は今『ハルバート』に向けて歩いてるんですが、なんと、エーミール様が今、王都で暮らしていると言うんです!いや、なんという僥倖!もしかしなくてもお会いできるように頑張りたいですね。
え?私が王都に着く前にどこかへ行ってしまうかも?いえいえ、ご心配なく。なにせ、今私は王都の大門が遠目に見える大草原にまで来ているのですからっ!ここまで来れば喉が渇いて血を噴こうが膝が逆に曲がって歩行不能になろうが、這ってでもあの門を今日中にくぐってやりますよ。・・・あ、でも1日あの高く聳える白亜の外壁を眺めて過ごすのも感慨深いかも・・・。いえ、でもやっぱりくぐってみせます!なんのためにここまではるばる歩いてきたと思ってるんですか。
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そうは言っても私もかれこれ半日は歩き通しなんですよね。「明日には王都に到着出来るんだー」とか思っていたら、なかなか休んでいられなくて。ちょうど見晴らしの良い草原地帯なんですし、木陰で一休みしてから王都に向かうのも悪くないんじゃないかと思うんです。こうしてあの高い壁を見上げていると俄然やる気も沸きますし、達成感もありますからね。
それにしても、さすがは王都といったところでしょうか。人の行き交いがとても多いですね。目の前にいる人の列だけでも私の故郷の年間観光客数に匹敵するんじゃないですか?今までも交易都市『ミーア』とか商業の聖地『モール』とかには足を向けたことはありましたけど、これもなかなか引けをとらないですね。草原地帯とは言ってもそりゃ王都の大門前の道ですからね、ちゃんと整えられていて、大体の人たちは狐車に乗ってきてますね。私も狐車が持てるくらい裕福だったらもう少し早くここまで来れたんでしょうけど、無い物ねだりをしても仕方ない。それに着いたんなら結果オーライでしょう。
「ん、そこのお嬢さん、その出で立ち・・・騎士団志望かい?」
おっと、誰か話しかけてきました。
「あ、はい。そうです!ルイスって言います。あなたは?」
揺れる炎のように赤い髪の毛は短く切り揃えられていて、その瞳は橙色。凜々しい顔立ちの男性ですね。歳は、私より3,4つ上でしょうか。腰には剣を、背には槍を背負っていらっしゃるので、恐らく彼も私と同じ目的で王都を目指しているのでしょう。
「そうか、同志が見つかって嬉しいよ。ボクはアストラだ。いや、なかなか騎士団志願の人に会えないものだから心細かったんだ。良かったら都の中に入るまで一緒に歩かないかい?」
すごく爽やかですね。これが噂のイケメンってやつですか。笑顔と白い歯が眩しいです。いえ、別にこういう人がどうこうっていうのはないですけど、私がここまでの旅で出会った男の人なんて確かにかっこいい方はたくさんいましたが、こういう正統派イケメンは初めてです。ちょっと免疫が足りないです。あと10分彼と一緒にいたら惚れるかもしれません。
「えぇ、良いですけど・・・私少し外壁の外から王都を眺めて一休みしようかな、なんて思っていたんですが」
「そうだったんだね。うん、確かにそれも良いね。こうして見上げてみれば確かに壮大で実に感慨深いよ。言われるまで気が付かなかった。ぜひとも一休みにご一緒させて欲しい」
おっと、ナンパですか?その爽やかパワーでナンパですか?武器と言うより凶器ですよそれは。すごいグイグイ来ますね。あ、アレですか、私のこの金髪碧眼が目当てですか?まぁ気にはしませんけど、私も罪な女ですね。お父さんお母さん、こんな娘に生んでくださってありがとうございます。
「はい、じゃあ私の方からも是非に。あちらに見えるちょっと高い木の木陰なんか良いんじゃないかと思うんですけど、どうでしょうか?」
「うん、じゃあそうしよう」
ちょっとばかし離れていますけど、道路から200mくらいですね。ここからでもあれだけ大きく見えるんですから、本当に大きい木なんでしょう。あれなら観光名所にもなりそうなのに、不思議ですね。
●
アストラさんと一緒に歩きながらお互い自己紹介をしていたんですけど、彼も辺境出身だそうです。なるほど、徒歩だった理由も想像に難くないですね。お金がないと歩くものなんです。いえ、嫌じゃないんですよ?足腰も強くなりますし。アストラさんも同意してくださいましたからね。
と、やっと木の根元が見えてきました。
「・・・待って」
「どうしたんですか、アストラさん?」
すると、アストラさんは口に人差し指を当てて静かにするように指示をしてきました。
「・・・・・・」
「変に静かだと思わないかい?」
「静かなのは人がいないからじゃ?・・・いや、違いますね」
目を閉じて、意識を空間に広げていく。気配が1つ、2つ、3つ・・・・・・
「っ!ま、マズいです、この辺魔物がめっちゃいます!正確には30体ほど、しかも『エヴィルハウンド』です!」
「なに、本当かい!?さすがに分が悪い、引き返そう!」
「そうもいきません!」
「なにを・・・?」
ここで引き返したら市民を守る騎士(予定)の名が廃ります。あの木の下には魔物とは違う反応がありました。小さな人、女の子でしょうか。彼女を見捨てて逃げることなんてできっこありません。拾ってから全力で逃げます。
その旨をアストラさんに伝えると彼も一応頷いてくれました。渋々感がありましたが、なんとか説得に成功した感じです。もしかしたら彼はヘタレなんじゃないでしょうか?いえ、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
「では、行きますよ!」
「・・・ああ」
こちらが剣を抜いたことに気が付いたのでしょう。茂みの奥から犬のお化けみたいなモンスター、『エヴィルハウンド』が続々と飛び出して来ます。女の子までは都合50mくらい。
「お、おおおぉぉぉ!」
『エヴィルハウンド』はすばしっこくて厄介な魔物ではありますが、かといって動きが目で追えないほどではありません。丁寧に一匹一匹の動きを見ていくことは敵いませんが、そこは培ってきた勘を唸らせる。剣を振り抜いた後を辿る視界には敵の血が舞う。
横合いを見れば、アストラさんも・・・
「うわぁぁぁぁぁ!!」
「なにしてんですか!?」
『エヴィルハウンド』に囲まれてもみくちゃにされるアストラさんを助ける羽目になるとは。ていうか彼に纏わり付いていた個体が全部雌だった気がするんですが、気のせい・・・ですよね?魔物相手にも有効なイケメンパワーとかさすがに引きますよ。
「っていうか、これはやばいです!!」
なんとかアストラさんに群がっていた魔物を追い払ったら、今度はその矛先が私に向いたらしいです。なんか私を罵っているような気がします。「アンタ何様よ、コイツの女じゃないでしょうね」みたいな。肉食女子は怖いです。というか命が脅かされています。アストラさんがせっかく私が助けてあげたのに、剣を抜いてもへっぴり腰ですよ。役に立たなすぎでしょう!ヘタレかも、じゃなくヘタレです!
「つ、突っ込むしかない、ですね!!う、おおおぉ!」
ヘタレなアストラさんも、怒りを集中させた私にすべての『エヴィルハウンド』が引きつけられているので心配はないから放置。剣を前に構えて、炎の魔法『パイロスパイラル』を剣先に展開させ突貫攻撃を仕掛け、全力で走って木の根元まで走り抜け・・・!
「・・・づっ、らぁ!」
魔物の爪が頬を浅く掠めて鋭い痛みを与えてくる。真正面から引き裂いた魔物の肉体の影から飛び出すもう一体に対応が遅れて肩に噛みつかれるが、この際放っておく。
少女を助けるために、命を救うために、前へ、前へ・・・!
「ル、ルイスさんっ!後ろっ!!」
「ぇ・・・」
振り返る間もなかったです。凄まじい速度で『エヴィルハウンド』のタックルを受け、私は天地がひっくり返るのを感じました。脚が地面を離れ、上下が分からなくなり、世界に体が放り出されていく。
着地、なんてもんじゃないですね。頭から落下して、首から変な音がして。それでも勢いが殺されずに体が地面を削りながら前に滑っていく。
どこまで、吹っ飛んだんでしょうか・・・。俯せ、の姿勢のようです。土の味がする。
「・・・・・・お姉ちゃん?大丈夫?」
声――――――小さな女の子の声。声が聞こえました。
声の主を、確かめなくてはならないような気がして、私は痛む首を無理矢理に回して声に目を向けると。
白髪の少女が、紺碧に双眸で私を見つめていました。無邪気な瞳に映る私の姿は、彼女自身にはどう映っていたのでしょうか。せめて、彼女に残酷な記憶として残らないことを・・・。
「いや・・・だめですよ・・・こんなところでへばっていては・・・」
血の味が泥と混じって口内にえぐみを満ちさせ、私が目を閉じることを許さない。そう、こんなところで死んでちゃ意味がないでしょう。まだまだ、これから、まだまだ・・・!
魔物はまだ最初の半分は生きている。アストラさんあが使い物にならないのなら、私が立つしかないでしょう。この女の子を連れて、逃げないと。
「そう・・・ですよ・・・!わ、たしが・・・!」
「お姉ちゃん、怪我酷いねぇ。無茶をしおるわい。どれ、仕方ない、お姉ちゃんは少しそこで寝ておれ」
「へ・・・?」
そう言って白髪の少女は徐に立ち上がりました。その白髪・・・いえ、純白の髪は、新雪のように眩く、滝壺の水煙のように轟々と。海の深さを湛えた紺碧の瞳は私を労るように。その佇まいは、この世のすべてを平伏させるほどに堂々たるもので・・・。
その姿は。
伝説に伝え聞く・・・
「『勇者』エーミール・・・・・・?」
「若いもんをいじめるよからぬ奴らよ。儂に出会ったのが運の尽きじゃったの。さぁ、久方ぶりに肩慣しとしゃれ込もうぞ!」
そのあとの光景は、幻想のようでした。夢幻の如く、現在がその場で追想されるような聖剣の軌跡。永遠を一瞬に凝縮したようで、私は朦朧としていたはずの意識すら叩き起こしてその威光を見ていました。
その永遠は、瞬きのうちに終結してしまいました。瞬きがもったいなかった。もっと目を開けていれば、もっとこの光景を眼に焼き付けていられたのかもしれなかったのに、と。
すべてを光の中に葬り去って、『勇者』は私の方を見て、ニッと笑うんです。年相応の女の子のように、無邪気に無垢に、可愛らしく。
それから、『勇者』エーミールはこう言いました。
「儂TUEEE!!」
これが、私とエミィの出会いでした。
今回は地の文が「ですます」でしたけれど、次回からはルイス視点での普通の地の文で書いていきます。