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骨は物を語る

無愛想な鉄の壁に抱かれた風も音もない地下室、ここには骨が二つある。骨とは言うがイメージとしては、学校の怪談でよく出会す骨格標本のようなモノを思い浮かべてもらえればいい。

確認はできていないが、並べてもらえば頭蓋から爪先まで一式揃っているはずだ。

何故見えないかと言われれば、備えた電球もつかなくなり、微かな灯りも射し込まないこの地下室はいつまでも真暗だったからだ。


地下室には十分な食料と照明があった。

生活が問題なく出来る程度の娯楽とライフラインも完備していた。しかし今となっては機能の殆どは死に至ってしまった。

最後まで手がつけられなかった缶詰めには、きっと土埃が積もっている。消費されるべく加工された鶏や魚達のことを思うと今更申し訳なく思ったりもした。こんな姿になった僕たちのことを缶詰めの中でバラバラの肉にされた彼らはどんな風に考えているだろうか、想像もつかない。


僕達がこの地下室に入ると決めたのは、この星の病が悪化し始めた頃だった。地上にあるものが砂に変わってしまう病だ。

「研究は進んでいる」と研究者は口々に唱えていたが、僕は余り信用していなかった。結局砂の侵略は止まることを知らず、隣街の更に隣街まで侵攻されたタイミングで用意していた地下室へ潜った。

自分達の住む地域が完全に砂漠になってしまうにも時間はかかる。僕一人が信用していなくとも、時の人となり目立つことを優先する研究者達は勝手に解決してくれるだろう。彼らはいずれ表彰台に立つのだと我先に成果を披露する。僕はその時が来たら飄々と地上に出ようなどと考えていた。

しかし、地上全てが砂になり覆い尽くしてしまうことを想定していない地下室ではそれも出来なかった。

ライフラインは絶たれ、空気を運ぶパイプは土で詰まり、僕達は為す術もなく命を失うこととなった。


二つの骨は僕と妻だ。

地下で潜む同胞達の健闘を祈る。




それからどれだけの時間が経ったかは分からないが

この地下室に鮮やかな日差しが射すこととなる。


「ここにも愚かな異星人のコロニーがあるぞ」

「俺たちの作戦は成功した。生き残りはない」

「数多くの同胞達を殺害し食した奴らだ。同情などするものか」


大きなトサカに羽根、鱗を纏った姿。僕達とは大きく姿の異なる生き物が僕の前へ現れた。彼らは部屋に入って早々に、転がる妻の頭蓋を踏み砕いた。乾いた僕達の骨は枯れ木のように呆気なく崩れてしまうようだった。


「こんな姿になってしまうなんて」

彼らは缶詰めを手に取り、涙を流していた。

「やはり早く滅ぼしてよかった。こんな仕打ち、俺には耐えられない」

「安心しろ。既にこの星は見渡す限りの砂漠で、地下に逃げた奴らもこれだ。我々の星に報告をして再建の準備をしよう」

「やがてはこの星の全ては水に覆われ、数々の樹が植えられる。同胞の種はまた息を吹き返すことだろう」


そう話しながら彼らは地下室を後にしたのだった。

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