新王宮騎士団9(越権行為)
帝国騎士団が管理する留置所へ行く。そして、ザキを探す。そこには、ザキとカミューがいた。
どうやら、この間の一件で仲良くなったようだ。ヒジリの顔を見るとザキはものすごく嫌そうな顔をする。
「そんな、嬉しそうな顔されたら、嬉しいな」
「誰がだ」
カミューはそれに対して、本当に嬉しそうな顔をする。
「こんなところに、どうしたんですか?」
「仲良くなったんだね」
「ええ、あの後、5日酔いで苦しんでいた僕を、面倒みて下さり、とても嬉しかったです」
「それは、よかった。こいつの、面倒みは意外といいんだ。でも、カミュー君は酒に弱いから、もう呑むの止めようね」
「はい、僕も止めた方が良いなって思いました」
それを聞き、ヒジリは嬉しそうに笑う。
「うっせえよ。それより今日はどんな用件だ?」
「カーミネの自宅が放火されたってね。その犯人に、ぜひ会いたい」
「じゃあ、手続き踏んで来な。そんな有名人連れてちゃ内緒は無理って言うもんだぜ」
「何で、お前等有名人なんだ? まさか、お前等何かやらかしたんじゃないだろうな」
心配そうに聞けば、ザキは大笑いする。
「ちげえよ。二人とも頭脳明晰で、顔も良いからモテてるんだ」
「何だ、違うのか? つまらん。でも、よかったな。お前らの見てくれに騙されてくれる女が、たくさんいて」
「お前なら、そうなるな」
ザキがおかしそうに、クスクス笑う。
「何だ?」
「二人とも、本当にモテてるんだ?」
「えっ。見てくれに騙されているんじゃなくって?」
「みんな憧れているんだぜ。女だけじゃない男もな。だから、なぜその優秀な二人が、悪の巣窟と言われている第三部隊にいるのか、疑問視されている。今、再有力なのが、実はどちらかが、隊長で何かの実験をしているんじゃないかという説だ?」
その言葉にヒジリは眉根を寄せる。
「悪の巣窟? どちらかが、隊長? しかも、何かの実験中。何のだ? 言って見ろ?」
「だから、勝手な思い込みだろ? そう怒るなよ」
「いや、赦せん。俺の前で言って見ろー」
ヒジリの叫びを、ジェイは当然だとでも言うように笑いながら聞く。
「自業自得ですね。これに懲りて、もう少しご自分で会議ぐらい出たら、いかがですか?」
「イヤ、こうなったら、さらに開き直るしかないだろう」
「なんでそうなるんですか?」
ジェイは呆れる。
「お前等が隊長だと思われていた方が、俺が遊べるから、便利だ」
二へ二へ笑うヒジリに限なりしたようにジェイは言う。
「今までも、存分に遊んでいたように思われましたが、まだ足りませんか?」
「足りねぇな」
カミューは惚けたように二人をみる。
「なぜ、お二人が」
そう言って、ヒジリを見る。
「え~、まさか、もしかして王宮騎士の方のお知り合いとか?」
カミューの言葉にヒジリは肩を落とす。
「なぜそうなる? 今までの話の流れから言って一つしか理由はないだろう。しかも、この構図を見れば、分かりそうなものを?」
「本当に自業自得ですね」
ジェイは本当におかしそうに笑う。
「えっ。まさか?」
カミューはその言葉で気付く。
「第三部隊の隊長さん? いやいや、まさかそんなことあるわけない、ない」
懸命に首を振って否定する。どうやら、信じたくないようだ。
「なんでだ?」
ヒジリはニッコリ笑って聞く。
「だって、あのお二人を、しめてかかれるぐらいの人だから、ものすごく優秀な人か、もしくは、噂通りどちらかが隊長さんのはず」
それを聞き、ヒジリは固まる。それを、見て、カミューは気付き、謝罪する。
「あっ。すいません」
「いいんですよ、元々会議を私にいつも押しつけているから、こんなことになるんです。これに懲りてくれれば、いいんですけどね」
ジェイが苦笑いして言う。
「だって、あれは意味ないんだも~ん。クダらん。会議に出るのは時間の無駄だ。後で決まったことをセイガーに教えてもらえば、十分だろ」
「そう言えてしまえるのも、あなたぐらいです。まるで、子供のお使いのようにセイガー中将を使うんですから。それより放火した人たちに会わせてもらえませんか。今回、我々は手続きを踏めないんです」
ジェイの言葉にザキは納得する。
「そういうことか。いいぜこっちだ」
「えっ、どういうことですか?」
カミューがザキに聞く。
「隠密ってことさ」
「あれだけで、良くわかりましたね」
カミューは、尊敬したようにザキを見る。
「それしかねぇだろう。あいつの副官はあいつと違ってきっちりしてる。それが、手続きを踏めないとなれば、一つしかない」
ぶっきらぼうに、ザキは言う。
「ここ、使え。今から連れてくる」
「悪いな。ついでに、ここ凄く臭くしても良いか?」
「別に良いぜ」
「ありがとう」
ザキが容疑者を連れてくる。
「そういうことか」
ザキは臭いをかいで、すぐ気付いたようだ。ザキは顔をしかめる。
「どうしたんだい。変な顔をして、さぁ、遠慮せず、ズズズっと入りたまえ」
「お前等、おかしいんじゃねえか。こんな臭え部屋入れるかよ?」
「入れないかい?」
「えっ?」
彼らの言葉にカミューは驚く。
「どうしたカミュー君?」
「だって、この臭いって、たぶん死体から発せられる臭いですよね」
それを聞き、気まずそうに顔を反らす容疑者たち。
「正解だよ。カミュー君。君達には臭いんだったね。良かったよ、君達が本当にこの臭いを、いい匂いだと感じていたら、困るからね。人の趣味はそれぞれだ、勝手にこっちで判断するわけ行かないし、もしかしたら蓄膿症かも知れないだろう? それをこっちで、勝手に決めつけられないだろう。君達が普通の感覚の持ち主でよかったよ。ザキ、窓を開けてくれ。この匂いは、嗅ぎ馴れているけど私も好きじゃない」
ヒジリは、ザキに窓を開けるように頼む。
ヒジリは、笑いながら言う。
「先ほど、臭いフェチでも蓄膿症って、わけでもないことが、分かりました。カーミネの家に火をつけた理由を、こちらが納得行く説明をいただけませんか?」
ヒジリの言葉に、彼らは気まずそうに黙る。
「急に黙りましたね。こちらで勝手に調書を書いてもよろしいですか?」
「それは、辞めて下さい。後で辻褄が合わないと面倒ですから?」
「今回は、はっきりしてるだろう?」
「放火ですか」
「イヤ、放火に恐喝だ」
それに気まずそうな顔をする。
「恐喝なんて、ありましたっけ?」
キョトントするジェイにヒジリは教えるように言う。
「あったね。お前ら、町で女の子から金取ったな。ここで暮らすためには、金を納めろとかなんとかいって、彼女はあの家の住人だ」
ヒジリの言葉に驚いたような顔をする。
「お前等が彼女から奪い取ったものは金品だけじゃない。くつろぎ、のんびり出来る思い出の場所まで奪ったんだ。そんな権利が、お前らにあるのか?」
初めて知った事実に、どうして良いか分からなくなる少年達。そして、ポツリポツリと話し出す。
「町で、バイトをやらないかって、身なりの良いじいさんに雇われたんだ。あの家に火をつけたいって、破格の金額を提示してきた。金の支払い方は、前金で半分、仕事が終わったらもう半分払うって言ってた。もしつかまっても自分が軍の上に顔が利くから、助けてやるっていわれて」
「ふ~ん。誰に利くんだか。まぁ、良い。お前等その半分ももらえると、軽く考えてないか。絶対、自分に不利なりそうなものは残さねぇよ。確実に消されるな」
ヒジリの言葉に少年達は息を呑む。
「なぁ~、助けてくれよ」
「いつも皆、お前等にそう言わなかったか。それをお前らは、助けたか?」
気まずそうに顔を逸らす。
「それが答えだ。助けてくれって言う子を、お前らは笑って、殴って蹴っていただろう? 金巻き上げていたんじゃないのか? なのに、自分の時は、助けてもらおうなんて、ずいぶん、虫が良すぎるとは思わねぇか?」
少年達は泣き出す。
「ごめんなさい。でも、死にたくねえよ。ただ、外から、俺らは火をつけただけで、中には入ってない」
「やっぱりな。それからおつむが足りてますか?」
「そんな承認握っている人を、残さないですよね?」
「そう、カミュー君冴えてるね。十中八句消すために、残りは後でって言って、呼び出したね」
「残すわけねえわ。確実に」
ザキも言う。
「というわけでもらいに行ってもらいます」
ヒジリはすごい笑顔で言う。
顔面蒼白になり、泣きながら彼らは言う。
「もらいに行ったら、俺達殺されちまうよ」
「お前等は、大事な証拠を燃やした、ただ金欲しさのためにな。もし生きていた人がいたら、お前等は殺してる。問答無用でな。つまり、殺人罪。その代価を支払え。己の命でな」
ヒジリはバッサリ切り捨てる。真っ青になって震える。
「俺らは知らなかったんだ」
「知らなかったが理由になるのは、子供の時だけだ。もう、それが通用する年齢じゃない。やれ。やらないなら、私がこの場で、お前らを切る」
ヒジリが一人の男の喉元にピタリと剣を突きつける。余りに鞘から剣を抜くのが早く、そこにいた誰の目にも止まらなかった。カミューは惚けたようにそれを見る。剣を突きつけられた男はごくりと唾を飲み込む。
「私は気が立っている。お前等に返事など求めてはいない。お前らに決める権利があると思うな。行け。行かぬなら、この場で死ね。俺はどちらでも良いぞ」
「辞めて下さい。彼らにも更正するチャンスを与えてあげて下さい。確かに、彼らは取り返しのつかない犯罪を犯してしまった。でも、そんなことで、彼らを殺し王宮騎士の名を汚さなくっても、良いじゃないですか?」
剣と男の間に手を広げてカミューが入る。
「カミュー君、そこをどきなさい」
ヒジリは抑揚のない声で言う。
「イヤです」
カミューは涙を流しながら言う。
「ここで彼らを殺したら、彼らと同じになってしまう。僕は子供の時から、王宮騎士に憧れを持っていました。お願いですから、それを汚さないで下さい」
ザキが、いざというとき、自分が間に入れるようにと姿勢をとっていた。どうやら、ザキにとってもカミューが最近では自分のテリトリーに入った人間だから、特別なのだろう。
「分かったよ」
ヒジリは苦笑いしながら、剣を鞘に戻した。
「分かった、行くよ。行きます」
少年達も、だいぶ反省したようだ。
「世の中には、ごめんなさいじゃすまないことがあると知れ。たった五歳になったばかりの子から住む家を奪ったんだ」
冷たい瞳でジェイは言う。
「はい」
彼らも反省する。
ヒジリに彼らの命乞いをしながら、その実、一番怒っていたのもジェイだ。かわいい奴だなとヒジリは思う。長くいすぎたせいでここから、離れたくないと言う思いが生まれてしまった。でも、たぶんその時間ももうすぐ終わりだろう? どうかその時には、泣かないで。彼らと笑ってさようならをしたいから。どうかお願い。それが、ヒジリのただ一つの願い。
「カミュー君、彼らの保釈申請がでてないか確認してきて下さい。それから、彼らを一度、牢屋に入れておいて下さい」
「はい」
そう言って、彼らを連れて出ていく。
「計ったな」
ザキは怒り気味に言う。
「計ったって、酷いな。ただ、カミュー君ならきっと助けるだろうとは思ったけどね。彼らも心入れかえるきっかけには、なったと思うし、うちの副官と彼らは、私が助けると、約束したからね」
「あんたが動くのか?」
ザキは、驚く。
ヒジリはそれに、苦笑いをする。
「だって仕方ないだろ? カーミネさんを手に懸けた者は分かるよ。でも、本当の黒幕事態は分からない以上、相手の力も分からないんだから、自分で動くしかない」
「誰だ?」
「サラだよ」
「脅されたか?」
「たぶんね。それでなきゃ、サラは動かないだろう」
「あんたにサラからは何も、言われなかったのか?」
そう言われ、ヒジリは考える。
そして、ハッとする。
「俺のせいだ。あいつは何度も、助けてと言ってたのに。あいつなら、尚更俺が行かないと」
「そうだな」
ザキも納得する。
「出てます」
「どこから?」
「それが、この間飲みに行った。御主人のサラさんです、何かの間違いですかね?」
それを聞き、ヒジリは笑う。
「いや、良いんだ。だと思ったからね。彼女は町の住人を人質に取られ泣く泣くやったんだ。そんな風に、彼女を追いつめるなんて、赦せないよな」
ヒジリはニッコリ笑う。
「じゃあ、チャッチャと行ってくるか」
そう言って、ヒジリは彼らを連れて行く。
「どうして、サラさんなんですかね?」
「彼女は、裏に精通しているし、今回の黒幕は彼女を使ってきた。たぶん、町の住人を人質に取られて彼女は自分の意思で動けないんだ」
「そんな、じゃあサラさん脅されてやったんですか?」
「長い年月、彼女はヒジリさんにSOSを出していたはずだ。それに、気付かなかったのはヒジリさんのミスだよ。だから、ヒジリさんは自分が赦せないんだ」
「そんな、ヒジリさんのせいじゃないのに」
「でも、それに気付かなきゃいけない。それが王宮騎士だ」
ヒジリが言う。
「そんな……」
「そうですね」
クロウドも頷く。
「王宮騎士団である以上、国が危険に曝されることには、常にアンテナを張ってなきゃ。国が傾きます」
今度は、ジェイが言う。
「それだけ手厚い賃金を頂いていますからね」
「だよな。俺が気付かなきゃ、ダメだろ」




