新王宮騎士団8(カーミネの家燃やされる)
そして、やはりと言うか、調査にとは、すぐにいかなった。
と言うのも、極秘のため、通常の仕事は当然あるわけで、さらには、ヒジリがためた仕事も山済みなわけで、結局、調査に乗り出せたのは、セイガーから言われてから実に2日後だった。調査はまずは現場100回と言うことで、カーミネの自宅へと向かったが、そこで待ってた光景に、ヒジリは愕然とする。
「なんだこりゃ」
「火事で焼けたみたいですね」
「何で、誰も住んでいない家から火が出るんだ?」
「なんでも、2日前、空き家を見つけた、若者たちが酒盛りをしていて、火を出してしまったそうですよ。今、その者達は帝国騎士に捕まっています」
「なるほどなって、何で、お前がそんなこと知ってるんだ?」
ヒジリが不思議そうに問えば、ジェイは呆れたように言う。
「捜査に当たる前に予備知識なく出来ますか? 基本でしょう?」
「ごもっとも」
ジェイの言い分にヒジリは何も言い返せなかった。
だから、セイガーに当たる。
「あいつ資料渡したなら渡したって言っておけよな」
「隊長がそう言うって、セイガー中将も分かってたんでしょうね。これ預かってきました。国一番の茶葉です。大分、奮発してくれましたね」
「う~ん、ご機嫌伺いなのが、目に見えるが。ま、いいか」
ホクホク顔のヒジリは、その茶葉を大事そうに抱える。
「入ってみますか。何も出ないと思いますが」
そういって、焼けている家の中へと入る。
「こりゃ、外からの放火だな。外より、中の方が綺麗だ」
入って見て、ヒジリは言う。
「ええ、もしかすると犯人は、家の中に遺体があること事態知らなかったかもしれませんね」
「そうだな。でも、知らなかったでは、何の言い訳にもならん」
きっぱり言い切るヒジリ。
「やったことの罪は自分の命で償ってもらわないとな」
ヒジリに情けはなかった。
ジェイは首を傾げる。彼らは、確かに火をつけた。でも、誰かの命を奪ったわけではない。だって、その前に何者かに、殺されていただろうと思われる。それでも、代償に命で支払わなければならないのだろうか?
「ジェイは納得したくないみたいだね。彼らは、今回は、確かに誰も死なせなかったよ。でも、そこに歩けない人、例えば赤ちゃんがいたら、弱ってる老人がいたら、病気や怪我で歩けない人がいたら、彼らは結果として殺してる。罪を犯すときには、自分できちんとその罪を確認してからにしないと駄目だ。知らなかったは、何の言い訳にもならないよ。まして、人を殺してたらね」
「そうかもしれませんが、現に彼らは誰にも手をかけていないじゃないですか?」
「それは後で、分かったことだ。手をかけなきゃ良いのかい? それは、違う。彼らも子供じゃない。自分たちのしたことを分かって、貰わなきゃ」
「隊長の言いたいことは、私も分かります」
ジェイは言葉を言い募る。
「でも、彼らはカーミネさんに手をかけた訳じゃない。命を持って償うのは殺人犯の方です」
「そちらはきっちり償って貰うさ。でも、彼らの罪は中を確かめなかったことだけじゃない。上からの指示に何の疑問を待たなかったことだ」
「?」
ジェイはヒジリが何を言いたいか分からず、首を傾げる?
「分からないかい? こう言う場合なんて言えばいいんだろうな、クロウド?」
クロウドに助け船を求めるように言うが、その前にヒジリはクロウドに笑って言ってみろと言うように言う。まるで、クロウドに問題を出すようにヒジリは言う。ヒジリには時たまあった。クロウドはやれやれと嘆息する。
「えっと、隊長が言いたいのは、つまり、誰かに指示され動くと言うことは、指示されなきゃ動けないと言うことなんですよね。それは、逆に言えば、何でも指示さえされれば、動くってことだよ。そこには善悪なんて一切関係ないんだから、一番厄介だ。彼らは自分で考えると言うことを止めてしまっている。ってことですよね。隊長」
「そうだ。それそれ」
ヒジリは、嬉しそうに頷く。ジェイは悔しそうに俯く。こう言う時は、クロウドに、自分は隊長の思いを代弁してもらわないと、分からない。こう言う時、自分が幼くなったようで、嫌だった。バカにされていると思ったジェイだった。だから、こう言う時、反対を言って、業と変えさせようとしてしまう。それが、子供の証明なのかもしれない。こういう時、クロウドは、いつも仕方ないなと困った顔をする。それを、見るのもまた、ムカつくのだ。時折あった。ジェイと同い年のはずのクロウドが、凄く大人に見えることがある。今回もそうだ。
「でも、命で償う罪ではないんじゃありませんか? 隊長が言いたいことは、良く分かります。でも、命で償う必要はない」
ヒジリは笑い出す。
「ジェイはこういうとき頑固だね。分かった、君の願いを聞き届けよう。彼らは、私が助ける。寸前のところでね。ちょっとは、怖い思いして貰わなきゃ。自分たちのしたことが、どういうことか分からないよ」
「良かった」
ホッとしたようにジェイは言う。
「隊長も優しいですね」
クロウドが言う。
「大事なジェイに嫌われたくないからな。それに、ジェイに嫌われたら、私の仕事やる奴がいなくなる」
「やっぱりそこですか?」
苦笑いするクロウド。
だったら、代わりにお前がやるか?」
「ご遠慮いたします。何せ、デートに忙しいのでね」
「だろ?」
そういえばとジェイはそこで初めて、気づく。ヒジリはクロウドに仕事を押しつけたことは一度もない。初めて疑問に思ったジェイ。クロウドも優秀な奴だ。クロウドにヒジリ隊長でも、仕事が押し付けられないとか? そう考えて、ハッとする。そう考えれば、クロウドが大金を動かせた理由も説明が付く。
なんで、そもそも、クロウドはこの隊に入ったんだろうか? そう言えば、聞いたこともなかった。
「カーミネの遺体は?」
ヒジリの質問に、ジェイの思考は現実に戻される。
「荼毘に、もう伏されているようです」
「お~、手際の良いことで。いつもこうだといいな。司法解剖にも、どうせ回さなかったんだろう?」
「ええ」
「掘り返してみますか?」
クロウドが言う。それに対し、ヒジリは、首を振る。
「掘り返したところで、もう日にちが経ちすぎてる上、火事にまかれてるし、無意味だろう」
「そうですね」
「いつも、こういう仕事は家に押しつけているのに、ずいぶん手際が良いじゃないか? 何番隊がやった?」
「えっと、そこが、不明ですね」
「ふ~ん、自分達でやったってことか、ずいぶん手際のよろしいことで」
パチパチとバカにしたようにヒジリは手を叩く。
「ですね」
ジェイも肯く。
「いつも、こうだといいな」
「絶対、無理無理。自分の罪を隠すことには、精一杯動きますけどね」
「だよな。って、ことは何もないか」
「ええ、たぶん証拠になりそうなものは根こそぎ、もう持って行ってくれてますよ」
「何もなさそうですね?」
クロウドが言う。
「それに、火事で、だいたい燃えていますから」
炭だらけの部屋を一瞥し、ヒジリは嘆息する。
「だよな」
その時、ヒジリが険しい顔をして何かを拾う。
「何かありましたか?」
「イヤただのゴミみたいだ」
と言った後、床をおもいっきり叩く。
「クソ」
何事かとジェイは、ヒジリを見る。
「俺が、気付かずに、すまない。お前は、悲鳴を上げていたのに、こんなことになって、初めて気付いた。遅いよな。許せ」
ジェイからは、何か分からなかった。
それは、金の鎖で、とても、ちゃっちかった。炎に撒かれたと言うより、火災の後に置かれたと言うぐらい綺麗だった。よく火災の中、無事だったものだと思わせるものだった。そのぐらい、ちゃっちかった。
だけど、ヒジリには分かった。彼女の望みが。自分のいたらなさに反吐が出そうになる。彼女は、悲鳴をあげていたのに。ジェイが心配そうに聞く。
「隊長、どうしました?」
「いや、何でもない」
ヒジリはこっそり拾ったものを大事そうに、ポケットにしまう。表情も先ほどまでが、ジェイの気のせいだったように、もう元に戻っている。なにかが、その時、キラリと光った。
「あれ、これなんだ?」
そう言って、ジェイが拾ったのは、昔の金貨だった。それもまた、炎に撒かれていない。どうやら、それも火事の後に置かれたものらしい。だが、ジェイは気付かなかった。ヒジリが難しい顔をしていると、ジェイが聞く。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでもない」
すぐ、顔色は、戻りジェイは気のせいだったかと思う。
「もう何もないな。お前が拾った奴も証拠品じゃなさそうだし、戻るか」
「そうなんですか?」
「ああ、カーミネの遺品だ。あの人は昔の硬貨とか好きだったからな。キラに渡そう。お爺さんの遺品が手元にあるのとないのじゃ、だいぶ違うだろう?」
「そうですね。お願いします」
そういって、それは、ヒジリの手に渡った。ヒジリは、大切そうに、それを握りしめる。それを見たクロウドは、天を仰ぐ。それは、クロウドにとって、終わりを告げるものだった。今まで、彼のおかげで自由にできた。感謝をしてもしたりないぐらい。彼が自分のために負ったものは、とてつもなく大きなものだ。その彼が、もうギブアップだと悲鳴をあげている。楽になりたいと。
楽にしてあげるのは、ヒジリじゃない。自分の役目だ。それが、俺があいつにできる唯一のことだろう。クロウドの顔を見て、ヒジリは苦笑いする。
「お前が辛いなら、俺がやるぞ」
「いいえ。これだけは私がやらなければ、今までがんばってくれたあいつに、返せる唯一のものですから」
何かを決めたようにクロウドは言う。それに、ヒジリは自分を責める。あの時は、これが一番の道だと思った。だが、それは不幸な人間を作り出しただけではないかと思う。
「そうだな」
ヒジリも肯く。クロウドは、話を元に戻す。
「そうなると残りはごろつきの依頼主ですね」
「だな」
「接触を待つしかありませんね」
クロウドは言う。
「ああ、こうなったら、あいつらに、ぜひとも役に立って貰うか」
ニヤリと笑うヒジリ。
「役に立てる所があって、あいつ等もさぞかし嬉しいだろう」
「悪どいですね」
クロウドはクスリと笑う。
「何を言う?」
「彼らを囮に使うおつもりでしょう?」
「他にあいつ等を使える場所あるか?」
「ないですけど、私は、欲張りですから、1000人よりも1001人の方が良いとだけ言っておきます」
クロウドの言葉に、「了解、結局お前も優しいな。ジェイにも嫌われたくないし、助けるよ。ギリギリの所でな」
と、言って、ヒジリは笑みを浮かべる。ジェイは何のことか分からず、頭を捻る。




