新王宮騎士団5(カミュー潰れる)
「ところで、ザキ。最近、面白いことない。俺最近つまんなくってさ」
「そうだな。こいつの報告書とか」
「うわ~、辞めて下さいよ」
カミューが慌てたように、止める。
「何? なに? 何だ? 面白そうだな。聞かせろよ」
カミューは素面ではいられないとばかりに、一気にキラ飲む。
「あっ、バカ。俺知らねぇぞ」
ザキは止めるが、カミューの勢いを見て、そうそうに止めても無駄だと思ったらしい。
ヒジリも、一気に飲んだから、カミューも自分も行けるものと安心していた。
でも、呑んだら視界がグルグル回るし意識も無くなるしで力ミューはその場に倒れた。
こうして、一個泥酔した男が出来上がる。
「だから、言わんこちゃねぇ。キルはチビチビやるのが良いんだろう。グイッと行けるのは俺の知っている人じぁヒジリさんぐらいだ」
「俺も一回で良いから、彼みたいに酔いたいな」
「それは無理だろ」
ヒジリは酔えないのだ。環境がそうさせたのかは分からないが、酔うことができない。だからこそ、思う。1度で良いから、酔いたいと。
「結局、酔わせるぐらいなら撒けよ。あんたほどの腕なら、簡単に撒けるだろう。それに、こんなど素人の尾行に気づかなかったとは言わせないぜ」
言外に俺でも、気付くし、撒けると言われ、ヒジリは苦笑いする。
「気付いていたよ。彼がついて来たのはねぇ。でも何で付いてくるのかが、俺にも初めは分からなかった。でも、理由を聞けば、凄く可愛くてな。まぁ、同じ部隊のよしみだ、送ってやれよ」
「面倒臭よ。男だし一晩ぐらい転がしておいても平気だろ」
「そうすると、飲み屋で軍に見付かってよくて退役、悪くすれば、極刑か。彼の運命もここまでってことか? それもいいんじゃないか別に。ただ、お前が気にならなければな」
ご丁寧に節まで付けて、歌うように言うヒジリに己がこの場にいることが恨めしくなる。
ザキは深いため息をつく。
ワザとか。ザキは気付く。どういうつもりか知らないが・・・。
「言っておくがキルは無理矢理、俺が呑ませたわけじゃないし彼の意思だ。それに、俺が無理矢理誘った訳じゃない。で、そこに偶然お前が、来たのも偶然だ。で、さらに偶然彼とお前が同じ部隊だった何て偶然だろ」
「何処までがあんたの場合偶然だと思ったら良いのか俺にはわかんねぇよ。あんた不思議な力ありそうだし?」
ヒジリは剥きになって言う。
「そんな力ねぇよ」
「疑いたくなる」
「疑うな」
「ま、俺はお前の部下に心底同情してるけどな」
「あいつらに同情はいらないぞ。何せ、私の寝首を取ることを、生き甲斐にしてるからな」
「ま、お前の部下やってる奴なら、まともじゃないわな。で、こんな時期にこんなところで、油売ってて良いのかよ。あんた仮にも隊長だろ」
言外に今国で問題になってることを言われ、ヒジリはにがり切った表情で、
「今日、多分その会議が開かれているよ」
「そんな中、町に下りて酒かよ。良いご身分だな」
笑いながら「何とでも言え」といった後、急に真面目な顔して、ヒジリは聞く。
「お前のとこに何か情報は下りてきてないか?」
「俺の持っている情報も対してあんたと変わらないと思うぜ」
「そうか。案外、動いている奴は用心深いな」
「用心深いなんて、もんじゃねぇよ」
「そうだな。お前にも掴ませない何てな大したものだ」
感心したように、ヒジリは言う。ザキはこの国の実は諜報員だ。それも、諜報員としては、かなり優秀だ。
「感心している場合かよ」
チッとザキは舌打ちする。
「そのうちこのままだと、暴動が起きるぞ」
「そんな深刻か?」
「深刻だよ。一昨日から塩も押さえられた」
「上手いな」
ヒジリが吠えるとザキががなりたてる。
「誉めている場合か?」
「塩を押さえる辺り、うまいだろ? 人はどんなに高かろうと、塩となら取引せざる負えない。うまいよ、良く考えたな。犯人も」
「だから、誉めるな」
「そうは言うが上手いよ、この犯人。あっ、クロウドこっちだ」
手を上げる。
クロウドは笑うと、こちらに来る。クロウドを見るとザキは言う。
「何だあんたもたまには仕事すんだな」
「『たまに』が余計だ?」
「解せないな。今回この犯人は、俺に何も掴ませないのだから」
「確かにな」
「普通は少しでも、漏れるのに、今回は漏れて来ねぇ」
「何も掴ませないってことは、こちらの動きも把握してるのかねぇ?」
「分かんねぇ。くそ。ただ、この犯人凄く慎重だ」
ザキの言葉でヒジリは何かに気付く。
「そうかそういうことか。チィ。だったら、俺が出たら不味い。これはクロウドにでも、頑張ってもらうか? ここがお前の正念場かもな」
「正念場ですか?」
「ああ」
「えっ、あんたが別の奴に頼むの珍しいな。人に任せるなんて。いつもなら自分がって、率先して飛び出すじゃん」
「別段、いつも先陣をきって飛び出す訳じゃないぞ」
「以前はそうだったろう?」
「そうだっけ? 忘れたなぁ」
「都合良い頭だな。まぁ、良いや。とにかく、あんたには厄介な相手何だな?」
「そうだ。だから、今回は俺をあてにするなよ」
「わかったよ」
「遅くなりました」
「いや、お前が来るまでキラで酔いしれてた」
「可哀想に潰れている人もいるじゃないですか?」
クロウドはカミューに視線をやる。
「彼は勝手に潰れたんだもんね。俺のせいじゃないよな、ザキ」
ザキはクロウドを見て惚けていた。
「ザキ」
ヒジリが呼び掛けると、「あぁ」と乾いた返事を返す。いったいどうしたのか?
ザキが口を開く。
「この人って、ケントの。嫌なんでもない」
ザキはキルをもらって行く。
「高い酒ごちそうさん」
もちろん、カミューのことも忘れない。あぁ、見えてあいつは面倒見がいい。
「ああ。それは秘密代だ」
「わかった」
何を秘密と言ったのかザキは分かったようだ。隣の席につく。ヒジリは早速聞く。
「お前、塩を止められたの知ってたか?」
「ええ。今日の会議はそれでしたから、一応は。一月は何とか出来るとのことでしたが、それより長引くと」
「死人が出るか?」
「ええ、だから、王から勅命です。『早く事態収拾せよ』このままでも1月はもたせることは出来ると」
ヒジリはそれを聞き、何かを考える。
「つまり、1月は何とかなるんだよな」
「ええ、そう言ってましたけど」
「じゃあ、俺達はカーミネの件が先だ」
「何故です?」
「カーミネの方がすぐ解けそうだからだ。彼女がいる」
「誰ですか?」
クロウドに聞かれ、ヒジリは少女を懐かしそうにみる。
「子供の成長は、早いから確信は持てないが、多分合ってると思う」
多分と言う言葉は使っているが、ヒジリは確信を持っていた。
黒色の髪を肩のあたりで揃え、黒い目をした可愛い子である。
そうヒジリが言うと、クロウドは興味深そうに聞いてくる。
「知ってるお子さんですか?」
「多分ね。君も知ってる人のお孫さんだ」
「誰ですか?」
「彼女は間違っていなければ、本宮レイだよ」
ヒジリはその子の本名を言う。
それを聞いてクロウドは驚く。
「本宮ってあの?」
「あのがどのかは、俺には分からないがたぶん、合ってる」
本宮とは、伝説の鍛冶師だ。伝説になる程の腕を持ち世界最高峰の剣を打っていたこともあるが、それよりも彼がやらかしたことが伝説になっている。彼は白髪のシワだらけの厳格を字で書いたような人だった。
クロウドは驚いたようにレイを見る。
「そうだ」
今ではもう伝説になっているが、彼はまだ21歳になったばかりの王に面と向かってこう堂々と述べた。
「私の剣は人を選びます。残念ながら、それ故、私の剣の中にあなた様に合う剣はただの一本もございません」
そうみんなの目の前で言ったのだ。
つまりは 王の器にあらず、腕が足りないと言ったに等しかった。
その場にいた者は皆固まった。
もちろん、王は怒り彼を不敬罪の罪に問い、ギリギリのところをヒジリが彼を助け出したと言う次第だ。
ただの鍛冶師なら、自分に合う剣を作れないのかとバカにもできる。
でも、先代の王が認めた唯一の鍛冶師だ。
王もはっきり言って子供だ。
まぁ彼はまだ20代の子供である。
それも仕方ないだろう。
でも、そのお礼にと、王があれほど欲しがっていた剣をヒジリにくれた。
その際、彼はこう言った。
「儂が剣を作っていたのは、もし運命というものが存在するなら、お前さんのためかもしれんな。儂はお前に剣を渡せたことを、誇りに思う。ありがとう」
本当に嬉しそうに言った。
そう言われ、ヒジリは何だか照れ臭かった。
そういって、一振りの剣をくれた。
それは、剣としてはこれ以上ないというぐらいよく切れた。
そして、ヒジリが国から遠くへ離そうとしたが、そんなヒジリを止めたのは彼だった。
何でも剣のメンテナンスのために近くにいなければ、いけないらしいということで遠く離れずすぐ横に住んだ。
多分彼は他にも使命を受けていたのだ。
それも、前王から。
どうやら、剣を渡したのもヒジリだけじゃないらしい。
それが逆に王の裏をつき、見つからなかった。
子供夫婦も、肝が据わっていて何もしないのは、もったいないと農業をしていた。
その子供を流行病で亡くし、彼の元に残ったのはまだよちよち歩きの孫だった。
子供が亡くなったときは、こっちが見ていられないぐらい落ち込んだ。
彼は一度として自分のしたことに後悔はしていなかったが、子供を医者にもみせられない境遇にまで落としてしまった己を恨んだ。
だから、孫娘を命がけで守ったのだろう。
それが、贖罪であるかのように。
剣のメンテナンスのため3年おきに尋ねていたが、今年がその年だった。
もっと早く行けば良かったと、ヒジリは悔やまずにいられなかった。
ヒジリは隣のテーブルに行き、ひざまずき彼女にヒジリは優しく言う。
「久しぶりでございます。本宮レイ嬢」
突然名を呼ばれ、驚いたようにヒジリを見る。
「どうして?」
彼女のその言動でヒジリは確信する。
「やはり、そうでしたか?」
「どうして?」
「私は君がもっと小さい時に、会いに行ったことがあるよ」
「えっ?」
「あのしっかめ面ばかりの人が顔を赤らめながら、いかに君がかわいいかを話すんですから。あれは貴重な体験でしたよ」
「お爺ちゃん」
思い出し泣く。
そして、ヒジリに抱き付く。ヒジリは優しく抱き締める。
「お爺ちゃんは私のこと好きでしたか?」
不安そうに聞く。
ヒジリは笑って、不安を取り除くように言う。
「自信を持って良い。彼はあなたのことが大好きでしたよ」
「お爺ちゃん」
泣き出すレイを、ヒジリは軽く抱きしめる。
「彼はあなたお手製のシチューが特に大好きでしたよ。合う度に自慢していました。是非私も食べてみたいものです。そんな貴女がどうしてこのようなところに? 何があったんですか?」
「1週間前、突然野党が押し入ってきたんです。お爺ちゃんが私だけ逃がし、私は見ていないのですが」
「じゃあ、あなたはどうやって、本宮の死を知ったんですか?」
その質問に、レイは首を傾げる。
「それは、ここの店長さんに教えてもらいました」
それを聞き、ヒジリは苦い顔をする。
「で、ここに逃げてきたんだけど、ここに住むにはお金がいるんですってね」
その単語にヒジリもサラも眉をしかめる。
「お金?」
「ええ、住むにはお金を渡せと言われました。違うんですか?」
「違いますね。でも、貴女だけでも、助かってよかった。でも、道で襲われたとかではなく、家に押し入ってきたんですね。そして、この街では金を要求されたと」
「はい」
少し考え込むようにヒジリは黙る。
そして、サラに頼む。
「サラ、ここら辺で金を要求する悪どいことをやっているバカな奴らがいないかを調べて下さい」
サラは、レイに頭を下げる。
「ごめんなさい。私のヤサでそんな勝手なことはさせない。絶対に見付けるわ」
そして、サラは店の子に指示を出す。急に店の中が慌ただしくなった。
「ねぇ、お兄ちゃんがヒジリっていう人?」
レイが尋ねてくる。
今度はヒジリが驚く番だった。
「そうだよ?」
「じゃあ、お爺ちゃんから、ヒジリって人に会ったら渡せば分かるって言ってたの」
っとポケットから、なにやら手のひらサイズの赤い物を出しヒジリの手に乗せた。それはルビーだったが、見る人が見れば分かる石。こんなところにあったかとヒジリは思った。これは予想外だったな。でも、カーミネは一番安全な方法で、これを帝都によこしたんだ。流石だよカーミネ。前王はカーミネに渡していたのだ。行方不明になったっと思われていたが、さてこの宝石は何処に行くのかね?それは、この宝石だけが知っている。カーミネが渡したいと思っている人のところへ行けば、一番良いが。
「何か分からないけど、お兄ちゃんに渡せば分かるって、そのときに、こう言えばいいって『お前がこいつだと思う者に渡してくれって。さすれば、我が願いも成就されたし』って、何かよく分からないんだよね。お兄ちゃん分かる?」
「そっか~。ああ、ありがとう。確かに了承した。カーミネありがとう」
それを大切そうに握りしめ、天を向く。まるで、カーミネ本人に言うように。
「私の方は明日までには上げるわ。聞きたかったら明日顔を出して」
ヒジリは苦笑いすると、
「そうしましょう? どうやら彼らはこの町のドンを怒らせたようだね」
サラの目は怒りで震えていた。
「怒らせてはならない人を、怒らせちゃったね。その報いを彼らは受けるんだね。自業自得だけど、ちょっと同情するね。クロウド俺達表からはいけないから、後で王宮騎士団の部屋で落ち合おう」
「はい」
「この街でそんなせこいことして、生きていけるなんて甘いわ。私は絶対後悔させてやる」
「怖いねぇ、お姉さんを怒らせると。あっ、そうだ。ザキ、カミュー君をよろしくね。それからサラ彼らをどうしようと君の自由だけど、殺さないでね。私も彼らには聞きたいことがあるんだ。でも、そのあとは自由だ」
ザキとサラの返事を聞くことなく、ヒジリはキラを連れて立ち去る。
「君に働き口と住むところを、提供しよう。ただし、めちゃくちゃ人使いは荒いぞ。それは、肝に命じておけ」
「レイ何でも頑張る。教えてくれれば何でもやるよ」
「偉いぞお前は器用だから、すぐ覚える」
そう言って、ヒジリは彼女を城へと連れていく。
もちろん、前からは入らない。横の壁を彼女を担ぎヒジリは、楽々5メートルぐらいある壁を乗り越えていく。
そして、壁の横にある木に飛び移る。目指すは、5階。軽々と登る。