新王宮騎士団3(クロウドと話す)
ヒジリは窓の外を見ながら、深々とため息をつく。
「どうしました、隊長? そんな、意味深なため息をついて」
声のした方を見れば、ヒジリと同じ軍服に身を包んだ20代の男性が立っていた。彼もまた、ヒジリと同じく短髪ではなく、茶髪のサラサラヘアーを良い感じに伸ばしていた。彼は多分、腰ぐらいあるに違いない。彼は髪を切れないのだ。ある理由から伸ばしていた。
服もヒジリ同様着崩していたが、顔の造形が良いせいか、見た者には清潔感漂う好印象を与える。
「何だ、貴様か?」
一別だけして、また窓の外に視線を戻す。
「失礼な人ですね。外にでれば『クロウド様、クロウド様』って、後を立たないんですよ」
「じゃあ、外でプラカードもって、『お金下さい』と書いて立ってろ。よっぽどその方が、金になるぞ。その方が……」
「本当に酷い人ですね。俺に物乞いの真似をやれと」
この3年でクロウドからは、敬語が消えていた。街の環境に慣れたってことだなとヒジリは良く思おうとした。でも、これは垢抜け過ぎだろ。
「真似じゃない。物乞いをしろと俺は言っているんだ。じゃなきゃ、お前の云うかっこよさとやらが無駄に終わるぞ」
「女性に全く興味持たない人には、大人の魅力が分からなくっても仕方ないか?」
クロウドは、隊長と呼んでいるが、年下に見える。クロウドより、3年入ったのが早かったとは言え、位にこんなに差が付くものだろうか? ヒジリは、今や中将の位になっている。ヒジリはクロウドが来るまでに位を上げるべく、頑張った。クロウドはその間街の声を聞いた。そこでは、見るもの聞くもの全てがヒジリの言った通り初めてだった。で、ヒジリから召集がかかり、今度は立場を変えて聞いてみろ。また、違った話が聞けるぞ。と言われた。で、1つ条件が付いた。王宮騎士団の試験を受けろ。その際、1番になれる奴を連れて来い。そして、お前が信頼できるヤツを連れて来い。そうしたら、俺の隊に引き抜くだった。その言葉を信じた。隊長には3年間、全く会っていなかった。だから、驚いた。全然3年前と姿が変わっていなかったんだから。
「それが大人になるってことなら、大人になれなくっても構わんぞ。俺は永遠に分かりたくないしな」
バッサリ切って捨てる。
「でも、やっぱり、お前は口を開かぬが花だな」
「そういうのはあなたぐらいですよ。そのギャップが女性を引き付けるんですよ。分かりませんか?」
「じゃあ、俺は一生分からなくて良い。分かりたくもない」
「でも、あなたも口を開かぬが花と言われるでしょう? しかも、女の人に。俺は言ってくるのは男だけです。しかも、泣き崩れるようにして」
「何でだ?」
「女を取られたくない、男の成れの果てと言いますか?」
「つまりは、己はモテるって自慢か? 自慢か? 自慢なのか? そんなの聞きたくないな」
バッサリ切り捨てる。
確かにヒジリは、女の方から言われている。
でも、勝手に親切の押し売りをし、ヒジリが自分の予想とは違う反応だと怒るんだから、たまったもんじゃない。
「女なんて、面倒なだけだ。煩わしいね」
「うわ。ジェイとおなし発言」
「ジェイほど、極端じゃないぞ、俺は」
「それは隊長が、ジェイほど幼少期に地獄を見ていないからですよ」
「そうなのか?」
「って言ったら、怒られるんでしょうね」
「何と?」
「俺の幼少時代を知らないくせに、勝手なことを言うな」
「正解だなぁ。ジェイなら、きっと言う」
笑ってヒジリは言う。
「お前はやはり、流石だな。いい加減、上に行けよ」
ヒジリは知っている。
クロウドが、その実ものすごく頭が切れることを。
本気になれば部隊長ぐらいには、すぐなれることを。
そのぐらいの頭は持っている。
そのヒジリの提案に、直ぐ様ノーと言う。
「でも、お前がいつまでも下にいるから使いづらいと『私が』文句言われるんだ」
「そんな責任の押し付け合いみたいなこと、止めましょうよ。それに、私を使いこなせない奴が、無能なんですよ」
アッサリ言ってのけるクロウドに、ヒジリは笑う。
「お前らしいわ。そう言ってのけられるのも、お前ぐらいだろうな」
「ジェイにも言えますよ」
「ああ、そうだな。でもお前たちの心根は全然違う。よ?」
「どう違うと?」
クロウドは不思議そうに尋ねる。
「ジェイは純粋にただ、バカにしているのに対し、お前は心底バカにしているだろ」
「バレましたか? 参りましたねぇ」
参ったなと、クロウドは頭を掻く。
「お前はわかりやすいよ」
「それを言えてしまえるのも、隊長ぐらいですよ」
笑って言う。
「僕は、これぐらいでいいんですよ。当たったご褒美を差しあげます。その補佐官殿が隊長のこと、血眼で探していましたよ」
補佐官とは、ジェイのことだ。
耳を澄ませると、ドアが荒々しく開け閉めされ、誰かを捜している音が聞こえる。
「もっと、早く言え。バカ野郎」
「だって、俺隊長を捕まえて置けと言われてるんだぜ。教えただけ偉いと思わん?」
「思わん。あっ、そうだ、今物流が止まっているらしいから、お前も後でサラの店に来い。じゃあな」
ヒジリは窓わくに手をかけて言うと、窓からヒラリと飛び降りる。
ちなみに、ここは5階である。
飛び降りる高さじゃない。
「ヒュ~」
とクロウドは口笛を吹く。
そこに血眼になった青年が入ってくる。
青年は軍人らしく、こちらも、クロウドに負けず劣らずの美男子だ。歳も同じ位だ。だけど、こちらは髪を全くいじってない、さらさらヘアーの茶髪だ。だが今は汗で、べったりだ。
ある意味、一番軍人らしい。
汗だくになり息を切らせた黒ぶちの眼鏡を掛けた青年が眼鏡を外し、目頭を揉む。
彼も良い男だが、ただ要領が悪いのが、玉に傷だ。
つまり、真面目すぎるのだ。でも、彼がヒジリの条件の人だ。ヒジリは約束通り二人を取ってくれたが、ジェイを口説き落とすのは、大変だったろう? でも、ヒジリはやった。
ジェイには、悪いが、クロウドは笑った。
「おしかったな。後もう少し、早ければ捕まえられたぞ」
「俺は、お前に捕まえとけといったはずだが?」
「あの隊長を俺が捕まえておけると思うか?」
そう言われ、ジェイも少し考え納得する。
「そうだな、悪かった。無理だよな。あの人は、ゴキブリのようにすばしっこく、どこでだって潜り込んで生きていける」
それを聞いてクロウドは笑う。
「お前、それは酷いだろう?」
「何がだ? 俺は純粋に、ただ誉めてるんだぞ」
ジェイはクロウドに言われキョトンとする。
「そうなのか?」
「ああ、生命力は並みじゃない。たぶん、この国で一番じゃないか? 俺はそうはなれないよ。だから羨ましいよ」
本当に羨ましそうに言う。
「ジェイ」
「俺にはないものだ」
寂しそうに、ジェイは言う。
「そうなのか?」
「ああ。俺も持ちたいよ。生命力で言ったら、お前もゴキブリ並みだな」
「そうかもな。俺は笑えるほど生に執着しているよ。やりたい事があるからな」
クロウドはそう言われ、苦笑いしながら、ジェイの言葉に納得する。
「ふ~ん、やりたいことか? 狡いな」
「狡いか?」
「ああ」
ジェイは、本当に羨ましそうに言う。
クロウドは苦笑する。
「取り敢えず、お前は誉め言葉のつもりかもしれないが、聞く人によっては、悪意としか取られかねん。言うのやめておけ」
そう言われ、ジェイはブスくれながら、返事をする。
「わかった。でも、どうすれば、いいんだろうな?」
「まずは、その女嫌いを直せ」
笑って、セイガーは言う。それに、ジェイは顔を曇らせる。
「直しても何も変わらないさ」
「直してから、それでも、まだ生に執着沸かなかったら、その時に文句は言え。その時なら、俺は受け付けるよ」
「本当だな。受け付けろよ」
ハァ~とため息をジェイは付く。
「これで、あいつにまた逃げられた。会議からこれで逃げること74回目だ。それもただ、出たくないと言うだけでだぞ。何でこれで、平気なのか不思議だ。知ってるか? 『第3部隊の隊長は実はお前じゃないか?』と噂まで出てるんだぞ」
それに、クロウドはため息をつきつつ、言った。
「俺も初め聞いたときは、ぶっ飛んだ。でも、出所を探ったら隊長が流した噂だぞ。つまりはわざとってわけだ。理由は分からないけどな。なんか、理由があるんだろ」
「理由なんて、簡単だろう?」
「何だと?」
「自分が部隊長とばれなければ、遊びやすいそんなとこだろ」
「そんなとこかもな」
クロウドも納得する。
「納得したところで、丁度良かった」
「何がだ?」
にんまりとジェイは笑うと、ガシリとクロウドの肩を掴む。
「それより、俺だけがでるのは割に合わん。お前も来い」
ジェイが、良いことを思い付いたと言うように明るい声で言った。
それに、クロウドが驚く。
「いいのか?」
「どうせ、頭数だけ足りてれば、いいんだ。どうせ、第3部隊はゴミ溜めと言われてんだ、どうせ意見など求められん」
「意味ないな」
「聞くのは、グチだけだ。それだけにただ、ひたすら耐えればいいんだ」
「いい加減だな」
「だから、あいつは出たくないんだ」
イヤそうにジェイは言う。
「それはそうだ」
クロウドも言う。
「俺でも逃げたくなる」
「お前も納得するな」
ジェイはイヤそうに言う。
「あいつの尻拭いをする俺の身になれ」
本当にイヤそうに言う。
それというのも、反省文を書く羽目になることをしょっちゅうやっては、それを書くのはジェイの役目になっていることを思えば、これは致し方ないことだろう。
クロウドはジェイの苦労を思い、思わず苦笑いする。
でも、ジェイは文句は言うが、きちんとやって上げてる。それは、不思議なことだ。