新王宮騎士団2(王子が訪ねて来る)
そんなヒジリがなぜ、騎士団にいるかと言えば、それは、当然のこと。だって、ヒジリの家は長年王の直属の暗部をやっているからである。
でも、王が亡くなり国は王位争いが激化する中で、ヒジリは自分がつくべき王を決めた。その子、クルーナが、何故かヒジリを訪ねて来た。クルーナも他の者と一緒だったかと、落胆した。そして、聞いた。
「何番目をやりますか?」
そう聞いたのは、自然の流れだった?
でも、彼はすごく、驚き、
「なぜそのようなことを、お聞きになるのですか?」
と聞いてきた。
そして、彼は悲しそうにこう言った。
「そんなに、殺してくれと依頼がくるのですね?」
「ええ、それを知っていて訪ねてきたのでしょう?」
「誰も殺しませんよ」
今度は涼しい顔でこう言った。
「では、何をしに?」
「あなたが兄上の殺る現場を昼間見て、あなたになら任せられると思った。兄を助けず、ただ、見てたのかよって言わないで下さいね」
その言葉にヒジリは驚く。だって、それ以上にヒジリも見られてたことに、今のいままで、彼は気づかせなかったのだから。仮にも、暗部をやってる身だから、殺るときには、最新の注意をはらっている。なのに、そのヒジリにも気付かせなかった。彼の持つ潜在能力の高さに惹れたが、聞かずにはいられなかった。
それはそうだろう、ヒジリは仮にも暗部を生業としているのだから、殺さなくて言いと言う。
「間違っていたら、申し訳ありません。あなたの一族は、我々王家の暗部を生業としてきた家でしょう? だったら、あなたも、もう誰に着くかを決めてるはずです」
そう言われ、ヒジリは大笑いをする。
さすが、私があなたを見込んだだけはある。
「そうですね。決めてますよ」
面白そうに、ヒジリは笑う。
「誰ですか?」
緊張したように、彼は聞く。
ヒジリはさらに笑った。
「なぜ、ご自分だとは思われないのですか? 私はあなたに付くことを、だいぶ前から決めてましたよ」
暗部となるものは、主を自分で決める。他人からどう言われても、動かない。動かしたきゃ、自分が認めるに足る人間になるしかない。
だから、彼は驚く。
「なぜ、私なんかに?」
「おかしな、人ですね。私に、誰に付くかを聞いておきながら、なぜ、ご自分だとは考えないのですか?」
では、何をしに、彼はここへ来たのか? でも彼は、この後、飛んでもないことを言い出した。
「だって、自分は何も力を持たないのに、こんな私に付いてくれるというのですか?」
「はい。あなたの優しさに、私は掛けてみたかった」
「優しい。私は、皆から無慈悲だと、言われていますよ」
「あなたほど慈悲深い人を私は知りません」
「どこが?」
「あなたが、名乗らずに慈善事業に寄付しているのを私は知っています」
「なぜ? どうやって?」
「気になりますか?」
「はい」
「あなたが、寄付した養護施設の人に頼まれて、調べたんです。でも、施設の人には言ってませんから、安心してください」
「ホッとしました。私からと分かれば、何かあると勘ぐるでしょう。そんなこと、考えて欲しくありませんから、ありがとうございます」
「それで、あなたが私の元に来たわけが、あるのでしょうそれは何ですか?」
「私の運命を預ける人に挨拶をしにです」
「運命ですか?」
「はい、運命です」
そう言われヒジリは驚く。この時が初めてだったからだ。今まで殺してくれとは、言われたが、運命を預けると言われたのは、初めてだった。だから、何を意味しているのかこの時は、分からなかった。でも、続いた言葉で、ヒジリは正確に悟ることが出来た。
「私は最後の国王になる。そのために、私に生き抜くすべを叩き込んで下さい」
「最後の王ですか?」
ヒジリは驚く。
「ええ。だから、民間人として、どう生き抜くかを教えて下さい」
ヒジリはあっけらかんと言う。
「ただ、働けば良い」
「働く?」
「そう、皆働かずには、食っていけない」
「でも、何をすれば?」
「仕事は決まってる。あんたには、馴染み深いんじゃないか?」
「まさか?」
「当たりだ。今まで、君を守ってくれただろう?」
「バレませんか?」
「だから、髪の色を変えたんだろう?」
「まぁ、取り敢えず俺が呼び戻すまで、民として生きて下さい。その間に、ご自身が認めたる仲間を見つけておいて下さい」
「なぜ?」
「それは、いずれ分かるでしょう」
「あと名を変えましょう。これからは、クルーナとは呼びません」
「では、何と?」
「最初の一文字をとって、クロウドとお呼びします。これからは、そちらの名を名乗って下さい」
「分かりました」
「あなたは、少し街で生活して人の声を聞きなさい。街の声など噂で耳にするだけでしょう?」
「確かに」
「実際、自分の耳で聞いてご覧なさい。たぶん、王宮で聞く話しと全く違ったことが聞けますよ」
「はい」
「そうすればどの人を信用すべきか、良く分かる。この場を上げます。ここから、初めて見なさい。私は他の隠れ家に行きます。取り敢えず、1週間分くらいは、食料もありますし、時たま差し入れを入れさせます。では」
「私独りですか?」
「街の声などを聞くなら、私がいない方が良いさ。頑張れよクロウド」
こうして、第3王子との会談は終わった。
王位を巡って、この後激戦を極めるが、その中で、第3王子は行方知れずとなったと言う。
だから、死んだとも言われている。
誰も彼の生死に興味を持たなかった。
彼の行方を知っているのはヒジリただ一人。
そのヒジリも、誰にも行方も存在も言わなかった。
知っているのは、ヒジリただ一人、それで良いと思っている。
時期が来れば、自ずと出てくるだろう? 出てこなければ国が終わるだけのこと? 彼の望みも潰えるだけである。
ヒジリが、騎士になってから12年経つ。
あいつも、動きだしそうだ。




