王宮騎士団19(見舞い)
セイガーとヒジリは病院に行った。
部屋番号を、看護婦さんに確認する。
部屋に行くと、被害者と言うことで一人部屋だった。
リンはまだ寝ていた。
ヒジリはリンの右手をとる。
「リン」
自分のおでこに持っていく。
目を閉じ祈るように。
そうしてると、リンの指が動く。
「リン」
ヒジリは呼び掛けるように言う。
目をキョロキョロさせ、ヒジリを確認すると、目がウルウルになる。
ヒジリは抱き締める。
「怖かったよ」
「もう、大丈夫だ。お前は俺が守るから」
「本当だよ。ヒジリ」
ヒジリに抱き付く。そんなリンをヒジリは強く抱き締める。
「もう、お前をこんな目に合わせない」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「ねぇ、あの犯人さん・・・」
「ああ、捕まえたよ」
本当は、もう少しで殺しそうだったとは、言わない。
たぶん、と言うか、セイガーが、止めてくれなかったら、確実に殺していた。あの時のヒジリは、リンの気持ちなど、すっかり抜け落ちていたからな。ヒジリは苦笑いをする。
リンは起きてから、ずっとヒジリのどこかを握ってる。
「ねぇ、ヒジリ怖いの」
ヒジリはリンから少し離れ目を見る。
その目は怯えを現していた。
ヒジリはリンを見ると、抱き締める。
「もう、大丈夫だ。お前が退院するまで、仕事は休みを取ったし、この部屋に俺も泊まる」
「本当に?」
「ああ」
で、夜になり、やはり、ヒジリの心配した通りリンは泣いてた。
寝ながら、だから本人は気付いていない。
たぶん、心の傷は本人が思っている以上に深そうだ。それも、今までのが全部ここで出たって感じだ。
ヒジリはそれを見て、涙を拭うと、大事そうに、抱き締める。
でも、リンには言わなかった。
次の日、リンに聞かれた。
「でも、どうやって掴まえたの?」
「さぁ、どうやったんだろうな。秘密だ」
ヒジリのその言葉に、リンは膨れる。
「怒るなよ。悪い悪い。俺が被害者役をかって出たんだ」
「でも、この事件って、犯人がまちまちだったよね」
「そうだな。まちまちだな。でも、これでしまいなら、犯人自らが行うはずだ。だから、直接制裁を加えた」
「えっ、ヒジリがやってくれたの? 嬉しい。でも、どうやったの?」
「それは、秘密だ」
頑なに言おうとしないヒジリにリンは膨れる。
「まぁ、良いじゃないか?」
「何で教えてくれないの?」
そう言ったとき、セイガーも見舞いに来る。
「恥ずかしいものな」
「セイガー」
ヒジリは怒る。
セイガーはそれに、笑う。
「言いたくないよな」
クスリと笑う。
「え~、何?」
「それは、秘密だ」
「何で? 教えてよ」
ヒジリはリンの口を塞ぐ。
「うるさい口は塞ぐに限るな」
リンは固まる。
それに、ヒジリは笑う。
笑ったヒジリにリンは怒り、ヒジリを、叩く。
「ごめんごめん。お前が生きていることを実際感じたい良いか?」
ヒジリに言われた言葉を理解出来ずに、首を傾げる。
セイガーには分かったらしく、驚いた顔をする。
「何か分からないけど良いよ」
「ごめんな」
そう言って、リンの顎を持ち上げると、早急に口を塞ぐ。
リンはビックリする。
ヒジリはリンを感じたく、リンの口に舌を入れる。
「う~ん」
リンが声を出せばいつもなら、止めるのに、今日はやめなかった。
リンはヒジリを、叩くが舌は動き回る。
まるで、リンの存在を確かめるように。
だって、リンは気付く。自分の頬に何か落ちてきたことに。それに、気付くと、ヒジリを抱き締める。セイガーも気付きビックリする。
「良かった」
ヒジリが安堵したように言う。
「ヒジリ、ヒジリ」
リンも気付くと泣いて、ヒジリにしっかりと抱き付く。
「もう、いなくならないでくれ」
リンはコクコク頷く。
「ごめんなさい」
「お前のせいじゃないだろう?」
「でも、心配かけたもん」
それを、聞きヒジリは、口を離す。
「でも、生きてるよ。死んでない」
また、コクコク頷く。
「でもでも、心配かけてごめんなさい。ヒジリ怖かったよね」
「じゃあ、罰だ。一日一回は俺に抱き付け」
「えっ、それって、罰にならないよ。どちらかと言えば、私にはご褒美だし」
リンは笑う。
「ごちそうさま」
と、セイガーは笑う。
「見せもんじゃない」
「ヒジリの以外な姿が見れたよ。ありがとうリンちゃん」
「う~、何かヒジリに怒られそう」
「何で分かる」
ヒジリはニッコリ笑う。
「リン、退院したら覚えておけよ」
「セイガー隊長、あなたの部下が怖い」
「俺はセイガーの部下になった覚えはないよ」
「俺も部下に持ったことはないな。こいつとは、なぜかいつも俺と階級が同じだった」
セイガーが言う。
「え~、違うの?」
「違うな」
「じゃあ、誰がヒジリの上の人?」
「上司か? いないな。昔、いたけどな」
「えっ、昔?」
「そうだ、俺の尊敬する人だ」
その人を思い描く。
本当に尊敬していた。
「この国に来る前にいた国にいた上司だ」
「え~、どんな人」
「差別をしなかった人だよ。俺は名前を変えている。その頃は、高貴と名乗っていたな。そこで、殺されそうになりながら、その人とにげてた。が、もう追い付かれると言う時にあの人は言ったよ。『いいから。お前は今すぐ、ここから逃げろ。ここにいてはいけない。ここでは髪が黒いと言うだけで差別される。逃げて生きろ。そこで、幸せになりなさい』と、優しく言った。『そんなの無理だ。俺には貴方を見捨てるなんてこと出来ない』と、それに高貴は泣きながら、首を振る。そして、『そんなことより、早く医者に』と、言った俺に大佐は怒鳴った。『お前こそ、そんなことより早く行け、高貴。これは、大佐命令だ』でも、大佐のお腹から血が吹き出していた。俺がこのまま放っておいたら、大佐は死ぬだろう。それがわかっているから俺も簡単には引けなかった。『聞けません。あなたをこのままにしてなんて』でも、大佐もまた引かなかった。なぜなら、俺を生かすためだ。『聞くんだ、高貴。頼む、行ってくれ。俺のために』そう言われ、俺は泣きながら、苦笑いをした。『大佐は酷い人だ。俺にあなたを見捨てろと言うんですから』と言うと、笑って大佐も言ったよ。『ああ、酷いな。だから、新天地で幸せになりなさい。ここから南の国に若干差別はあるが出世出来る国がある、そこに行け』
突き放された。俺は立ち去るときに、敬礼をして言った。『私は貴方より必ず上に行きます。見ていて下さい』と。その目からは、止めどなく涙が溢れていたよ。それに、大佐はニッコリ笑って言ってくれた。『ああ、見てるよ。俺より出世しろ』俺はその笑みを心に止め、新天地で新たな生活を掴んだよ。でも、大佐のことはけして忘れないだろう。大佐の言った通り、そこでは順調に階級が上がった。行った先で高貴からヒジリと名を改めた。そして、ヒジリは戦に出て数々の武勲をあげ、試験を受けて、名実ともに部隊長にまでなった。名実ともに中将にまでなり、大佐を抜かした。
それを聞き、リンは
「私も会いたかったな」
と、言った。
「たぶん、ここに大佐がいたら、凄い可愛がりそうだ。それは、俺が妬きそうだ。だから、止めておけ。俺は案外嫉妬深いぞ」
「そんな、ヒジリもみたいかも」
「思うだけに、しておいた方が良い」
「う~ん、そうする」
リンは考えて、そう言う。