王宮騎士団15(クロウドが決めたこと)
「お前に話がある」
「なんだ? 告白か?」
「何か殴りたくなってきた」
「ごめんなさい。それでどうした?」
「お前王様だろう? 俺はずっとこのままだと約束しておこう。でも、ヒジリ隊長にお前に言った方が良いと言われた」
何でもないことのように、ジェイは言った。
「どうしてそれを?」
クロウドは驚いたように、目を大きく見開く。
「隊長が俺にばかり、仕事を押し付けるのは、最初は無能だと言われているのかって思った。でも、自分の見えないところにやれば、良いだろう。現にそうしてるしな。まして、自分で勧誘に来といて、それはないだろう。と、言うことはだ。隊長が俺にばかり、仕事を押し付けたのは、お前が隊長にも、押し付けられない相手だからだ。そう考えた時、一つの可能性にぶつかった」
「どんな?」
「お前が行方不明になったと思われている第3王子クルーナだ。違うか?」
「正解だよ。ジェイはスゴいな。どうか、変わらないで、そのままでいてくれ」
クロウドは、うれしそうな寂しそうな笑みを浮かべながら、静かな涙を流す。
「俺が信じられないか?」
「イヤ、お前のことは一番信じてるよ。だからこそ私の出生の秘密が分かったとき、君が頭を下げるだろうと」
「それがバカだと言うんだ。お前に下げる頭など、私は持っていない」
「お前が変わらずいてくれることが、どれほど嬉しいかお前には、分からないだろうな」
「分からん。でも、一つだけ分かったことがある」
「何だ?」
「お前はお前だ。つまり、バカはどこまで行ってもバカなままだっていうことだ。何になろうとそれは変わらないだろ? お前が王になっても、私は変わらないよ」
クスリと笑いながら、ジェイが言えば、クロウドも嬉しそうに言う。
「酷いな」
「俺は、たとえお前が王になろうとも変わらない」
「でもなぜ、それを?」
「やはりな」
その言葉で、クロウドはジェイに確信があったわけではないことに気づき苦笑いする。
「どうして、分かった?」
「おかしいと思ったのは、隊長が仕事をお前に押し付けず、俺にばかり押し付けたことだ。その理由を考えたとき、一つの仮説に行き当たった」
「どんな?」
クロウドは恐る恐る聞く。
「ヒジリ隊長はお前に自由になる時間を作ってあげていたんだろう。隊長のその理由はお前に町の人々の声を聞かせるためだろう。でも、一つだけ分からないことが?」
「何だ?」
「それだけを狙ってないだろう?」
「さすが、でも、これはもうちょっと秘密かな?」
クロウドは微かに笑う。ヒジリ隊長も、同じことを言っていた。
「まぁ、いい、いずれわかるだろ。その時を楽しみにしてるよ。お前なら、退屈させないだろう」
そう言ってくれたジェイに、クロウドは救われた。
そして、そこにヒジリが戻ってくると、そこにはセイガーもいた。
「首謀者が分かったって?」
「ああ」
黒幕の名を言うが、その名にセイガーは聞き覚えがなかった。
「知らないな。でも、そんな力を付けているとは、いずれ、王宮に反旗をひるがえすかもしれない。厄介だな」
「俺も知らないからな。お前が知らなくて、当然だろうな。かもじゃなく、絶対だ」
そして、ヒジリがクロウドの前に立ち、セイガー中将が膝を折る。クロウドは口を開く。
「10年たっても、あなたは何も変わらなかった。だから、私もあいつからのメッセージを見るまで、忘れていましたよ。そんなに年月が過ぎていたことに」
アハハハと笑いながら、ヒジリ言う。
「それは悪かったな」
と、ヒジリは謝る。
「もうよい時期かと思います」
セイガーもクロウドが死んだと思われていた王太子であることに気づいていた。だから、彼に護衛を内緒でつけていたのだ。
「お前の返事は聞かないぞ。もう時は待ってくれない」
「ええ、今度は私の番ですね」
クロウドが言う。
「当初の通りやらなければ。もう時は、待ってくれない。王政の廃止を」
それを聞いて、ジェイは驚く。
「王政廃止?」
ジェイの呟きに、クロウドは痛そうな顔をする。
「ごめ」
んと言わせてもらえなかった。ジェイがものすごい勢いで怒鳴ったからだ。
「どうして、そう言う大切なこと言わないんだ?」
「だって、言ったら怒られそうだしさ」
「さじゃない。他人から聞かされた方がもっと怒るって、なぜ考えない」
「まぁ、ジェイ。クロウドに悪気があった訳じゃないんだ許してやれ。今はべつのことにクロウドは気が立っていたんだ」
「別のこと?」
「今夜決行しようと思うのですが・・・。ヒジリ隊長付き合って下さいますか」
「ああ、彼にこんな過酷な運命を背負わせた一端は、そもそも俺にあるからな。見届けるのも俺の役目だろう」
ヒジリは10年前に思いを馳せる。
彼を殺しにいった時、彼はまだ十一歳のかわいい子供だった。
「僕を殺すの? 殺さないで、お願い。取り引きしよう」
突然言われた言葉に、ヒジリは面食らった。
「絶対、あなたに損はさせない」
自分が殺されそうに、なっているのに、取引を持ちかけてくるなんて。面白いと、思った。だから彼の言葉にのった。
依頼主を代わりに殺し、彼だけが王位継承者となり、王となった。もうあれから、十年。よく耐えてくれたと思う。
はじめ彼を殺すのは、自分の役目だと思っていた。
だが、幕を引くのは、自分だと固い決意で決めている者がいた。それは、邪魔できない。ヒジリに出来ることといったら、それを見守ることだけだ。
「お前が当初の通りやりたいことをやるなら、ここが決めてだ」
クロウドは頭を下げる。
「私は、あなたから、たくさんのことを教わった。私がきちんとやれるか見てて下さいね」
「ああ、付き合うよ。それも、面白そうだし、お前に付き合うと初めから決めていたしな。俺の目的も叶う」
ヒジリは、笑う。




