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狂魔伝  作者: ラジオ
第三章
64/67

story63‐‐世界への怨憎‐‐

「久しぶりだな、ヒロ」

 栗原が目の前の親友に声をかける。

 栗原とヒロがいるのは、この世のあらゆる物理法則を超越した、二人の繋がった心の中だった。

「ああ。お前が俺をその名前で呼ぶのは、十年前の『二度目の神隠し』の時以来だな」

「いや、その後で一度だけ、野芝隼人ではなく、お前と――蒼井ヒロと話した時がある」

 ヒロが目を細めてしばし考え込んだが、首を振った。

「記憶にないな」

「だろうな。まだ安藤さんが組織に入ったばかりの頃、僕が野芝隼人の個室を訪れたあの日だ。僕は『人生伝』を手に取ってお前と――野芝隼人ではなく、蒼井ヒロと話をした」

 ヒロはようやく思い出したように表情が一変した。

「……あの時、お前は俺がヒロだって気付いてたのか?」

「気付いたんじゃない。思い出したんだ」

「……強制記憶消去剤の効果が途中で切れたのか」

「らしいな」

「数十年は効力があるはずだったんだがな……」

 ヒロが沈黙すると、栗原が話し始めた。

「僕は『人生伝』を手に取って表紙の『ヒロ』という作者名を見た瞬間、全てを思い出したんだ。『二度目の神隠し』の時お前と交わした約束もな。だから僕は、お前が僕に麻薬を盛っていることに気付いても、お前が僕に負の感情物質を放出していることに気付いても、約束通り全て受け入れた。いや、受け入れたつもりだった。実際はお前の父親の記憶に自我を失って狂魔化したみたいだけどな。でも、記憶を取り戻した時、最初は白昼夢かデジャブでも見たんだろうと思っていたんだ」

 二人の前に、その時のそれぞれから見た二つの映像が現れる。書物を繰る栗原と、その向かいで栗原と話す蒼井ヒロ。

『なあ、隼人。一つ質問をする』

「だから僕は思い出した記憶が事実なのか、確かめることにした」

『……お前は何のために生きている?』

「僕は書物に書かれていることを訊くことにした。お前が書いたこの書物の中には、その質問と、それに対するお前の答えが書かれていた」

『俺が生きている理由か……狂魔を駆逐するため……かな』

「お前がこの時嘘をついたのはすぐにわかった」

「嘘をつき通そうと思えば、正の感情物質で〈疑念〉を払えば簡単にできたさ。だが、俺はこの時ばかりはそれをやめておいた」

 ヒロの言葉に、栗原は考え込むように少し眉を寄せた。

「正の感情物質で〈疑念〉を払う……なるほど。お前たちにはそんな力があったのか。ボスが自分の息子がお前と入れ替わっても気付かなかったのはそういうことだったんだな」

「まあ、長い間野芝東一郎は息子の隼人に会っていなかったってのもあるけどな」

「野芝隼人はどんな人間だったんだ?」

 栗原が尋ねた。

「俺が演じてきた通りの人間だ。精神力が弱く、感情物質の影響を非常に強く受ける。そして、弱者の気持ちを理解できる人間だった。尊敬の念すら抱いた。だからこそ、俺は野芝隼人と入れ替わり、野芝隼人を演じてきた」

『――お前はこの世に、何か意味をもって生まれたと思うか?』

『さあな。特に意味なんてないのかもな』

『じゃあ、何でお前は生きている? 意味がないならさっさと死んで、別の世界でちゃんと意味をもって生まれ変わればいいと思わないか?』

「お前のこの言葉は、俺にたった一つ与えられた使命を思い出させた」

 栗原が口を開いた。

「この世への復讐……この世に『絶望』が存在することを、人に知らしめること、か?」

「そうだ」

 ヒロの目が復讐を誓う危険なものに変わる。

「この世に唯一存在してはならないもの、存在する必要のないもの、それが『絶望』だ。現代の人間がすぐに口にするようなものとは次元が違う」

 ヒロのそのひとみの奥には、憤怒に燃える得体の知れない巨大な何かが潜んでいるようだった。

『……俺はあんまりそういうことを考えないな。別に意味なんかなくても、普通に楽しく生きて、できれば寂しくないように死ねれば、それでいいと思ってる』

「お前のこの言葉は、『人生伝』の中で『幸せ』な人間が一般的に答える返答だと書いてあった。僕のあやふやな蒼井ヒロの記憶は、ここで確かなものになった」

「そうか。俺はとっさの嘘に『人生伝』に書いた返答を使っていたんだな」

『今そういう質問をされてそう答えるのは、今現時点でそいつが〈幸せ〉だからだ。人間は世界中にたくさんいる。自分が何のために生きているのかわからなければ生きていけない人だっている。それくらいに周りでつらいことがあり、傷つき、そして死を望む不幸な人間が、確かにこの世に存在する。僕は実在するそんな少年を一人知っている。彼も、自分が何のために生きているのか、一体どんな意味をもってこの世に生まれてきたのか、一人で考えていた。しかしわからなかった。周りの人間も、お前がさっき言ったように、〈そんなことはだれにもわからない〉だの〈人が生きるのに意味なんてない〉だの言って撥ねつける者しかいなかった。でも、少年にとってはそれがわからなければ生きていたくない、生きていけない、そんな世界だった』

 ヒロが何かに気付いたように栗原を見た。

「まさか……お前の言っているこの少年って……」

「ああ。蒼井ヒロ、お前のことだ」

『そんな人間の行きつく先が何か、わかるか?』

『…………狂魔…………か?』

「俺自身のことなんだ……わからないわけがない」

『そうだ。僕たちの今いるこの世界は、狂魔という恐ろしい存在によって危険に晒されている。それじゃあ、狂魔を生み出す根本的な原因は何だと思う?』

『…………わからない』

「もちろんわかっていた」

『〈幸せ〉な人間だ』

 栗原が俯いた。

「僕はこの時、自分の罪を自覚した」

『彼らが少年のような存在に生きていたくない、生きられないと感じさせているんだ。人間は、自分が〈幸せ〉でありさえすれば、赤の他人はどうなろうと構わないと思う。そういうふうに作られているからな。現にニュースで、知らないだれかが殺された、なんて報道があったとしても、涙を流す者はいないだろう。でも、それがいけないんだ。僕が知るその少年は、他の人間が自分と同じようなことを考えていないことくらいすぐに気付き、自分が異常であることを認識した。そして不幸を自覚し、絶望した彼のような人間がとる道は〈死〉以外にない。だが、ここで、もしもみんな自分と同じように考えていることを少年が知ったらどうなる? 〈人はなぜ生きるのか〉、〈何のために人は生きるのか〉、明確な正しい答えが存在しないこれらについては、絶対に考えてはいけないパンドラの箱だ。いずれ死を望むようになってしまう。でも、逆に全ての人間がこれらのことを考えているとお互い知ることができたら、人はそこに答えを見出せなくても、死を望むことはなくなるだろう。人は、だれかが死んだとニュースで知ったら、泣かなければならないんだ。それが赤の他人でも。そういうふうに作られているなどと言い訳している暇はない。そうしなければ、いずれ近いうちに、彼らが行きつく先の存在――狂魔によって訪れるであろう人類滅亡の危機を、未然に防ぐことはできない。崩壊しかけているこの世界を救うには、人が自ら心を変えるしかない』

「『人生伝』の内容、これで……あってるか?」

 ヒロは答えなかった。

『……というのが、この本に書かれている大雑把な内容だ』

『…………そう……なのか……』

『お前はどう思う?』

『人類滅亡の危機……いつか訪れる時が来るなら、それはきっと人類が道を誤ったんだろう。その時は、俺は素直に受け入れればいいと思う』

「これは俺の――蒼井ヒロとしての率直な意見だ」

『僕の意見は……聞きたいか?』

『……いや、いいさ』

「今さら俺の絶望を理解できた人間がいたからって、動き出した歯車を止めることはもうできなかったんだ。だから、お前の意見を聞く必要はなかった」

「僕はこの時……」

 栗原は罪を犯してしまったように悲痛な顔をして俯いた。

『そうか……』

 映像はそこで消えた。

「まあ、今となっては聞かなくてよかったと思っている」

 ヒロの口調は氷よりも冷たい。

「やっぱりお前は絶望を理解できなかったみたいだからな」

「……そうだ。僕はあの時、あの『人生伝』を読んでお前の気持ちを理解したつもりでいた。だが――」

「俺が長年かけてお前に放出し続けた負の感情物質のおかげで」

 ヒロは栗原が自分で口にしようとするのを許さないと言わんばかりに遮った。

「お前は確かに絶望に似た何かに苦しんだことだろう。だが実際には、お前は俺という外部からの影響で苦しんだだけだった。お前も俺も、俺の父親の記憶を見た。しかしそれが俺たちに与えた効果の違いは歴然としていた。俺は父親の記憶を見るたびに絶望というものを知り、自分の人生が父親のものと同一化していった。そして俺の苦痛は自分自身の内部から湧いて出てきた。だがお前の場合は、俺の父親の記憶を受け入れきれず、自我を失って狂魔化した。つまり、絶望を理解できなかった」

 栗原は視線を落として尋ねた。

「……なあ、絶望って何なんだ?」

 ヒロは蔑むような視線を栗原に向けた。

「文字通り、『望みが絶えること』だ。そして自分が生きる意味を探し求めるようになる。絶望を知った人間がたどる道は二つ。自らを殺すか、もしくは俺たちのようにこの世を滅ぼそうとするかだ。まず、絶望を知った全ての人間は必ず自殺を試みる。そしてその勇気がない者――つまり、死んでこの世から一方的に逃げることすら許されない者は、この世を滅ぼすという自分の唯一の生きる意味を見出す。絶望っていうのは、この世の異物である自らを殺して異物の存在がなかったことにするか、この世を滅ぼして絶望を人間ごと消すかのどちらかの選択肢しか与えてくれないんだ。だから絶望というものは、絶対にこの世に存在してはいけない」

「でもお前は、そのどちらの選択肢も選ばなかった」

 ヒロは口をつぐんだ。

「『人生伝』という本を書いて、お前の弟がこの世を滅ぼそうとする前に、人々に絶望を知ってもらおうとした。この世の全ての人間が絶望を理解すれば、この世から絶望は消え去る。そして今も、お前は僕に人間の代表として絶望を知ってもらおうとしている」

 しばらく二人の間を沈黙が支配した。

「人間ってのは、本当に利己的な生き物なんだな」

 栗原は顔に浮かぶ動揺を隠せないままヒロの方を見た。

 ヒロの言葉には明らかに怒りがこもっていた。

「お前らはいつもそうやって、物事を自分の都合のいい方へねじ曲げて捉えようとする。いい加減にしろ! 俺が『人生伝』を書いたのは、今のこの世界へ俺の怒りをぶつけるためだ! 命を賭してまでお前の狂魔化を止めたのは、第四段階に達したお前の自我が消え去りかけてしまっていたからだ! お前の自我が消えれば、俺は人間としてのお前に絶望を見せることができなくなる。俺はお前を人間の代表として、俺たちが今まで見てきた全てを、俺たちの怨みと共に味わわせてやろうと思ったんだ! 全て復讐だ! 俺の生きる意味はこの世への、お前たち人間への復讐にしかない! 人間に俺たちと同じ絶望を味わわせてからこの世を作り変えなきゃ意味がないんだよ! 俺が今までお前らを怨んできた意味が!」

 呆然と立ち尽くす栗原の目から涙がこぼれた。

 ヒロは下を向いて肩で息をしていた。不意に何かを感じたように顔を上げる。

「……どうやら、あいつは何かしくじったようだな」

 ヒロは目を閉じて言った。

「結局、俺たちも父親の二の舞を踏んだってわけか」

「なあ、ヒロ。もう少し……待ってくれないか?」

 栗原はヒロをまっすぐ見て言った。

「僕は生きているうちに必ず、お前たちの絶望を理解してみせる。だから……」

「戯言だ。信憑性のかけらもない。『二度目の神隠し』で、俺がお前の家族をお前の目の前で殺したあの時も、お前はそう言ったな。お前は心の底から死を恐れていた。自分という存在が完全にこの世から消えてしまうのではないか、死後の魂が永遠に宇宙空間をさまようのではないか。だからお前は約束すると誓い、こう言った。『苦しいなら、君の苦痛を僕に分けてくれて構わない。君の苦痛を僕は生きている間に必ず理解して見せる。だから、僕を殺さないでくれ』と。この言葉を聞いて、俺の人間への憎悪が煮えくり返り、俺は人間に――お前に絶望を教えてやろうと思ったのさ。だが結局、お前は絶望を理解できなかった。それに、絶望というものは、人々が同時に理解できなければ消え去ったりはしない。だが心配しなくていい。お前には狂魔化とは別にちゃんと絶望を見せてやるさ。いつか人々が同時に絶望を理解する前に、だれか一人だけが絶望を理解してしまい、この世が崩壊する時が必ず来る。人間の感情は急激に進化を遂げている。きっと近いうちに、俺たち以上に情緒豊かな人間が生まれるだろう。俺と秀一は父親の意志を受け継いで、この世を滅ぼすためにこの世に生を受けた。そして今度は俺たちの意志を受け継ぐ者も、すぐに現れるだろう。お前に絶望を知ってもらうのはその時だ」

 栗原が膝からくず折れた。

「頼む……もう少し……待ってくれ……ヒロ……お願いだから……死なないでくれ」

「お前の感じている通り、おそらく怨臓を潰された俺は助からない。俺たち兄弟にとっては第二の心臓みたいなものだからな。でも、お前の場合は俺の負の感情物質で作られた、言わば偽物の怨臓みたいなものだ。切り離せばお前はもとの栗原京の自我を取り戻せる」

 そう言うと、ヒロは栗原に背を向け、どこへともなく歩き出した。

「そんじゃあな。俺たちはこの国とお前らにさんざんやらかしたが、どうかあいつだけは怨まないでやってくれ。あいつは、根は本当に優しくて、そして寂しがり屋なやつだったんだ……こんな世界に生まれ来なければあいつは……この世界から淘汰される存在になることも……」

 最後まで世界を怨み続け、ヒロは消えた。





 人間というのは、無知であるが故に、愚鈍な生き物だ。

 何も理解できない無能で幸せで罪深い人間に、僕らの身体の仕組みを理解することなど、できるわけがない。

 怨臓は感情物質を生成、放出するための臓器。そしてそれは感情物質を溜めておくための保管場所でもある。怨臓を潰せば、確かに感情物質の生成を行えなくなる。しかし同時に、すでに生成した感情物質を怨臓に保管しておく機能も失われる。やがて、今まで怨臓に閉じ込められていた僕の怨みの全てが、この世に解き放たれ、黒江町は吹き飛ぶ。『三度目の神隠し』はもはや免れ得ない運命。

 だが、それは僕の意志によるものではない。

 計画は失敗し、もう新たな世界を創造することもできない。怨臓を貫かれた以上、生きていられる時間が残りわずかであることもわかっている。

 しかし、僕はまだ、僕の怨みの全てを世界にぶつけることができてはいない。僕はまだ、世界への復讐を完遂してはいない。人の心は言葉では表せない。だから僕は、人を殺して世界に僕の心を表す。今まで僕が感じてきた全ての感情を世界にぶつけて初めて、僕の復讐は意味をもち、僕の生きた証となる。

 僕は自分の意志で、僕自身の手で、黒江町を葬り去る。





 うつ伏せに倒れていた蒼井の視界の隅に、鈍色の輝きが映った。

 リザべラは勢いよく蒼井の頭部目がけて刃物を振り下ろした。

 しかし、その鋭い刃が突いたのは何もないレンガの上だった。

 蒼井はコマ送りにしたような速度でリザべラの隣に起き上がっていた。

 振り下ろされたリザべラの腕を掴んで軽々と握り潰し、そのまま蹴り飛ばす。

「リザべラ!」

 海堂が叫ぶ。

「チッ。まだ動けたか」

 リザべラはすぐに起き上がったが、全身に激しい損傷をこうむっていた。

 蒼井は片膝をついて口から大量の血を吐いていた。

「僕は……自分の手で…………」

 ゆっくりと立ち上がった蒼井は、両手を広げ、肺いっぱいに大きく息を吸い込んだ。

 そしてあごが外れそうなほど口を縦に開き、人のものとは思えない咆哮を上げ始めた。

 呪われた地獄の亡者のように歪んだ顔。その地獄の門と化した口から発せられる悲痛な叫びは、廃墟の朽ちた建物を突き抜け、黒江町全域に響き渡り、そして天にまで昇る。

 海堂の目に、蒼井の周囲に無数に散らばる黒い塊の激しく明滅するランプが映った。

 慌てて捧尽の方を見る。

「捧尽! 安藤君を……」

 海堂が指示を出す前に、捧尽とリザべラは動き出していた。





 佐川は、たった今飯島の治療を受け、包帯を巻かれて横たわる二人の男を見ていた。

 一人は人間の肉体を取り戻した栗原。

 もう一人は、隼人の姿をした佐川の知らないだれか。

「隼人さん……あなたは……」

「ここで出来る限りのことはやった」

 飯島が佐川に話しかけた。

「特に野芝君の生存確率は、残念だが望み薄だ」

 飯島はそう言い、到着した治療課ロボットの応急処置を受けていた小塚の治療を手伝い始めた。

 小塚はすでに目を覚ましていた。視線は栗原の隣の男に注がれていた。この男の謎の行動に思案しているのは佐川と同じらしかった。

「なあ、佐川。一体野芝は――」

 小塚が佐川に何か話しかけようとしたところで、小塚たちに身の毛がよだつような叫び声が聞こえ始めた。

「何、これ……」

 佐川は恐怖で身体を縮こまらせていた。

「何だこの負の感情物質の量は……」

 小塚が呟く。

 そして何かを感じたように立ち上がった。

「すぐにここを離れるぞ!」

 小塚はそう言うと、二人の男を両脇に抱え、どこかへ走り出した。

「佐川! 急げ!」

 佐川は我を取り戻したように立ち上がり、飯島たちと共に小塚の後を追い始めた。

 佐川は前を走る小塚の背中を見て、小塚もただ危険を感じて逃げているだけらしいことに気付いた。

 たどり着いたのは、爆発の跡が残る黒々とした広場のような場所だった。

「小塚君……」

 得体の知れない強烈な恐怖に侵され、佐川の精神状態は見るからに不安定になっていた。

「大丈夫だ、佐川。安心しろ。俺もお前も、生きて一緒に本部へ帰ろう」

 小塚の言葉が佐川を落ち着かせたかと思った瞬間、四方八方に天まで焦がす巨大な火柱が立ち上った。

 小塚たちのもとに、皮膚を溶かしてしまいそうなほどの熱風が黒い煙と共に吹き込んだ。





 蒼井の怨みそのものを体現したようなその叫びは、黒江町内に設置された無数の爆弾を全て爆発させた。黒江町の人口、およそ九十八パーセントが死に至り、文字通り黒江町を葬ったこの稀にみる天災のごとき惨事は、後に『三度目の神隠し』と呼ばれるようになった。その日蒼井が発したあの世の禍々しい〈気〉は、黒江町の周囲の町の人々にまで届いたという。


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