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稲子は次に康彦と会うときには、いい返事をする決意をしていた。
康彦と一緒に住むとすれば、今は使っていない部屋を彼の部屋にしようとか、寝室にベッドをもう一つ買おうとか、これからのふたりの生活の案を練り始めていた。
子供はやっぱり欲しい!四十代なら何とか産めるかもしれないなどと、稲子の夢はどんどん膨らんで行った。ショッピング街を歩いても、今までとは違った目で店を選んだ。
仕事に相応しい身なりだけ整えればいいとの思いを貫き通し、お洒落をする気はさらさらなかった稲子だったが、康彦と歩いたり旅行へ行ったりするときに備えて、花柄のワンピースを選んでいる自分がいた。下着売り場ではレースのついたランジェリーを買った。朝夕の洗顔や肌の手入れも念入りにするようになった。
「稲子さん、きれいになったんじゃない?なにかいいことあった?」
美恵が稲子の顔をまじまじと見て、驚いたように言った。
「ええ。まあね。きちんと話が決まったら話をするわ」
「話って、えっ!結婚するの?」
問い詰める美恵の言葉を遮るのに、稲子は戸惑ってしまう。早く康彦にきちんと伝えて、結婚の段取りを進めなきゃと、稲子は思っていた。




