五話 歓迎会
今日は軽音楽部4人と入ると勝手に決められた玲奈のカラオケ歓迎会をすることになった。集合時間は正午十二時に高校の最寄り駅集合だ。そこには大西、前島、早見の三人は五分前行動をしている。残りは高山先輩と今回の主役笠井玲奈だ。
「あとは・・・先輩と笠井か」
「お?先輩来たぞ」
そういいながら早見は携帯電話で時刻を確認している途中、前島が改札口から出てくる高山の姿を確認した。だが、彼の格好に三人の目線は彼のTシャツの中心の文字に行った。
「ワリィっとでも俺が最後じゃないみたいだな」
「・・・なんつー格好してんすか?」
彼の黒いTシャツの中心には大きく「男」と赤でかいてあった。なんなんだ?その私男らしいですよアピールは?と、早見は思っている中。
「かっけー兄貴!!」
「イカしてる!!」
大西、お前はいつから兄貴呼びになった?前島、イカレテルの間違いなんじゃないのか?あと、多少騒いでいるせいもあるので周りの人に見られていて恥ずかしい。そんなことを思っていると本日の主役が登場した。
「お・・・遅くなりました」
「・・・・・・おっふ」
「おいおい!彼女の私服姿を見てなんか無いのか?彼氏さん!」
高山は早見の背中をバンッと叩き恥ずかしさで逸らしていた目線を無理やり戻される。普段とは違い、明るい感じが出ていて楽しそうなオーラが見える。学校でもこのように振る舞えばいいのにとも思った。
「あの・・・私、変なところ無いですか?」
「無い・・・です。はい」
高山に目線を強制された状態の早見はなぜか敬語で答えてしまう。
「照れやがってバカ~♪」
「本音を言えバカ~♪」
「卍固めすっぞバカ~♪」
大西、前島、高山の順で無駄にはハモっているハーモニーでバカバカ言い過ぎだ。とも思ったが、このままではらちが明かないのでやっつけのように言う。
「可愛いよ・・・ったく」
「アツアツ!!ビバ!!青春!!」
そういってこんな人か通る駅の改札口前で大きな拍手・・・ほら、あのおばあちゃんとか意味わからず手、叩いちゃってるよ。
「すーすー」
「前島・・・口笛できてないぞ」
その勢いに乗りたかったのだろうが、口笛は空気の抜けた間抜けな音しか出てこなかった。その横では玲奈は顔を隠し照れていた。なんだこの混沌・・・
「メンツは揃ったし行こうぜ」
高山の一声で、おふざけはやめて目的地のカラオケ店へ向かうことにここから徒歩三十秒のところにあるので地域での利用者が多く満室の可能性もあるが、大西が予約を取っておいてくれたみたいなのでその心配はなかった。それぞれ、ドリンクバーで飲物を注いできて部屋に入る。
「さて、誰から歌うんだ?」
高山が曲を入れる機械をいじりながら言うと
「じゃんけんでいいんじゃないですか?勝ったやつからが順番を決めるで」
大西の案を採用し、五人でじゃんけんをする。すると一発で前島、大西、笠井の三人は勝ち抜け、先に勝ち組で順番を決める。勝者の順番は前島、笠井、大西のようだ。
「よっしゃ!俺は四番」
「じゃあ私は三番にします」
「二番にするか、トップとトリは避けたい」
前島、笠井、大西の順で勝ち三人は順番を決めた。残りは早見と高山の二人だ。真剣な表情で二人は勝ちに行ってる。この無駄に或る緊張感。すると高山が、手を大きく上にあげる。
「じゃんけん参ノ型・・・頂き」
「・・・なんすかそれ?」
「まぁ、じゃんけん伍ノ型を使っちゃー俺の勝ちは確定しているから参にしてやる。それで、俺はチョキを出す」
とりあえず、参ノ型は心理戦・・・ってことでいいのか?早見はそう納得してる。壱ノ型、弐ノ型はどうなのだろうと考えるがとりあえず、心理戦。
「わかりました。じゃあ、俺はグーで」
「そうか、勿論彼女の前で嘘は言わないよな」
高山は玲奈に目線を持っていきながら言い、手の形をパーに変える。
「早見くんは信頼できる人なので大丈夫です」
両手をぎゅっと握り早見のほうを向く、なんだよそのプロ野球団の若大将といわれた方のぐーたっちは?
「(待て、心理戦だ。裏をかくのが心理戦の醍醐味・・・だが笠井、余計なことを)」
「じゃんけんポイ!!」
結果
一番 早見
二番 大西
三番 笠井
四番 前島
五番 高山
「トップだけは避けたかった・・・」
早見は渋々マイクをもった。カラオケでトップというものは重要だ。ここで自分だけで盛り上がる曲を選択し、周りが引くなんてこともある。
「さて、盛り上がる曲にしろよ!」
「じゃあ三人行く時にやるやつ」
「・・・マジ?」
前島に要求されたのでとりあえず、盛り上がる曲。というか、笠井が入る前の男子のみの時によく歌ってた曲「僕のあそこは・・・」を選択。サンバのようなリズムで始まるこの曲の歌いだしは「YEAH!でっかいぜ!」で始まってしまうという。お下品だが、何とも中高生が盛り上がりそうな曲ではないか。とりあえず、入れておけばいい。みたいなものもある。さらにここのカラオケは歌い終わったら、点数とアドバイスと全国順位を知れるのだが・・・
25点
1000/1013
「君はなんもいえねぇ」
「ある意味すげー。ジャスト1000」
「お前、恥ずかしがって歌うんならやめろよ。一番サブいぞそれ・最初のYEAh//からどんどん小さくなってる」
「高校の定期テストだったら赤点だな」
「??・・・でっかいぜ?」
笠井はどうやらピュアっ子らしいので引いていないようだ。
「・・・・・・」
早見自身もなんもいえねぇ
「俺は・・・適当に流行りもの」
「ミーハーかよ」
「バーカ、時代に乗っとくのが安パイなんだよ」
65点
300/680
「普通すぎてつまんねぇ」
とアドバイス?をもらった
「普通だなお前」
「普通だな」
「普通だ」
「(これは普通なんでしょうか?)」
三人は似たような感想を言ったが玲奈だけがみんなと違う感想を言った。
「なんか俺の番短くね?」
「私は・・・何を歌えば・・・」
いつの間にか順番になってしまっていて曲を入れてなかったので今必死に探している。
「自分の好きな曲を入れたらいいじゃん」
そういって前島はドリンクを飲みながら言うが、決められないようだ。
「・・・うーん」
「アイドルとかは?」
「あまり知りません・・・」
「好きな歌手は?」
「いない・・・ですね・・・」
「え、スマカス好きなんじゃないの?」
「あー、スマイルサーカス?へー、笠井が意外なもの聞いてるんだな」
今時持ち歌がないのは珍しいと思っていたが、早見は着信音にもしているので好きなのかと思っていた。
「あ、そうですね、それにします」
そう言って送信機に送ったのはスマカスのメジャーデビュー曲だった。そしてカラオケに初めてきたという割には音の取り方、ブレスのタイミング、ビブラートの安定性などそれらができているし、何よりそれを自分の持ち歌の様に、スマカスではなく完全に笠井玲奈としての曲になっている。
そして、歌いきった時、笠井を本気でボーカルにすれば伸びると四人は同じような事を思っただろう。それほどの歌唱力だった。
94点
「3位だ〜君に教えることはない!!」
上から目線のアドバイスをもらった。が、この点数を見てもわかる通り、彼女の歌の才能がある。ここからさらにボイストレーニングを積んでいけばもっと伸びる。
「やべーな笠井さん・・・」
「あ、その・・・すみません盛下げてしまって・・・」
「いや、そうじゃねーよ!あ、でも次の俺が歌いにくいわ!」
そう笑いながらいう前島が機械をいじるが言葉通りこの美声の後では、歌いずらい。せめて、採点機能を消したいがこの店は標準装備なので消せない。
「十八番行け!」
「わかった!リクエストにお答えしようじゃないか!!」
大西のリクエストに応えるべく自分の好きな曲を打ち込み送信する。その曲はシャウトが多いので・・・
78点
100/950
「激しいね〜」
とアドバイスではなく感想をもらった。
「大丈夫か?」
「ごれが俺のおばごだ・・・」
前島はロック系の曲でシャウト一回一回全力でやってたので始めから彼の喉はクライマックスとなってしまった。
「声、死んでんぞ」
「いきなり調子に乗るから」
「!”#&#%&!%!!」
何言ってるかわからないけどそこまでひどくならんだろう。
「よかったですよ」
何かしら言った方が良いと思ったのかとりあえず玲奈は言ってみたが、若干顔がひきつっている。
「笠井・・・無理すんな」
「ラストは俺だな」
高山はTシャツの男を叩きマイクを握った。
「先輩!」
大西が立ち上がる。
「すー・・・すー」
「前島・・・口笛出来てないぞ」
早見は今日2回目の同じツッコミをいれた
「男高山!!俺のステージだぜ!!」
「盛り上がってるか!」
「「うぇ〜い!!」」
「う・・・うぇ〜い」
玲奈はこの乗りがわからないようだ。最近はやりのウェーイ系だが何が盛り上がり方がわかっていないようだ。実際問題、みんなわかってないけど。
「無理しなくていいぞ」
「そうですよね。調子に乗ってすみません・・・・」
そんなつもりで言ったわけじゃないのに偉く落ち込んだ。盛り上がると思ったら相変わらず卑屈だ。そしてこの盛り上がりで男高山が歌う始める
「兄貴が演歌を歌ってる」
「シュール系だ!ウェーイ系じゃない!?」
「開演の時との温度差が・・・」
玲奈も流石に口に出した。
「かなり違うな・・・」
結果
68点
159/350
「最初の勢いで歌って欲しかった」
アドバイスではなく要望を頂いた。
「いつもと違うのもいい!」
「あ・・・兄貴は演歌男なんですね」
「笠井・・・無理に乗るな・・・演歌男ってなんなんだ・・・」
「さ〜て・・・歌うぞ〜!!」
「先輩はマイクを離さないかな・・・」
早見は呆れた表情になっていた
「あはははっ」
しかし、その横で彼女珍しくが笑い声をあげていた。
「(笠井、楽しいんだな・・・いいか、楽しければ)」
そう思うと心が癒された気がした。
「(たまにはこう言うこともして楽しむのも悪くないな・・・今度は2人で来ようかな)」
そんな先のことを考えているとクスッと笑ってしまった。
すると・・・
「早見くん?」
「ははっ、楽しいな」
すると早見は立ち上がり高山からマイクを奪い、
「止めろ止めろ止めろ!」
楽しげに大西は止めろと言ってきたが、放す気はない。
「50点を目指すぜ!!」
そして、そこから順順に歌韻結局延長までして合計で四時間近くいたことになった。
「声ががらがら」
「前島は激しいのばっかだったからな〜」
「またみんなで来ようぜ」
こんな日が続くのを楽しみにしていた・・・
あの事を知るまでは・・・ね