四話 居場所
笠井と教室へ向かう前に濡れた服をどうにかするため、電話で前島に笠井の鞄を持ってくるようにお願いした。着替えるため女子トイレ前に持ってきてもらったが、前島の顔がすごく赤い。
「早見この野郎。俺が急に女子生徒の鞄を持って、教室の外に出るという辱しめ、どうしてくれる?」
「・・・すまん」
言葉にすると前島が変態っぽく見えてしまうのを想像し、少し笑いそうにもなったが、助かった。その鞄を本人に渡し、学校指定のジャージに着替えるようだ。
ドアを開けた瞬間、世間話をしていたグループは空気が変わったかのように静まり返った。どこかこそこそと早見と笠井の名前が聞こえたがそれを無視して遠く離れたお互いの席についた。そして、着ていたシャツは笠井に渡してしまったので、自分は予備のシャツを着出す。
「(あまり歓迎されてないな)」
「お前いつまでやってんだよ」
そんなことを思っていると前の席にいる前島が心配そうにも聞こえるが何か期待している表情で話しかけてきた。
「さぁ?わかんねぇ」
そうやってどうでもよさそうに返して、カバンから音楽のカタログを取り出す。
「たくっ・・・お前もリア充の仲間入りっぽくて腹立つ」
「・・・マジ?」
「なんか、お前が楽しんでる気がしたからな~それで?なんかやった?」
前島はまたも何か期待を込める言い方をしてきたが、これと言ったことは・・・いや、先ほど改めて恋人宣言をしてしまったのを思い出す。
「別に・・・なんもない!なんもないからな!」
「下手かよ・・・まさか、ちゅーとか!?いやいや、大人の階段を昇っちまったのか!」
周りから少々みられているぐらい見目立つ声でやや興奮しているがこれ以上話すのも疲れてくるので机で伏せた。
「そんでそんで!!・・・っておい!!じゃあ、デートとかどうよ!!」
まだ食い付くのでこれはむしろ相手にしないほうがめんどくさいというか、何かあってもないことを言われそうなのでそれは回避しようと顔をあげる。
「考えろ、昨日はそんな時間なかったろ」
「一緒に帰ってたろ!?どんな会話をしたんだ?」
「別に・・・部活とか軽い自己紹介ぐらいだ」
止まらない前島の質問にめんどくさそうに早見はその時のことを思い出しながら言う。部活が終わるまで彼女が待ってくれていて二人で並んで下校中・・・あれ?すごくいいぞ?
「明日は部活休みだからさ!・・・二人でどっか行けば?」
「・・・それは良いかもな」
「うぇっ?」
前島はアホみたいな声をあげたが、確かにそれはいいと思う。しかし、提案した張本人が驚いた。
「お前マジでいくの?」
「ああ、話してみたら、謎は多いが、悪い感じではないし、本当の友達にならなれる気がする」
「・・・お前はガチだったのか?」
前島は頭を掻きながら何故かあきれた感じで言ってきた。
「何がだ?」
「言わなくてもわかんだろ?」
確かに、本心はよくわかってない同情でこんなことをしているのか?ただの気まぐれなのか?それとも本気なのか?それすら早見本人は確信はなかった。しかし、近づいてみることに損はたぶんないだろう。
「いや、そんなつもりは・・・だが、やれることはやる」
「そーか、頑張れよ〜」
そう言うと前島は終わったのか、飽きただけなのか前を向いた。
時刻は放課後になり、各々部活の準備をする人もいれば帰宅する。早見前島大西は軽音楽部の高山先輩が来るまで部室で話している。
「なぁー、結局デートすんの?」
「さぁな、予定もなにもまだまだ・・・」
「ああ、なんかやるらしいな」
大西も先ほどの話ががいつの間にか知れ渡っている。別にこれと言って予定を決めてるわけでもないのでその件は後回しでいいだろう。するとドアが開く音がしたので、先輩かと思ってドアの方向へ振り向いてみるとその子には予想外の人物がいた。
「こ・・・こんにちは」
笠井が入ってきた。三人はいったん硬直するが、早見は笠井に近づく。
「よっ!どうした?」
「その・・・見学に・・・」
朝の屋上の出来事で放課後は基本部室にいるということは言っておいた。それに、予想だが、この子は昨日みたいに待つのだろう。それだったら、ここにいたほうが、暇もつぶれるだろう。
「おっ!今時に新入部員か?」
「「高山先輩!!」」
「ハモんなよ。合唱会かよ?んで、名前は?」
「二年の笠井玲奈です・・・」
「(笠井玲奈・・・どっかで聞いた気が・・・)」
「高山先輩?どうしたんすか?」
その名前を聞いた瞬間、何か思い出そうと必死に記憶を辿るが、思い出せない。考えても仕方がないので話を戻す。
「いや、何でもない。ついにむさくるしい軽音楽部にも女子部員か!楽器経験は?ギター?ベースドラム?キーボ?」
「あの・・・」
いつの間にやら笠井の手には様々な備品の楽器を高山が持たせる。しかし、当の本人は困っているようで、早見をに助けを求める表情をしている。
「まぁ、うん、止めてもらえません?一応、こ、恋人、的な?感じ?」
自分の発言に公開をしつつ、言われた本人はは恥ずかしそうに下を向いた。
「早見ゴラァ!!」
高山が指をポキポキ鳴らしながら鬼の形相で近づいてきた。
「いやいや、待って下さい先輩・・・」
高山のオーラに恐れたのか無意識に少しずつ後ろに下がった。
「彼女持ってる野郎見たら先輩はあんなんになるからな~リア充殺し」
「先輩もその気になりゃ女なんてより取り見取りな気がするけど・・・ま、早見ドンマイ」
そういって大西と前島は死なないことを祈った。そして、部室にあったコードでいつの間にか縛られていた早見の真上でバック転。
「ムーンサルトプレス!!」
「ぎゃぁぁ!」
モロプロレス技を食らっていた
「オオッと!!高山選手の見せ技ムーンサルトプレスがきまった!!」
前島は何故か実況をしていた。丁寧にマイクと実況者のネームプレートも置かれている。
「笠井さんこっち来なさい。安全だから」
「はい」
大西は笠井を安全なところ(実況席)にいるように言った。
「卍固め!」
「き、決まった!!高山選手の得意技卍固め!!これは抜けられません!!」
「ダメだ、もう少し人生を楽しみたかった・・・あぁ天使が見える」
「ワン!トゥー!スリー!カンカンカン!!」
試合終了のゴングの代わりにシンバルがなった。
「ウィナー高山!!」
「笠井さん、言っとくけどプロレス部じゃないから安心して」
「・・・はい」
「んで、早見の彼女は楽器経験はあるのか?」
そのまま伸びている早見を置き去りに正気に戻った高山が聞いてみる。
「その・・・経験はあまり・・・」
「ボーカルは?」
「カラオケとかで点数は?」
大西と前島もいろいろ聞いてみる。いつの間にか彼女が中心の会話ができていた。
「私カラオケ行ったこと無いです・・・」
「よし!!!明日みんなで行こう!!笠井さんの歓迎も兼ねて」
高山がそう提案をしている間に早見は起き上がる。
「(なんだ・・・結構馴染んでる)」
「よし!!んじゃ明日な!!」
そういって予定を立てている。そして笠井は普段の練習を見てもらうために椅子に座らせる。各々基礎練習を始めようとしたとき
キーンコーンカーンコーン
部活終了のチャイムが鳴った。
「今日練習したか?」
「・・・・・・」
「明後日はちゃんと練習しようか」
そういって反省しながら各自出したばかりの楽器を片づけ始めた。