三十一話 なんでこんなことに…
「あんた・・・誰」
この言葉・・・どういうこと?
「早見君・・・何を冗談を・・・」
「いや・・・本当にわからないんだ」
私はショックだった。冗談で笑い飛ばす筈だった・・・だけど、目の前で起こっている。記憶喪失・・・実際にあったのか・・・夢ではないか?ほっぺをつねる。痛い。現実だ。目を背けたい。ダメだ。そんなことをしては・・・
「私は・・・笠井玲奈と言います。あなたの恋人です」
そういうが、実際はまだ恋人ではない。そうだと思っていたが違った、しかし、彼から告白されその返事に答えられていない。不思議だ・・・自己紹介だなんて、前から知ってるのに・・・
「そうか・・・恋人か・・・すまない、思い出せないけど・・・お前に申し訳ないようなことをしたような気が・・・」
頭を抱え早見は思い出そうとしているが何も出ない。無理矢理思い出そうとしてる。
その間目が覚めたことを伝えるため、笠井はナースコールのボタンを押した。しかしそれと同時に今更ながら涙が流れているのに気がつかなかった
「すみません!すぐ来てください!目を覚ましました!」
数秒後、男の看護師が慌てて駆けつけてくれた。
「どうしましたか?」
「早見君が・・・記憶喪失で・・・」
「・・・今から医者が来るから」
「ごめんなさい・・・」
私は自然に涙が流れ落ちた。記憶喪失である彼を自覚したせいで自分の存在は彼の中から消えてしまったのだと思うともう悲しくて仕方がなかった。それを見ていたれなかったのか看護師が慰めてくれる。
「ほら、飴ちゃんあげる・・・っても高校生には効かないか。なんかあったのか?記憶喪失だなんて?」
私は全部話した。犯罪者の娘のことも嘘の告白のことも屋上から飛び降りたのを庇ってくれたこと。
「へー嘘告白は最低だが、この兄ちゃんはあんたのことそんなに大切に思ってるのか。普通はしないぜ?こんなこと?」
「でも・・・でも・・・」
「泣いてたって仕方ないだろ?それに、何かを思い出しそうになってるなら力になったげな」
そんな会話をしていると医者が到着したみたいだ。
「こちらです」
早見のいる病室に数人の医者や看護師が入っていった。
医者には言っておいたが、記憶喪失かはまだわからない。だが、幸い怪我は一ヶ月ほどで完治する。
「この状態を親族に方々に伝えるのはかなり言いづらい・・・」
確かに、長男の記憶喪失を伝えるなんて・・・家族の記憶すら失っている。
数分後・・・
バタッ!!
ドアを勢いよく開けて入ってきたのは・・・たぶん、彼の両親と妹の花だ。私は顔を合わせないようにした。
「私たちのことわかる?」
「・・・すみません」
家族のことも抜けているようだ。その瞬間に自分ンがとんでもないことしてしまったのだと自覚する。こうなってしまったのは私が原因だ。なので家族に顔を合わせるのが怖い。なのでその場から逃げ出そうとした。
「あら?あなたは?」
しかし、早見君の母親が声をかけてくる。頭が真っ白で何を言えばいいかわからない。
「その子は・・・俺の恋人らしいんだけど・・・思い出せない」
「いつの間に恋人なんて・・・ありがとね、支えてくれて」
「いえ・・・」
私は罪悪感を感じてしまった。支えてくれたのはむしろ彼だ。
そして、こうなってしまったのは私のせいだ。・・・言わなきゃ・・・でも・・・言えないよ・・・言ったら、二度と早見君に会わせてもらえない気がする。
だが、いずればれるのはわかっている。学校から明日絶対に尋問される。
「失礼します」
私はこの場を離れたくて、出ようとすると・・・
「なぁ・・・明日も来てくれないか?」
彼の声が聞こえた。とても嬉しかった。
「お前といると・・・なんつーか・・・お前を守ってやんないとった思う」
「・・・あり・・・がとう」
かすれた声だがしっかり返事をして、その場を去った。
いつもより早い時間に起床。
今日は学校だ。でも・・・行きたくない。行ったら何かされるかもしれない・・・犯罪者の娘のことはばれてるに決まってる。
「でも・・・行かなきゃ・・・逃げないって決めた」
重いからだに無理矢理鞭をうち、布団から起き上がる。
家には誰もいない。私だけだ。着替えるためにクローゼットを開ける。
「(これは、もう要らないだろう・・・)」
ある箱を手に取ったが無かったかのようにもとの場に戻した。
いつもの朝食・・・食パンと牛乳だ。だが、うまく喉を通らないので無理矢理流し込んだ。
「行ってきます」
誰もいない家に向けてそう挨拶する。いつものことだ。
いつもの通学路をいつもより重い足取り出で歩く。
私は動揺しているのが自分でもわかってしまう。学校に着いたら、どんな目に遭うのか・・・春香の時みたいにビラをばらまかれてるのか?中学の時みたいに嫌がらせが・・・
考えてるうちに、学校についてしまった。
校門をくぐる。早めの時間のせいか誰もいない。
誰もいない教室に入る。なにもすることがない。
「・・・・・・・・・・・・」
「部室にいこう」
大きい独り言のように呟き、部室に向かう。
目の前には部室・・・入ろうと思ったが・・・
「早見のやつ・・・大丈夫か?」
「一様思ったほどではないらしい」
中から声が聞こえた。前島君と大西君だ。
「笠井も・・・犯罪者の娘か・・・桜井の時みたいになんか面倒なことに・・・」
「どうする気だよ?」
「そりゃ、何とかする・・・」
前島君は私をかばおうとしてくれている。文化祭が終わったあとはあんなこといってたのに・・・
「正気か?あいつは舞台を滅茶苦茶に!」
「確かに許せないことだが・・・なんつーか・・・ほっとけないな」
「そもそも、お前があのタイミングであんなことを言ったから!!」
大西が声をあげる。廊下まで聞こえるほどの大声だ。
「はっ知らねーな!!チャンスだったんだよ!!」
「チャンス?」
「あの二人を引き離すにはこのタイミングしかないと思ったんだよ」
「何いってんだ?」
「俺も・・・惚れたんだよ。あいつに」
「それで、あの時にあんな行動をとったのか?」
「ああ、ここしかないって思ってな」
「お前・・・最低だな」
「はぁ?」
「そんなもん、卑怯者がやることだ。本能に任せて生きてきたように見えて、小物だったんだな。嫉妬なんて情けな・・・」
バキィ
突然前島が大西を殴り始めた。
「てめえにわかるのかよ!!好きな女が他人にとられてるのを・・・黙ってみてろってのか?」
「ああ、て言うか、選択肢はそれしかねーだろ。小物。」
「うるせぇ」
中では殴り会う音だけが聞こえる。その場にはいたくなかった。前島君が・・・私のこと好き?
そして、嘘の告白をばらしたのはエゴ?
何をしたら、彼を納得させられるのか・・・
考えながら、その場を去った。




