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嘘の告白  作者: かっきー
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三十一話 当日

朝、目覚ましが鳴り響き、いつもだったら二度寝をしたいと思ってしまうが、今日は違う。待ちに待った文化祭だ。それに、今日は笠井と文化祭デートがあり、それも楽しみで眠れなかった。ベッドの上で格好つけた書状を浮かべる。そこに起こしに来た妹の花が来た。


「花よ・・・今日の俺はめっちゃ違うぞ」


「あー、ハイハイ。文化祭ね。後で見に行くから、その間に家事済ませちゃうね。そんで昨日弁当箱出さなかったでしょ?自分で洗っといてね」


「・・・はい」


妹に出鼻をくじかれてしまったが、とりあえず昨日出し忘れた弁当を洗い、学校へ向かう準備をする。予定としては午前開始の一時間はクラスの出し物であるポップコーン屋を手伝いその後正午まではフリー。つまり笠井と学校を回る。その後はメインであるライブを行いその後は打ち上げ・・・なんだこれめっちゃ楽しみ。


HRが始まり、その後は体育館へ全校生徒が集められる。文化祭実行委員の挨拶から始まり、教師の注意事項など、長い前置きは耳には入らず、早く文化祭を満喫したい気持ちでいっぱいだ。


「それでは・・・文化祭を開催致します!!」


その会式の挨拶を植えると生徒が一斉に走り出し、各々が準備してきたものを発表する。そして、校門から保護者、学生、地域民、数多くの方が来場した。


「よし!俺らも売るか」


早見達は教室に戻り、ポップコーン屋を始める。ちなみにメンツは軽音楽部のメンバーのみだ。それぞれの部活動の出し物も配慮した結果このようなシフトになった。


「よし、男は作って、女は販売・・・」


「あー、それはやめたほうがいいかも・・・」


そう言う桜井だが、確かに笠井はまだしも桜井は悪い意味でかなりの有名人になってしまった。だが、販売に華がないのはなんか嫌だ。


「まぁ・・・そうだな。じゃあ、接客の代名詞のためにメイド服持ってきたけど早見君に着てもらおうか!」


「はい!?」


なぜか、前島のカバンから某何でも屋の袋が出てきてその中には安っぽいメイド服が入っていた。


「いや、客寄せのために女子たちに着てもらおうと思ったんだが、まぁ、理由が・・・思ったよりも重い」


「早見は着るの二回目だしいいじゃんね?」


大西の言う通り、以前無理矢理着せられたことを思い出すが、流石に彼女の前で着るのは嫌だ。


「おーい。来たよ・・・」


「あ、高木!ちょうどいいや!これお前の分」


そう言って二着目のメイド服を投げ渡し、もうお客が入ってくる時間なので無理矢理教室の隅の仕切られたカーテンの奥で前島と大西が二人を取り押さえて無理矢理着させる。


「フハハハハ!ここがいいんだろう!」


「ちょい待て!変なとこ触るな!」


「・・・高木足綺麗だな」


「いや、本気のトーン止めてくれない?」


教室の隅のカーテンの死きりの奥で何が行われているのか、待っている女子は少々混乱していた。その後声は止み・・・というか二人が諦めて自分で着るようになった。


そして出来上がったのが助走した早見と高木・・・高木は良いのだが、もう一人のほうのクオリティーが低い。


「うっわ。可愛くねー」


「高木・・・お前マジで顔隠せば女行けんじゃね?」


そう言いながら二人は携帯のカメラでしっかりと写真撮影を行っている。


「お前らこれ以上は金取るぞ。チャカ代プリーズ」


「チャカじゃなくてチェキな。銃売ってどうすんだよ」


「知ったかはやめとけ。バカがばれる」


「そして・・・そこでうずうずしているお嬢さん方!・・・どうぞ」


待っていた二人もしっかりと携帯電話を構えてはいたが、悪いと思ったのか撮るまではしていなかった。だが、そう言われた瞬間にカシャっと音が聞こえた。


「あ、見せませんので・・・良いですよね?」


笠井が無意識に撮っていたのでもうどうでもよくなり


「ほら!!撮れよ!!どうだ!!アハハハハ!!」


もう自棄になった早見は急に叫びだす廊下にも響いてしまっている。だが、お構いなし。しまいにはポージングまで取る羽目になった。


一方の高木は大西と桜井に絡まれていた。


「顔隠して・・・まぁ、マスク程度だけど」


「私化粧品持ってるから、ちょっとメイクすればいい感じかもね!」


「え?僕を本気女装させる気?」


そんなことをしていると流石にお客さんが入ってきたのでクラス内の文化祭行事を開始する。高校生が作ったポップコーンなので三十円という安さだが、食べ歩けるし十分稼げるのでいい。後単純に楽だ。


「さて、ここでナンパされるって言うイベントは勘弁なんだが・・・」


そんなありきたりなことが起きることはないとは思っていたが、


「あ、お嬢さん可愛いね~この後俺たちとどう?」


おおー絵にかいたようなナルシストイケメンがナンパしてるのはメイド服に身を包みメイクで美青年と化した高木だ。


「僕はそう言う趣味ないので・・・」


「おお!僕っ娘!!かわいい子がやると絵になる!」


マスクと目元の簡単な化粧を行ったので、可愛らしいメイドが出来上がっていて、早速ナンパされてしまうモテっぷりを発揮していた。


「(HELP!)」


「(いや、どこまで騙せるか試そうぜ!)」


というわけで温かく見守ることにして、そのまま続ける。


「今何年生?うち男子校だからさ!こういった可愛らしい子はいないんだよね~」


腰に手を回しはじめたので流石にまずいと思ったので止めようとするが、誰よりも先に飛び出す影があった。


「悪い・・・行くぞ!」


そうって高木の手を引いて行ったのは一人の男子学生・・・の制服を身に纏ったとある影が目に入る。


「すみませんが、私のなので・・・」


そう言って出てきたのは男子の制服を身に纏った見覚えのある顔が手を引いて高木を連れ去ってしまった。


「・・・ひゅー。かっちょいい」


適当な冷やかしをするナンパたちは特に何か起こすわけでもなく次のターゲットを探すことにして教室を出て行った。


「ふぅ・・・ここまで来れば・・・」


「いや、桜井さん・・・この格好であまり外に出たくなかったんだけど・・・」


とりあえず外に出たのだが、多くの人たちに注目されてしまっている状態だ。察した通り男子生徒の正体は桜井で、その桜井がメイドの手を引いているカオスな状態なので自然と目が行ってしまうのも無理はない。


「あ、ごめんなさい・・・でもなんか・・・」


「いや、助けてくれてありがとう」


あの状況で唯一動いてくれたのが彼女だったので格好はあれだが、感謝はしている。なのでお礼を言うと同時に人だかりができてしまった。


「あの!写真いいですか!」


「え?」


制服は近所の中学校の制服で高校見学兼文化祭を満喫しに来たのだろう。なぜかそこから一気に写真を許可もなくバシャバシャと撮られ始めてしまう。


「そこまでだ!!」


なぜか聞き覚えのあるBGM。つまり・・・


「愛と勇気のヒーロー!!バトルレンジャー!!参上!!」


カメラ集団の間に割っては言ってきたのは以前も助けてくれたバトルレンジャー・・・が、焼きトウモロコシを販売しながらいた。


「あ、一個二百円です。まいどありー」


カメラは全身タイツが焼きトウモロコシを売っているほうに関心が行ったのでその隙に場を離れた。


「(いいなー高木。彼女と文化祭デートして・・・)」


若干の嫉妬も交えながらも逃げて行った二人を温かく見送っていった。


「ふぅ・・何とかなった」


「あいつに助けられたのは二度目だな。今のうちに戻ろう」


そう言って二人で教室へ戻り、どうなっているかを確認する。


「あ、戻ってきた。」


「おかえりなさい」


そう言って大西と笠井という珍しい二人組で店番を行っていた。


「ごめんね。勝手に出て行っちゃって」


「気にすんな。それにせっかくだし、二人ちゃんとした格好で行って来いよ」


「いや、悪いよ」


「いいのかよ!文化祭といえば新しい発展のイベントなんだぞ!!それをみすみす逃すなんてねーわ。はい。というわけで行って来い」


大西が勝手に決めて、着替えさせる。


「そう言えば早見君と前島君は?」


いつの間にか二人の姿がなく。だからこそ珍しい二人組がいるわけなのだが、


「知なんか男同士の会話しに行った」









そしてその二人は屋上にいた。文化祭中はここのでは入りは特にないので誰にも邪魔されることはないだろう。


「なぁ、早見。お前って笠井のこと好きだよな」


「ああ・・・ホント不思議なもんだよ。今考えればお前と大西がキューピットってことか」


思い返してみれば彼らが嘘告白を言ってくれなければあのように笠井の魅力を知らずにいただろう。なので、今の早見の気持ちを真っすぐに伝えた。


「でもさ、嘘の告白でマジで好きになったって言うのもなかなかドラマチックだな」


「なんだよ?いつもの感じはどうした?」


いつも賑やかな彼であるが今日はやけに真剣だ。男同士のマジ話をしようと言ったのでそういう雰囲気を作っているだけなのだろうか。


「もう伝えたのか?マジだって」


「・・・いや、まだ伝えてない」


「そうか・・・なぁ、早見・・・正直どうよ。笠井玲奈」


「どうって・・・なんか変だな。らしくない」


「あいつに嘘告白してから最初は嫌々会話したり一緒に帰ったり、なんか吹っ切れて友達になるとか言い出して、部活のメンバーになって・・・んで俺とも知り合って。そこから笠井って良いやつなんだなって一緒にバカ騒ぎ出来るやつだなーって・・・なぁ・・・早見。」


いつもの前島らしくない緊張感が漂う。ただ、そう思った瞬間にニコッと何か諦めたように前島は笑った。そして、ふっとその緊張感は無くなった。


「悪い。何でもない・・・これからもうまくやれよ。」


笑顔でそう言って前島は屋上を出て行き、その時の彼の背中は応援されたようにも感じた。


そしてそれを追いかけるように教室へ戻ろうとすると、笠井急にが教室を追い出されれるように出てきた。


「ほら、お前ら行って来い!文化祭デートだ」


そう言って気を聞かせて早い時間にあがらせてくれた彼らに感謝し、文化祭をめぐることにした。




午後はステージがあるのでそんなに時間があるわけでもないのだが、その少しの時間を多く作ってくれたあの二人には感謝している。


「さて、何しよう」


全校生徒に配布されているパンフレットを見るが、数が多すぎて逆にどこから回ればいいのか迷っていた。運動部系は主に食べ物を出店していて、文化部破主に出し物を行っている。さらにクラス内での出し物があり、一日で周り切るのも難しいだろう。


「えーっと、なんかあるか?」


「そうですね・・・」


このままでは時間を無駄にしてしまうのでとりあえず歩き出し、見て決めることにした。その道中で見つけたのは演劇部の出し物のようだ。


「どうですか?ここではエチュードをして得点によって賞品がもらえます!」


「エチュード?」


エチュードとはすなわち即興演技のこと、場合によっては性別や年齢の設定縛りでもやることがあるが、今回は完全フリーなものだ。


「だってさ?笠井・・・」


「やりましょう!」


確認を取る前に承諾をした。内気な彼女だが、なんだかやる気のようだ。その理由はどうやら賞品にあるらしい。それはペアルックの指輪のようだ。おそらく演劇部の小道具のようだが、それに目が行ったらしい。


「はいじゃあお題は・・・告白です!」


ボックスの中には数種のお題が入って言うにもかかわらずなぜそれを引いてしまう。そう思っているがもうすでに始まっているようなので、役に入る。


「え、っときゅ、急に呼び出してすまん」


「い、いえ、いいえ、こち、こちらこそ」


やりたいと言っていた割にはセリフがとぎれとぎれで甘噛みで大変なことになっているし、赤面状態だ。とりあえずさっさと終わらせるのが得策だと思ったのであの時と同じように流れをぶった切るように言う。


「いつの間にか好きになってた」


「え、あ、その、・・・はい」


これも演技。早見は二回目の嘘の告白をした。それと同時に罪悪感があの時よりもすごくある。


「カット!ハイオッケーですそしてこのお題でエチュードをしてくれた方にはこちらの商品をどうぞ!」


そう言って渡されたのは笠井が欲しがっていたペアルックの指輪だった。


「えへへ・・・」


そう嬉しそうに彼女は薬指に指輪をはめる。それを見て少し恥ずかしくなった。


「これで今日の公演も頑張れるか?」


「はい!あの、早見君ははめないんですか?」


そう聞いてくる彼女、やはりはめないとダメかと思いながら、恥ずかしそうにそれをはめる。


「ほい」


「似会ってますよ!」


「お前もな」


正直恥ずかしい上にバカップルだと思うが彼女の嬉しい顔が見れたのでそこは満足した。その後は公園の時間まで構内を回り、二人で楽しい思い出を作る。また来年もこうしてまわれればいいとお互いに思っていた。




「さて、お前ら・・・俺たちは今日のために練習をしてきたんだ。全力で行くぞ!!」


部長はそう言って手を前に出しが、周りは困惑している。


「なんすか?これは?」


「青春漫画みてーに円陣だよ。お前らも手を出せ」


「面白そうっすね」


早見が手を出すと、続けて他も手を出した。そして高山の一声に合わせて何か叫ぶのかとも思っていたが、妙な表情をしている。


「・・・何て言おう」


「決めてなかったんすか!?」


「まぁ・・・なっ!!だったら!!」


スゥッと息を吸い。


「絶対に成功させっぞ!!」


それと同時に重ねられた手は宙へ向けられる。


「普通すね」


「良いだろ。シンプルイズベスト」


「軽音楽部、準備を」


運営委員の声をきき、各々が準備を開始し、高山からどんどんステージに乗っていく。笠井が乗ろうとする前に早見が笠井を突然呼び止め、


「笠井!」


「なんですか?」


「このステージが終わったら・・・伝えたいことがある」


早見はあることを決心した。笠井に嘘の告白のことを謝罪し、本当に好きになってしまったことを・・・そして、告白をすることにした。


「はい、彼氏さんのお願いですもん」


「ありがとな」


そう言って早見は笠井の手をぎゅっと握りしめ、二人でステージに上がった。


緞帳が開き、結構な人数の客が見える。在校生も多数いて、高山のファンクラブみたいなものもある。この空気は好きだ。独特の匂いや緊張感。人前でのパフォーマンスはこれがたまらなく気持ちがいい。


「では、軽音楽・・・」


司会進行の実行委員がコールをし、始まろうとしたそのときだ。何者かが、そのマイクを奪い去った。


「はい、無理、ちゅーし。できませーん」


その憎たらしい声の正体は理事長の息子、成宮だ。最近おとなしいと思っていたがこのタイミングで、しかも文化祭発表前に出てくるのは予想をしていなかった。


「もっとこの場を盛り上げることができる方法を知っているよねぇ~早見くん」


こちらをちらっと見た後にわかっているだろう?と言わんばかりの表情。言いたいことはわかってしまったがもう、遅い。


「おい!なるみ・・・」


「軽音楽部の笠井玲奈はあの犯罪者、永岡堅太の娘だぁぁ!!」


ほぼ全校生徒の前でそれを言ってしまった。舞台上、観客すべてが舞台センターにいる笠井に注目している。大西、前島、高山も同じような表情を浮かべている。


「そんな部をほおっておくわけにはいかないですよね~」


舞台裏にいた桜井も蹲ってしまって、助け舟を出そうにも出せない。


「それはどうかな?」


そんなざわつきの中、一人の男子生徒が声をあげる。


「高木か・・・貴様もめんどくさいやつだったな」


「さて・・・観客の諸君・・・僕ちんに逆らったら・・・わかってるよね?」


高木の言葉をそっちのけにして、観客の方にマイクを向けた。


「そ・・・そうだ!引っ込め軽音楽部!」


一人の男がそう言うと、


「引っ込め軽音楽部!」


「帰れ!!」


悲惨なコールが始まった。たぶん、不本意でやっているのだろうが、やらなければ、自分に何か来る。そう思ったのだろう。


「うぅう・・・」


「笠井!」


その場でうずくまってしまった彼女に早見が近づき声をかけてやる。鳴り響く罵声の中、慰めることしかできないが早見だが、誰かが笠井のマイクを取り上げる。


「おい!!お前らぁぁぁぁぁ!!!」


高山の叫び声がハウリングと共に響きわたる。それに驚いたのか、コールは無くなった。そして、辺りを見渡して、誰もが黙った状況なのを確認する。


「いつからそんな卑怯ものになったんだ?理事長の息子さんにいろいろされるのが怖いってか?」


全員の本心に問いかけるように、まるで演説の様に問いかける。先ほど、高山が言った通り、怖いのだろう。噂もいろいろあり、逆らったら、学校生活を送れなくなったということも聞いた。反感を買うのは現実的ではない、しかし、高山は友人を裏切るのであればこのまま自分が犠牲になってやるという考えなのだろう。


「た、高山!ありがとう!」


「間違ってたよ!」


徐々に三年生から応援の声が上がりだす。高山の人柄や人望があるからこそのこの行動なのだろう。会場のボルテージがドンドン上がっていく。


「こいつの歌声を聞け!!犯罪者の娘だかなんだか知らんが、歌声は天下一品だ!」


お膳立ては完璧だ。先ほどの悲惨なムードから完全に軽音楽部のムードに塗りかえた。この状況で成宮は圧倒されたのかまるで声を発しない。


「笠井、早見、位置につけ」


塞ぎ混んでる笠井から離れて、早見はたち位置につく。


「聞いてくれ、俺のオリジナルソング・・・story」


早見のベースソロから始まり、一時はどうなるかと思ったが、何とか続けられそうだ。このまま安心して笠井のパートにパスが出来る。


「ぁ・・・ぁ・・・」


そう思っていた。しかし、当の笠井は先ほどの出来事で精神的にきついのか、声がかすれている。緊張もあるだろうが、練習の時より全然だめだ。


「歌えよ!」


「どういうことだよ?歯向かったんだぞ!」


「ひぃっく・・・ひっく・・・」


再び、罵声が飛び交う。先ほどあれだけ回復した会場は先ほど成宮には向かって味方になってくれた人も的になっている。遂には、笠井が泣き出してしまう。


「幕を降ろせ!!」


高山のその指示により、実行委員は緞帳を下ろし始める。高山世代最後の文化祭は最悪の形で中止に終わった。




時刻は夕刻、肯定では後夜祭のキャンプファイヤーの準備を進めている最中であって盛り上がっているが、部室に戻っていた彼らは、意気消沈していた。なにも言葉がでない。笠井が嗚咽混じりに泣いている声だけが聞こえる。


「・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい」


静まり返っていた部室に笠井の声がした。


「・・・・・・いいよ。別に」


今さら謝ったって遅い。高山はそう言うが許してくれるはずもない。頑張ってやってきたのはみんな知っている。あれだけマイナスムードにしたのをここまでやってくれて、挙句の果てに声が出ずに失敗なんて許してくれるはずもない。


「先輩・・・」


次に口を開いたのは前島だ。


「早見・・・そいつにいつまで気をつかってんだよ・・・そいつのせいっつっても過言じゃねぇーぞ・・・それにいつまでやってんだよ、そのゴッコ」


「えっ?」


「おい!!」


前島が急にその話題を、今、こんなタイミングで白状する意味が分からなかった。八つ当たりかはわからないが、いま言うべきではないのは早見も、そして目を合わせた大西もわかっていた。


「バツゲームでの嘘の告白をいつまで続けてるんだよ」


「・・・・・・・・・」


笠井は無言で立ち上がり猛スピードで部室を後にした。


「おい!」


「なんだよ?離せよ」


早見は前島に掴み掛るが、本人は動じていないようだった。


「言うにしても・・・このタイミングに言うことないだろ!」


「・・・知るか。あいつも嘘つきだったしな。お前もな」


「何が・・・」


「笠井が犯罪者の娘だって、これを部活メンバーが知ってると知ってないで今回のことはもっと穏便にも出来たかもしれないだろ?それをお前ひとりが抱え込んだのがかっこいいと思ったのか?自己満か?」


そのことを言われると早見も言い返せなかった。前島の言っていることも確かだ。決して信頼をしていないわけではない。かっこいいなんて思ってない、彼女のために・・・・


「早見。お前は笠井を追え・・・こいつは俺が何とかしとく」


いつもの様に冷静に・・・いや、無理矢理冷静になっている大西がこの場よりも笠井を探すように言った。


そう思いながら、屋上に向かうと・・・


「笠井!?止めろ!!」


金網を登って飛び降りようとしている。


「早見君・・・」


「止めろ!!降りろ!!」


「嘘・・・嘘に決まってる。早見君に裏切られた・・・私を必要としてる人なんて・・・いない・・・」


「俺は・・・お前が好きだ!!愛してる!!嘘の告白から始まったけど・・・あのときの台詞を今となったら、堂々と言える」


スゥ・・・


「いつの間にかあんたのことが好きになってたんだ!!」


はじめて笠井に嘘の告白をしたときの言葉・・・思い出してくれているだろうか・・・


「嘘です。所詮また、裏切るのでしょう?」


彼女の目は死んでいた。まるでこの世の終わりかのように・・・


「いつもは・・・飛び降りようとするときに早見君の顔が真っ先に浮かぶんですけど・・・今はなにも考えてません。」


「さよなら」


そう言うと、飛び降りた。高さは40メートルくらいから地面に叩きつけられたら、死ぬ。


「(いろいろあった・・・)」


降りながら考えていると・・・


ガシッ


っと抱き抱えられた。


飛び降りてる状態なのに・・・誰?


後ろを振り向くと・・・


「このバカ!!」


「早見君・・・どうして・・・」


普通だったら、飛び降り中の人を助けたりはしないだろうか。だが・・・


「好きなやつが死ぬ瞬間なんて見たくないからな」


すると、飛び降りてる笠井の下側に回り・・・


「こうすりゃ、俺がクッションになってお前は安全だろ・・・」


「ダメ・・・そんなこと・・・」


「下は芝生だか・・・」


ズドンッ


地面に叩きつけられた。

そして、笠井をしっかりと体で受け止める。

その瞬間、意識が暗転した。


「早見君!!」


ピーポーピーポー





私は早見君のお陰で軽い怪我ですみました。しかし・・・


早見君は緊急手術だ。

無事に成功したらしいですが・・・


病院の一部屋、半日が過ぎましたが、早見君は起きません。


私のせいで・・・私はもう逃げないことに決めました。自殺もしない。早見君が起きたら、私から・・・言うんだ。だから、早く起きて・・・


「・・・・・・・・・・・・」


「早見君!!」


目を覚ました彼に声をかける。さっきの願いが届いたのか、奇跡なのかわからないが・・・


「良かった・・・良かった・・・」


嬉しさのあまり抱きついてしまう。ごめんなさい。でも嬉しくて・・・

だが、早見からはこんな言葉が飛び出した。



「あんた・・・誰?」







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