三十話 前日
「さて・・・いつのまにやら明日になってしまったな」
今日は文化祭の前日、つまり、高山が明日で最後の部活動になるということだ。
「とりあえず・・・お前ら、よくついてきてくれた。こんなアホみてーな先輩によ。お前らと過ごした時間は・・・」
「わぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあああ!!!」
突然、早見が叫びだした。
「・・・そんな悲しいことは後にしましょうや」
「いい雄叫びだ。湿った空気を作るなんて先輩らしくないっすよ?」
「明日が俺たちのスーパーライブ!!」
「頑張りましょう」
前島、笠井と、言葉が出てくる。
「お前ら・・・」
高山は何か言いたそうであったが、あえて、なにも言わなかった。
「よし!練習だ!」
そのまま練習を再開し、最高のメンバーで贈れる最後の部活動だ。そんなことを思いながら曲を投資て行く。いつもバカな行動に付き合ってくれた早見。騒がしく盛り上げてくれた前島。文句を言いながらも乗ってくれる大西。ボーカルの不在を救ってくれた笠井。慣れないながらもマネージャーをしてくれた桜井。こんな楽しい生活が・・・
「続けばいいな・・・」
「なんすか?唐突に?」
「どうせならね大人になってもこの面子でやっていきたいと思っただけだ・・・」
今高校生だが、この先皆一緒というのは正直難しいだろう。進学就職、ずっとこの地域にいるとは限らないが、同窓会のようにたまに会うことはできるだろう。そう思っているとなんとなく時計が目に入る。それを見ると高山がハッとした表情になった。
「あっ!!」
「ど、どうしました?」
急に叫びだすので何かと思った笠井が聞いてみる。
「そういや、前日のリハーサルあったの忘れてた」
そう言って見せてきたのは文化部リハ案内の案内書だ。
「あと何分すか?」
「・・・・・・10分」
「えっ?」
ドラムやアンプを運ばなければならないのにあと十分・・・ここから体育館に向かうに間に合うだろうか・・・
「根性だ!!野郎共!!」
野郎じゃなやつもいるがいちいち触れていたら間に合わない。素ぴーでしかつ丁寧に楽器を運び出し、演劇部のリハーサルが行われている中、少々騒がしく運搬を開始し、なんとかリハーサルの時間には間に合った。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
「はぁ・・・はぁ・・・」
リハーサルをする前からダウン状態だ。
「次、軽音楽部」
「うあぃ」
疲れのせいかまともに返事ができてない。
「準備ー」
「あい」
まるでやる気がない(実際は疲れているだけ)ような感じでセッティングをはじめる。
「さて・・・やるぞ」
セッティングが終わった瞬間、全員の目付きが変わった。さっきの態度がまるで嘘のようだ。
文化祭実行委員による音響と照明の練習を挟み、ようやくOKのサインが出る。そして、メンバー全員で
目くばせをし早見の伴奏から入る。早見のベース、前島のドラム、高山と大西のギター、そして、笠井の歌声。この面子にしかできないこの曲、やはり美しい。周りの反応も上々だ。特に笠井の存在がやはり大きい。バンドは基本ボーカルをメインに見られているのでそれがうまいと自然と周りもうまく思われるものだ。
「ありがとうございました」
そんな楽しい時間は終わってしまったgあ、これがまた明日お客さんも交えてもっと楽しくなると考えると自然と笑みが溢れてしまう。そして、このメンバーでの最後の演奏になるだろう。終わったら打ち上げとかして盛り上がろう。
そんなことを考えると次の部活が準備を始めたので急いで自分たちのものは舞台袖に運んだ。その後、無言で全員部室に戻っていく。何か空気が重い・・・いや・・・
「・・・良かったよな?」
なぜか不安そうに前島が聞いてくるが、正直周りも同じような感じだ。笠井を交えてのステージ演奏はほぼ初めてだったのでどうなるかはわからなかったが、これだけは言える。
「(ここまで出来るようになったか!!?)」
今までの演奏で一番良いものが出来上がっていたのは確かだった。去年行ったものとは比べ物にならないくらいの出来だ。
「来たよな!!これはスゲーよ!!プロのスカウト来るんじゃね!?」
大西も興奮して大げさなことを言っているが、わからないでもない。そのぐらい彼らの心が合っていたのだ。
「よし!!前夜祭やるぞ!!」
「はい!!」
高山の一言で学内の勾配でジュースと菓子類を購入し、部室の机を並べ囲み、各々飲物を紙コップに注ぎ、高山が椅子に乗り出して乾杯の音頭を取る。
「では!・・・乾杯!」
「え!?短!?」
もっと何か言うのかと思ったが、すごく簡単に済ませてしまったので呆気を取られたが、大声で乾杯!!と叫ぶ。
酔った様に盛り上がる。明日で先輩は最後なのだ。今くらい大いに盛り上がり羽目を外してもいいだろう。廊下中に響き渡るまで歌い、演奏し、笑った。こんないつもの調子で盛り上がれるのも最後なのだろう。
「どうだ!ポッキーのチョコの部分だけ舐めとってやったぜ!」
「甘いな!俺はトッポの中のチョコを吸い取ってやったぜ!」
「わ・・・私も・・・えっと・・・早見君!何すればいいですか?」
「えっと・・・やんなくていいよ」
なので普通のグミを渡し食べるように言った。すると高山が早見の前に手を出し。
「俺も一個。ソーダ味な」
「はい」
そう言って高山に渡すと、驚くべきことを言われた。
「早見。次の部長お前な」
「・・・はぁ!?」
まさか袋からソーダグミ漁っているときに任命されるとは思っても見なかった。というか・・・俺?
「お前は周りも見れる奴だし。リーダシップを張るというよりは仲間と支えあって引っ張っていけるし・・・」
「行けるし?」
「・・・消去法」
「ええ・・・」
それは正直聞きたくなかったが、プレッシャーはある。思えばこの人がいたから俺たち後輩は自由にやれていた。何かイベントがあれば、率先的に行動をしてくれた。そんな彼の後を継ぐというのは非常に重いものだ。
「だが、これは言っておく。俺を目指すな」
「・・・はぁ、無茶言いますね」
まるで心を読んでいたかのようにそう言ってくれた。確かに俺は高山先輩の代わりを務めようと考えていたが、そんなことはしなくてもいいと言ってくれている。なので、少し笑ってしまった。本当にすごい人だ。
「笠井もそうだろ?俺みたいにバカやる彼氏も見たくないだろうし」
「ははは・・・」
「なんだよその笑いは!・・・まぁ、とりあえず、お前らしい軽音楽部を作ってくれ」
そう言い終わると、前島、大西のところへ行き。
「今からぶためんを冷水で食べまーす!!」
二人のやっていたことを上回るくだらなさを見てまた笑ってしまった。
それを見ていたが、笠井はそっと、早見の袖を握る。なんというか・・・昔みたいに照れるようなことはなく普通にスキンシップ出来るようになった。
「なぁ、笠井。明日午前中暇か?」
「ええ、ライブは午後からですもんね」
「よかったら・・・一緒に回んない?」
「!・・・はい!お願いします!」
そう満面の笑みを浮かべた彼女に少しドキッとして目をそむけてしまったが、ちらっと見ると、しあわせそうな彼女を持てて幸せだと思った。
先輩の後を継いで新入部員は入るのだろうか・・・それで笠井の歌声を聞いて、ビビるのだろう・・・それで実は彼女ですーみたいな感じに・・・なるのか・・・いい!
そんな来年のことを考えてしまっているが、何はともあれ明日が本番だ。それで気持ちよく引継ぎをしよう。そう思い。隣の彼女の手を取ってバカ騒ぎしている仲間たちの中に加わった。




