二十九話 新たな相棒
楽しかった夏休みも終わってしまい、今日から二学期が始まった。今日は校長の長い話の始業式があるだけで終わった。そして、その後は部活だ。いつものように部室に向かっている。
「文化祭まであと少しでだな」
「頑張れよ、お前のギターが火を噴くぜ!」
「言ってる意味がわかんない」
そんななんてことない、いつも通りの会話でだらだらと部室に向かう。
「確かに文化祭は近いからな・・・そう言えば、笠井は初めてだよな」
「はい、少し緊張です」
「文化祭はスゲーぞ!!いろんな部活がだな、ヤバイんだ」
「去年はなにやってたんだ?クラスでもなんかやったろ?」
前島の語彙力のないざっくりした説明はおいておき、この高校ではクラスでなにか一個出店か出し物をしなければいけない。ちなみにうちはポップコーンだ。
「笠井は去年は俺らのライブを見てたのか?」
去年、文化祭はボーカルが高山でやったのを覚えている。笠井と比べると、月とすっぽんだな。
「私は・・・ずっと一人で教室の仕事してましたから見てないですね」
「そうか・・・まぁ、楽しいからな!!お前も思わずはしゃいでしまうさ」
と言っているうちに部室に着くと高山が先にギターのチューニングを開始していた。
「おっ来たか、早速練習するぞ」
各々楽器のセッティングとチューニングを済ませ、曲を合わせている途中で速見のベースの音に若干ゆがみを感じた。
「早見のベース・・・弦が錆びてないか?」
ギターを持っている大西がじろじろ見てくる。確かに、買えたばかりなのだが、錆が見え始めている。早すぎる気もするが、どこかで湿気にやられたか・・・
「変えた方が音の響きも良くなるからかえとけ」
「そうっすね。帰りに買います」
「いや、張り替えには時間もかかるから今日は早めにあがれ、笠井も確か楽器やに用があるんだよな?なら、二人で行けよ」
「わかりました。笠井、行こうぜ」
「はい!」
「お疲れさまでした」
二人が片付けて部室を後にした。
楽器屋に向かってる途中に笠井が話しかけてきた。
「文化祭までもう少しですね」
「ああ、文化祭・・・そういや、高山先輩は文化祭が終われば引退か、あの先輩がいなくなるって寂しいが仕方がないな」
「・・・・・・・・・」
少し暗い雰囲気になった。高山は三年生なのでこの文化祭がこの高校で行う最後の演奏となる。
「なら、絶対に成功させましょう!」
隣から、頼もしい言葉を聞いて元気が出た。
「ああ!頑張ろうな!」
そうこう話している間に目的地に到着。笠井は付くと同時にボーカルのコーナー方に向かっていった。
「(俺は弦を・・・!!)」
「あああああああぁぁぁぁあああぁっぁ!!!!!!」
「どっどうしたんですか!?」
流石に思い切り叫びすぎてしまい笠井もあわてた様子で走ってきたが、早見は一本のベースを指さして
「俺が欲しかった奴!!安い!七万!!」
「・・・はぁ、焦りました」
笠井もあきれた様子だが、興奮している彼を見ると少し可愛いとも思ってしまった。そして、早見は店員を呼び購入することに決めた。
「思ったんですがお金はあるんですか?」
「ああ!!・・・あ。」
そう言って財布を見るが、中は三万円。
「・・・そういや昨日プラステⅣ買ったんだった」
やりたいシリーズのゲームがそのハードで発売していたので衝動買いをしたのを思い出した。
「・・・はぁ、なんでよりによって昨日買っちゃったんだろうな・・・ほらこれホントは倍近くするんだぞ・・・多少傷ありだけど目立たないし・・・」
そんないじけてしまった早見をみて、自分の財布の中身を確認するがちょうど足りる金額だ。
「あ、あの!!」
「うん。待たせたな・・・ほら、ボーカルの教本買ってきなよ・・・こんな金銭の計画性のないアホは置いておいて・・・」
本気でいじけているので財布の中のお金を渡す。
「これで・・・足ります?」
「・・・・・・・マジ?」
「はい。どうぞ・・・」
そういって札を渡してくるが流石に気が引けるので返す。高校生ながらこの金額の貸し借りは重いだろう。
「いや、ダメだ!うん!ここで受け取ったら男が廃る」
「・・・・じゃあ」
そう言うと近くにあったATMでお金をおろし、店員を呼ぶ。
「これください」
「・・・はぁ?」
なぜか笠井が早見の欲しがっているベースを購入し、お金を払いそれを早見に渡す。
「ど、どうぞ。プレゼントです」
「・・・いいのか?」
そう言って彼女が買ってくれたベースを受け取ろうとするがためらってしまう。だが、当たり前といえば当たり前だ。急に自分の特別な日でもないのになぜこんなことをしてくれたのか・・・なので簡単には受け取れなかった。
「じゃあ、ちゃんと金を準備して払う・・・だから預かっておいてくれないか?」
そう提案して、受け取ろうとしたベースを預けることにした。正直取り置き状態してくれただけ十分うれしい。