二十話 短い時間
今日は本当は奈央と映画に行く予定だったんだが、約束を立てられなく今日も部活だ。連絡先を交換し、明日の予定を送ったが、帰ってきたのは別の人からの返信。
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明日は屋敷に閉じ込める。映画は無しだ。
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その画面を見ながらギターのチューニングを行うが全然集中できていない。先ほどから音が全然あっていない。
「成宮の許嫁とは・・」
今まで成宮がやってきたことは卑劣だ。弱みに付けこみ、笠井からは金を脅し取り、学校の権力を使って自分勝手だ。
「ならあれだな、結婚式の時に花嫁を奪う」
「そんなドラマみたいな・・・」
冗談か本気なのか高山が言うからわからない。
すると・・・
「大西はいるか!!」
勢いがよく扉を開けて現れたのは。
「・・・確か桐生」
奈央の執事の桐生と昨日名乗っていた男性だ。
「うぉー!めっちゃイケメン!!ま、俺ほどじゃないが」
そう言ってなぜか前島がナルシスト風に姿を現すが。
「何を言っている。僕の方がイケメンだ!!」
この人も若干ずれてるようだ。
「んで?何のようだ?」
「実はだな・・・旦那様が・・・」
このイケメンが言うにはこう言うことだ。奈央が気になる男性を見てみたい。なので、連れてきてくれ。とのことだ。
「はぁ?こんなメール寄越しておきながらなんで親父さんに・・・」
「あいつだ」
大西の意見はそっちのけで桐生が大西を指差しぞろぞろと肌が焼けているゴツいサングラスを掛けた男が数人、大西を連れ去る。
「・・・さらわれた?」
「帰ってくるだろ?流石にこんな目撃者居るんだし」
心配か冗談かは知らないが部活を始めることにした。
大西は外に止められた車に乗せられ、後部座席の真ん中に座らされその左右に屈強のボディガードによる圧迫が怖い。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「奈央は何を言ったんだ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
こんな言葉のない会話は無意味なのだと悟り、何かが起こるまで大西も言葉を発しなかった。そして、数十分後に目的地に到着した。
「着いたぞ」
車から降りると、目の前には大豪邸だ。いかにも金持ちが住んでいそうな大きな家だ。その場でボディガードたちは車を片づけに行き、桐生と二人きりになって屋敷のほうへ向かう。
「ついてきたまえ」
「なぁ、イケメン」
「なんだ?」
「奈央は何か言ったのか?」
「・・・君と約束をしていた映画に行きたいと言ったらこうなった」
言いにくそうにそう伝えると、お屋敷の扉が開く。
中は圧巻、シャンデリア、シカの首、高そうな骨董品が並べられ、大量の使用人。絵にかいたようなお屋敷が広がっている。
「・・・こっちだ。案内する」
やたら長い廊下。同じ景色が何度も続くが目的の部屋まではまだ距離があるようだ。
「なぁ、それで俺は何をされるんだ?」
「・・・君はお嬢様ととても親しく見えるが、いつ頃からだ?」
「昨日初めて話した」
「・・・そうなのか」
「何か言いたいことでも?」
「普段からおとなしくてわがままをあまり言わないお方です。それが昨日はすごい駄々をこねました・・・その時、私は初めてお嬢様という人間を見た気がします」
急にそんなことを言いだすかと思えば、よくわからない。ただ、何かを伝えたかったようだ。
「ここが旦那様の部屋だ。くれぐれも失礼の無いように」
そうい射て気流がノックをすると中から入れと声がした。気流に扉を開けてもらい、そのまま中に入る。
「君が大西くんか・・・」
机越しにしっかりとスーツを着こなし、分厚い資料を持つ渋い紳士のような男性。奈央の父だ。
「単刀直入に聞こう・・・奈央に関わらないでくれ」
「嫌です。って言ったらどうします?」
そういじらしく答えるとヤレヤレと言った表情をし、アタッシュケースを机の下から取り出す。
「一千万円だ」
無造作にパカッと開けられたケースから何枚かパラパラと万札が落ちる。目線を少しそちらへやってしまうが、受け取りはしない。
「不満か?」
「受け取ったら男が下がる気がするんで・・・」
そう言うと奈央の父はアタッシュケースをしまう。
「そうか・・・だが、奈央には将来、成宮家の者と結婚をし我が社を援助を貰わなければならない。だから会社を救うためだ」
「つまり、娘は会社のための生け贄ってことか?」
「それが会社というものだ・・・君のように男が下がるなどの理由で大金をもらうチャンスを逃すことなどしない」
「でも、奈央の意思はそこにない。彼女にも夢や自由を与えるべきだ」
そう。彼は親だ。こんな高校生一人で何かできるわけでもない。しかしここで退きたくない。
「そうか。では聞こうか、奈央の有効活用法を」
拳を強く握りしめる。
「・・・そうじゃねぇよ」
「ん?」
「会社の道具にじゃねぇよ!!」
許さない!!娘を物のように扱うその態度。有効活用じゃない!あいつの人生をなんで知ってやれないんだ?
「ふざけんなよ!!何なんだよ!!お前は!!奈央の人生勝手に決めて!!」
「若いな。君は」
大西の怒りなど感じないかのように冷静に話し続ける。
「奈央が認めた人間というものがどんなものかと思えば・・・」
呆れた表情で指をパチンとならすと黒服が大西を掴み、部屋から引きずり出そうとする。
「離せ!まだ話は・・・」
必死に抵抗するがビクともしない。正直みっともないが、まだ、話は終わらせたくない。
「離しなさい!。私の客人に無礼よ」
そう言って車いすを引きずってきたのは小林奈央だった。
「奈央!!」
「バカ娘め!!部屋を出るなと言っただろう!!」
「えっ?」
何やら、奈央のなかでは話が違うみたいだ。
「私です。私が許可しました」
そう言って彼女の陰に隠れていたが桐生が前に出る。
「扉越しに聞いてました。あなたにとってのお嬢様を初めて知りました。私の主はお嬢様です。お嬢様のこともお考えに・・・」
「お前はクビだ。そして、客人はつまみ出せ。奈央は部屋に戻れ」
「お父様・・・最後に彼と話をさせてください」
「・・・少しだけだ」
その提案を受け入れてくれてくれたが、奈央は最後と言った。本当にこれで最後なのだろうか・・・
桐生に部屋を案内されお嬢様の部屋つく。その部屋はとても丁寧で、車いすである彼女に取って動きやすいようなバリヤフリーが多く備われている。
「はぁ・・・先輩。バカですか?あ、バカでしたね」
さっきとは違い、大西にとってはいつも通りの奈央。
「・・・なんだよ」
「できました」
その中には手紙と、ノートが五冊あった。
「ああ。小説・・・」
そう言ってそれを受け取ると彼女は満足した表情で渡す。
「・・・ありがとうございました」
そう言った瞬間。扉が開く。
「時間だ」
非情にも一分程度で終わってしまう。もっと話したいと思っていた。
「さぁ、成宮様とお食事でございます。」
「はい。では、先輩は丁重に・・・車で送りなさい。」
そして、別々の車に乗せられる。奈央の高級車に対して、大西は普通の車。
「乗れ」
どうやらその車は桐生の私物らしい。先ほどそういえばクビ宣告をされていた。
「はぁ・・・」
そしてさらわれた学校へ行く途中にもらったノートの中身を見てみるとはらりと一つの紙が落ちた。
「・・・手紙?」
短い間でしたが、あなたに会えて本当に良かったです。でも、あなたにはもう会うことができません。父に言われてしまい。たぶん・・・外に出れません。
文化祭は見に行きます!!かっこいいライブを楽しみにしています。
「たくっ・・・あいつ・・・」
悲しいがうれしい。複雑な気持ちだ。あいつ・・・俺のこと好きだったのかな?俺は・・・
「好きだったぞ」
短時間だったが楽しかった。彼女は流れ星のように現れ、消えた。少なくとも、次の来る日は決まっている。そのときに言ってやるんだ。




