十五話 準備
昨日夜に帰ってからは何も考えたくなくなってすぐさま寝てしまった。あと片付けを花に任せてしまって本当に申し訳ないと思っている。朝の支度をすべて終え、いつものように学校へ向かった。
いつも通りの学校生活。
「見てください!!春香の紙は貼られませんでした!!」
笠井が歩み寄る、そして嬉しそうに話してくる、桜井とは完全に和解したのだと確信はするが、今は正直彼女とは話したくない。
「そうだな・・・」
適当に返事を返し教室を出ていった。
「・・・どうした?笠井?」
後ろから大西と前島が話しかけてくる。
「いえ、元気ないなと・・・」
「なんかやったのか?」
早見は教室には居づらい思ったので廊下に出ている。今は知り合いに誰も会いたくない気分だった。昨日の話が衝撃的過ぎたのもあるし。自分は笠井玲奈のためになぜこんなことをしているのかもよくわからなくなっていた。
「おはよう」
「おはよう。早見君」
桜井と高木が二人並んで歩いている。なんて仲睦まじい。いつの間に二人で歩くようになったのだろう。
「よぉ・・・高木、ちょっといいか?」
「・・・かまわないよ」
「桜井さんは教室に・・・何かあったら言うんだよ」
「わかりました」
そう桜井に告げると2人は屋上に向かった。
「で、話とはなんだい?」
「紙はお前がどうにかしたのか?」
「ああ。さすがにあれが続くようじゃ、彼女もかわいそうだ」
やはり、あの状況。教師ですらどうしようもなかった状況を何とかできるのなら。桜井の知り合いの中で高木しかいないだろうと思っていた。
「お前は・・・何で桜井にあんなに尽くしてやれるんだ?」
高木はなぜそんなことをするのだろう。周りから一人外れた行動を取っている。そんなことは自分がその対象になっていることもある。なぜそんな面倒なことに首を突っ込むのか・・・
「簡単だ、大事だから。君も笠井玲奈が大事だろ?」
「俺は・・・わからない」
こんなにすんなり大事と答える彼に対して自分はこんなにも悩んでしまっている。正直情けない。そもそも自分が原因なのに
「・・・何かあったのかい?」
「ああ・・・実は・・・」
早見は昨晩のこと、嘘告白でズルズル付き合っていること、永岡堅太と笠井と桜井の話が噛み合わないこと。
「なるほど・・・君はどうしたいんだ?」
「なんだよ・・・」
「僕は守ってやりたいから険しい道を選んだ、そして・・・幸せにしてやりたい」
「なんだよ・・・好きなのか?」
「好きだ」
「はっ?」
「彼女を守ってやりたい、助けてやりたい、支えたい・・・こんなことを考えてると・・・いつの間にか好きになっていたんだ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「君の話しによると、茨木洋平の娘ではないのだろう」
「ああ・・・」
「君は・・・笠井玲奈をどう思っている?」
「あいつに嘘告白した日からは・・・嫌だった・・・付きまとわれて・・・冷やかしがあって・・・それで・・・優しいやつだって知って・・・楽しくて・・・辛い過去を持っていたんだ・・・
「嘘1つでいろいろあるんだよ、覚えときな。でも君ももう・・・」
「ああ」
彼の決意と覚悟を付きつけられて思った。とりあえず、自分は今まで通りで行こう。それからでも遅くはない。でも今はいつも通りの自分でいることに決めた。そう決心して教室に戻ることにした。
「桜井さん今日は新聞貼られてないね」
「どうせ、なにか悪いことしたんだろ!!」
「してない・・・してません!!」
教室に戻ると、桜井の机周りで囲うように追い詰めている状態だった。だが、前回とは違い桜井も反論している。だが、このまま見過ごすわけにもいかない。
「犯罪者の娘が何を言って!!」
「(助けて・・・高木くん・・・)」
「そこまでだ!!」
なんかカッコいいBGMが流れる。これは確か聞いたことある。
「なっ・・・誰だ!?」
教室に入ってきたのは!?
「愛と正義のヒーロー・・・」
入ってきたのはラジカセを持った赤の全身タイツにマント・・・は?
「ばとりゅレンジャーだ!!!!」
バトルレンジャーと言いたかったのか、噛んだみたいだ。だが、バトルレンジャーといえば、幼少期に流行った特撮ヒーロー・・・がなぜいる?
「すまん、もう一回・・・」
全身赤タイツのヒーローマスクマンは教室の外に・・・
「そこまでだ!!」
「またそこからか!?」
BGMがながれ・・・
「愛と正義のヒーロー・・・」
「バトルレンジャーだ!!」
今度はうまくいったみたいだ・・・一回噛んだけど・・・
「なんだよお前は!?」
「・・・・・・またやるの?」
三回目しかも自分はミスしてないのにとぶつぶつ文句を言いながらダラダラと教室を出ようとした。
「やらんでいい!!」
「あ、おっけー?ま、こんなことしても意味ないでしょ?」
こんなこととは桜井のいじめのことだろう。なぜコスプレ返信ヒーローが止めに来たのかはさておき・・・
「だって、犯罪者の娘だぜ!!」
「娘ってだけだ、本人はなにもしてない・・・それに・・・」
そう言って、バトルレンジャーはポケットからあるものを取り出す。写真のようだ。
「これ・・・どうする?」
その写真内容は見えなかったが、その写真を見た瞬間その突っかかっていたせいとは青ざめた表情をし、写真を取り上げる。
「ッチ」
舌打ちをし、その集団は教室を出て行った。ヒーローの格好なのにやっていることは正直陰湿だ。
「はい。これをどうぞ」
バトルレンジャーが桜井に一通の手紙を渡し
「じゃあね」
普通に挨拶をしてバトルレンジャーは出ていった。廊下で騒がれているがその後彼を見たものはいなかった。
「ふぅ、これでいいか」
「ご苦労長谷川。ありがとう協力してくれて・・・」
「全く、収まってくれれば良いけど・・・この写真とかってどうしたんだよ?高木」
「・・・いろいろ」
「どうしたんだよ?」
聞けば部室に行き三人でしゃべっていた大西、前島、笠井が近づいてきた。
「実は・・・ヒーローが現れたんだよ?」
「何で疑問形なんだよ?」
「いや・・・うん」
愛と正義と若干陰湿ヒーローバトルレンジャーは学校でかなりの有名人になった。
陰湿ヒーローのおかげで桜井の話がピタッと無くなったり、平和で今日の学校を終えて、放課後になり、部活の時間になった。そして、高山が重大発表があるとか何とかでとりあえず楽器の基礎練習をしながら話すことにした。
「ヒーローさんねー。渡したのは誰なんだか?」
「桜井、差出人とかは書いてないのか?」
そう、どちらかというと今話題なのはこのバトルレンジャーについてだ。誰がこの正体なのかという話題になっている。
「ごめんな、何かあったら助けに行くぜ!!byバトルレンジャーとしか・・・」
紙には正直あまりきれいではない字でそう書かれているだけで差出人はバトルレンジャーとなっている。
「そーか・・・高木は心当たりは?」
「さぁね」
本当は知っているんだけど・・・言わなくていいか。
「にしても、今どきヒーローってのもねぇ〜」
ガララッ
「ウィッス!出来たぞ!」
扉を開ける束の紙を見せびらかすようにおきそれを覗きこむ。
「まさか・・・」
「ああ!!完成だ!!オリジナル曲が!!」
「先輩!!」
「早!さすがっす!!」
「まぁ、見てくれ!!」
そう言って惜しげもなく見せ、それぞれのパートと、全体のスコアも一応渡しておく。
「うっわ、作詞もしてるんすか?」
君に会えたこと・・・感謝してる・・・私は変われた・・・ふさぎこむ・・・私に手を差しのべた・・・
歌詞を述べてみる。クサイがいい感じな気がする。
「Thank you・・・our・・・story」
悲しいような、嬉しいような・・・複雑だ・・・
「正直早見笠井をイメージした」
「えっ?」
「何かは知らないが笠井は早見といるときは非常に生き生きしてて、なんか救われたよう感じがしたからな・・・あと・・・正直色々聞いてはいる」
「色々?」
高山のいう色々とはどこまで知っているのか。成宮に金を渡していたことか、永岡賢太の娘だったことか・・・どちらにしろそんな情報が知られているのはまずい。
「まぁ、それはいろいろだ。乙女の秘密ってやつ・・・あ」
高山は何かを思い出したかのようにポケットの中にあるものに気づく。
「そーだ・・・お前らってデートするだろ?」
「え!?な、何いってんすか?」
急な会話の変化に驚いてしまったが、彼は気にせず、ポケットからあるものを取り出す。
「いや、映画のペアチケットが福引で当たっちまって、有効期限は明日までだから2人で映画でもどうだ?」
そういって渡されたのは近所の映画館のペアチケット。確かに有効期限は明日までだ。放課後は部活のはずだが、休んでもいいらしい。
「映画か・・・」
そう呟き、笠井を見てみる。
じーーーーー
行きたいと言わんばかりの目をしている。
「行くか?」
「はい!!」
「というわけで明日は休みな」
今日は合わせることなく各々が、配られた曲を個人練習で行う・・・のだが。
「この連弾無理過ぎんだろ!!」
「うっわ、スライド苦手なんだよな・・・」
「タンタタンタタンタン・・・」
「この部分の・・・声が潰れちゃう・・・」
storyは結構難関な曲になってしまった。
「玲奈!!一緒に帰ろう」
「いいよ!」
笠井と桜井は一緒に帰るようになり、仲睦まじい様子だ。前まで二人で帰っていたのに最近ではいつも通り男たちで帰るようになった。
女子たちは先に帰り、高山先輩は原付で先に帰宅。三人もいつも通り帰ろうとしてるが大西と前島が急に何か始めた。
「ショートコント。明日デートだから服を決めよう」
「ハヤミがデートデスッテ!!」
「ソーデスネ。オオニシクン。」
「フクヲエランデアゲヨウ!!」
「ソーシヨー」
先に落ちを言ってしまうタイトルだったことは置いておいて、相変わらず下手糞だ。さらに
前島に右手をロック
大西に左手をロック
「「勝負服買うぜゴラァァァ!!」」
そのまま引きずられて
「「とーーーーー・・・ゲホッ、ゲホッ・・・」」
「「ちゃく!!」」
「ちゃんと息の残量確認してからにしろよ」
駅から近い服屋に到着。このお店は老若男女すべての世代や趣味を持った服が何でもそろう。服のジャンルだったら何でもそろう。
「さて・・・何を買うか?」
「そこは俺らに任せろ!!」
二人はそう言ってかごを持ち店を一周したら籠にはパンパンに服が詰まっている。早見はそのまま更衣室に選んだ服と一緒に投げ込まれる。
「さぁ!!その服と言えば!!」
カーテンを開けると・・・
「お帰り下さいませ、クソヤローども」
すごい不機嫌になりながらもニーソまではいている。服はすごい可愛らしいのだが、素材があれなので正直キモイ。
「うまい感じに帰れって言われた」
「何だよ!!この服は!?」
「メイドだ」
「男!!」
「何故着た?」
「お前らが持ってきたからだろ!!」
「次はこれな」
お構いなしに次の衣装を私更衣室に入れる。ついでに制服も盗んだ。
「さぁさぁ早見さん!!これと言えば!!」
カーテンを開くとなぜかポーズを取っており、
「みんなで一緒に1〜5まで数えてみよう!!」
「い〜ち!!」
「に〜!!」
「さん〜!!」
「し〜!!」
「ごーーーーー!!ヌハハハハハハハ!!!!・・・はぁ」
ノリノリだったが、急に冷めた表情になり文句を言いだす。
「教育番組のあれか・・・数を数える度に隕石が飛んでくるあれか?全身黄色タイツって何だよ?」
「いやいや、あの人はそれでTVに出てるんだから。それといい感じだし」
「次はこれな!!」
また放り込まれた。
「今度は何だよ・・・お」
カーテンを開けると・・・
「どうだ?」
「けっこうお洒落だろ?」
「ああ、まともだ」
白Tシャツに紺ベスト、そしてジーンズ・・・まともだ。
「それを着て明日は頑張れよ!!」
「「じゃあな!!」」
二人で封筒を渡し、速足で店を出て行った。封筒の中身を確認してみるとお金と手紙だった。
「明日のデートがんばれよ」
「勝負服だぜ!!おごっちゃる」
おそらくその場で書いたのだろうが、正直嬉しい。良い友達を持ったのだと自覚する、ありがたくそのお金で支払いをし、選んでくれた服を買った。そして、明日の放課後に上映している映画の時間帯などを確認している。無意識でこんなことをしているということは早見も楽しみなのだろう。そんなことを考えているとちょうど笠井からのメールが来た。
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明日は楽しみです
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メールは文だけでは伝わらないが楽しみにしてくれているようだ。
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ああ、明日はよろしく
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そう返信した。
「デート・・・」
呟くだけで恥ずかしくなってきた。そんなことを思いをながら眠りについた。




