十三話 その頃…
歓迎会を早めに抜けた高木は、学校の前にいた。
「さて・・・アイツのところに行くか・・・」
高木は学校に入り、ある場所に向かう。それは職員室の隣の教室。印刷室だ。大量の髪束とバカでかいコピー機の奥には一人の男性の姿。
「やぁ・・・成宮君、印刷とはご苦労様・・・それは何の紙かな?」
「犯罪者の娘がうちの学校に来たんだよ〜だから、みんなに知らせないとね~・・・それより、なんでわかった?」
にやけながら印刷していてまるで楽しいことが始まるかのように笑っている。
「一応探偵を目指しているのでね自分の足で見つけた」
やはり、聞いた通りだった。前回のものも同じ時間に生徒がこの部屋を借りるという情報があった。それがビンゴだ。
「だけど、昨日はどっかの誰かのせいでゴミになったんだよね〜」
トントンっと綺麗に整え紙袋に詰めると高木を睨みつける。
「さて・・・どう落とし前つけてくれるのかな?」
「さぁね、とりあえず言わせてもらうよ、紙をばらまくのはやめろ」
高木が歓迎会を抜けてきてまでの用事とはこれのことだ。学校新聞の出来事を再発させないために根源を叩く。
「嫌だね、こんな楽しいことを黙って見てるだけってのももったいないじゃん」
「そうだな・・・やられている本人は・・・どれだけ傷ついてるかわかってるのか!?」
彼女とはもう友達だ。だから、友達がこんなことになっている状況を見過ごすわけにはいかない。
「わかるわけないじゃん。楽しいことにはノッておいたほうがいいよ~」
「君は・・・」
そういって彼を見下すようにこういった。
「昔からそうだったね。あの子の時も・・・」
言い放ったとき、成宮の表情が急変し余裕がなくなったのか、怒りをあらわにした。
「貴様・・・この俺にたてつこうとはいい度胸してるなぁ!!」
急変した彼とは裏に高木は冷静を保っているように見せているが拳を握りしめ怒りを表には出さないようにしいる。
「別に・・・君の相手はスムーズにいかないから疲れる」
「格好つけやがって・・・まぁ、僕がこの学校にいられなくすることは可能なんだけどね~」
調子を戻したのか口調が戻る。
「そんなことはどうでもいい。今すぐ、紙を渡せ」
「じゃあ力ずくで奪いなよ。ま、僕に手をあげるってことは・・・」
「言ったね」
バキィ!!!
成宮が言い終わる前に高木が先に手を出してしまった。顔面にグーパンチをくらい、フラフラと紙束の中に埋もれる。
「や、やりやがったな!!」
今度は蹴りをいれ・・・
「聞こえなかったか?紙を渡せ」
「この野郎・・・退学に・・・」
また顔面を殴る。
「言ってる意味がわかるか?紙を渡せ」
倒れている成宮を上から見下すように睨む。
「貴様は退学決定だ!!僕をこんなにして、ただで済むと思うなよ!!」
「覚悟の上だ・・・だが、この行為は録画済みだ。会話内容。そして僕が暴力を振るったこともね」
今の高木には恐れはなかったみたいだ。それは前々から仕掛けていた小型カメラにバッチリ映像が残っている。それを回収し、渡してしまえば道連れにはできる。この件は問題にもなっていた。理事長息子でも教育委員会にこのことが知れ渡ればただ事ではない。
「これが教育委員会に知れ渡れば理事長の立場も危うくなってくる。君のせいでお父さんが潰れるよ」
「・・・くれてやる」
観念した成宮は立ち上がり印刷室を出ていった。
「早見といい、あいつといい・・・面倒だな」
などと愚痴をこぼしながら去っていった。
「ひとまずは、これでいいか」
紙の束はその辺にあった紙袋にいれ、家にあるシュレッダーにかけることにした。
「(さて・・・桜井さんは紙の件は解決したが・・・問題は周りだな)」
紙をばらまかれた日、周りは桜井の印象が悪く写っているだろう。
「何か思い付いたらにしよう・・・それまでは僕が見守ろう」
翌日学校ではまたなにをされるかわからない。また、彼女の印象は最悪と言ってもいい。友達はもう軽音楽部のメンバーがいるので協力を要請しようかとも考えた。
「よっ、高木」
「長谷川か・・・」
泥だらけのユニフォームを見ると野球部は練習のようだ。休日なのにご苦労なことだ。
「なんだ?その紙の束は?」
「あまり良いものではないよ」
紙袋から紙を見せる。そして、前ほどの出来事を話す。
「なるほどな・・・これをばらまいたのは成宮か・・・」
「ああ、紙の方は解決したが、周りがどう思うかだな」
「確かにな。学校に来るかな?」
「来ると思うよ、友達も出来たみたいだし」
「・・・あの状況でか?」
確かに、あれほどのことをされて友達が出来るものかと思う。
「ま、君も謝りなよ。彼女が君の妹について何も知らないんだから」
そう。茨木洋平は長谷川の妹をさらったのかはわかってはいないが、ちょうどその時期に誘拐された。疑われてもおかしくはないが桜井春香は身内というだけで知らない。それに対し強引に問いただそうとしていた。
「それは・・・悪かった」
「あと、君の力を借りるかもしれない。その時は協力してくれ」
「ああ!何でも来い!」
そう言うと休憩時間が終わったのか、長谷川はまた野球部の練習に戻っていった。
「(これでちょっとは落ち着いてくれればいいけど・・・)」
そんなことを考えながら家に帰った。