一話 バツゲーム
とある6月の昼休みの教室・・・いつメンである3人の男子高校生はあることをかけてゲームをやっており、それは負けたものが何でも言うことを聞くというありがちなもの。賭けの舞台はレースゲームで甲羅をぶつけたり、キノコでスピードアップの大人気ゲーム。そして、勝敗がついたようだ。
「はい、早見。バツゲーム決定」
この男は大西哲也。軽音楽部に入っているギター担当。冷静な面を持つこの三人組のまとめ役でクールな奴。クラスの皆はクールで物静かと言うイメージを持っていおり、女子人気も高い。しかし、このメンツでは盛り上がることは好きらしくノリもいい。
「空中で赤甲羅使いやがって・・・前回は、あれか、お前金髪にしたんだっけ?」
早見雄也同じく軽音楽部。そこでベースをやっている。責任感も強く男気もある生徒、二人からは良くいじられている。
「あーあー、高二の夏で金髪とか遅すぎ高校デビューさせたんだよ。んで罰ゲームはコクれよ。あのいじめられっ子に」
前島正平、同じく軽音楽部。ドラムをやっている。この中で一番の盛り上げ上手、やかましい時もあるが、それを含めて良い性格だと思う。
「あいつ・・・」
あいつとは「笠井玲奈」の事である。一般的に見て、彼女は顔もそこそこ可愛いし成績も悪くないが実はそれなりの原因があるのだろうか、嫌われている理由は早見たちはわからなかった。確かに引っ込み思案っぽいし不思議な感じはするし、闇のオーラ纏ってるんじゃないかってくらい根暗だ。いじめに関して女子のそういうことはえげつないとは聞いているし、男子にはばれないように水面下で行うらしいので、詳しくは知らない。
「・・・接点ないぞ」
その発案に早見は目を泳がせる。笠井玲奈とは話したこともないしつかみどころがない。いつも教室でボーっとしてればたまに涙を浮かべたりと謎が多い。早見にとって悪い印象があるわけではないが、近づきがたいというよりも、関心がない。
「罰ゲームだろ?それに嘘とか言っていいしさ」
大西がさっき言ったことを思い出させた。確かにそう約束をしてしまったものはしょうがないし、嘘告白だ。俺たちの青春のために少し手伝ってもらうことにした。
「わかったよ・・・たくっ・・・」
早見は腹を決めて実行することにした。というかせざる負えない状況にするように二人に追い込まれた。彼女は毎回昼休みになると屋上にいる。なので、早見と監視役として2人も付いてきた。そして、屋上に着くとターゲットである笠井玲奈を見つけた。彼女はベンチに座って一人でお弁当を食べていた。やはり友達がいないのか、少し寂しそうな表情が浮かんでいた。その雰囲気に魅了しかけたが早見は笠井に近付き、笠井玲奈も何かあるのかと手を止める。そして早見は彼女ストレートにためもなしに雰囲気なんてぶち壊してやるかのように言い放つ。
「あんたが好きだ!付き合ってくれ!!」
「・・・え?」
当たり前だが驚いていた。いや、こんなこといきなり言われたら誰だって驚く。その時の笠井の表情は今まで見たことなかった。変な生き物でも見たかのような表情だ。そしてその告白をした本人その後のことを何も考えていなかったので、話題を探そうと彼女の身につけているものや、今食べているお弁当などに目を泳がせたりするが、会話が思い浮かばないのでひとまずこの場から切り抜ける方法を考えた結果、さっさと終わらせることを選んだ。
「いつの間にか好きになってました」
正直、答えにもなっていないのだが、これで押し通すことにした。最初あれだけ叫んだのに急に冷静になり適当になる。情緒不安定と自称しながら、同時に人生初告白を心のなかで後悔をしていた。というか考えてみれば人として最低なことをしているので、今更ながら罪悪感がある。
「はい・・・その、私でよければ・・・お願いします」
「えー、はい・・・え?マジで?」
まさか成功するなんて思ってなかった。その状況に焦っている間に彼女はポケットから薄い桃色の女の子らしい携帯電話を取り出した。
「アドレス・・・いいですか?」
「いやその・・・わかった」
嘘でした。と言おうともしたのだが、早見は嘘なんて言えなかった。なんというか、嬉しそうだったから?と言うよりはここで嘘って言ってしまってはなんかタイミングがダメな気がした。
「嬉しいです!」
笠井玲奈は恥ずかしながらも、満面の笑みをこっちに向けている。恋した乙女ってこんなに可愛らしく笑うものなのか、不本意だがドキッとしてしまった。彼女と言うフィルターを通すとこんなに可愛くなる移るものだと誰かが言っていたことを思い出した。
「では・・・」
そういって彼女は屋上から逃げるように離れた。それを追いかけるわけでもなく、とりあえず早見も教室に戻ることにした。そしたらまぁ、やかましい大西と前島が待ち構えてたように並んで立っていた。
「ショートコント。告白」
前島の掛け声でたぶん冷やかしであろうコントが始まった。前島は膝間付き大西は直立。
「いつの間にかー!!しゅきにー!!」
「「なってたー!!」」
「・・・スベって近所迷惑だぞ」
そんな即興コントを見せられ文句を言いながら教室に戻った。
そんな感じで人生初告白が成功してしまった。嘘であることをどのタイミングで言おうか迷う。正直めんどくささすら感じてしまうが、とりあえず、少し遊んでみようという気にはなった。
しかし、昼休み終了後からはそのに笠井玲奈から話しかけることなどなく大西と前島にずっと茶化されながら過ごし、放課後。つまり部活の時間になっていた。そして二人はまだそのことを言ってくる。
「あ、彼女持ち。そこのエフェクター取ってくれ」
「あっはははー!嘘って言って良いったのに、マジでお付き合いするとはな!・・・お前実は狙ってたんじゃねーの!」
「いい加減にしろよな」
早見は自分のベースをアンプにつなぎながら静かにキレていた。そうやって三人でだべっているとびしゃっと大きな音を立てて扉が開いた。
「おい、お前らの笑い声廊下中に響いてるぞ!」
彼の名は高山堅太。軽音楽部唯一の三年生で部長、大西と同じでギターをやっている。学校では知らない人はいないであろう人気者で、教師生徒から好かれている完璧超人だ。
「いや先輩。聞いてくださいよ、早見が年齢イコール彼女無しを卒業しました」
大西は早々の高山を手招きし、ひそひそと話している。たぶん先ほどのことを言っているのだろう。早見はそれを無視して無言でチューニングをするが、それはそっちのけで会話を聞こうとしていた。
「へぇ、よかったじゃん・・・あ、それよりお前ら、今日は文化祭の曲決めとパート決めるからな」
九月ごろに行われる文化祭で軽音楽部はステージでの演奏があり、それらの配役は曲を決める必要があった。今は七月なので約二か月の期間。ギター、リードギター、ベース、ドラムはそろっているし、他の楽器を使う場合は音の打ち込みで何とかなるがこの軽音楽部では問題があった。
「今年のボーカルはどうしますか?」
「・・・作戦会議だ!!」
そういって高山は素早くセッティングして、ホワイトボードに「今年の文化祭のボーカル誰にしますか?選手権!!」とびっしり書かれていた。
「とりあえず、前回のカラオケを行ったときの最高得点の保持者は挙手!!」
「はい。前島、七十二点です」
自己申告で前島がスクっと立ち上がり発言する。
「ビミョーだな・・・」
「早見!お前は五十もいってなかったろ!」
確かに、早見の歌は非常にひどかった。腹式呼吸もせずに地声で・・・一回コーラスをやらせたこともあったが、本気で合わなかったことを思い出した。
「前島か・・・七十二点をステージで聞かせられないし、そもそも、ドラムを外すわけにもいかん・・・歌がうまい知り合いとかいるか?」
「いないですね」
少し考えたようだが、カラオケを行くメンツなどこの三人以外ではないので三人は同時に横に首を振った。
「まぁ、しょうがない・・・見つからなかったら、ギターの俺か大西でやるか、とは言ったものの俺らも普通だしな・・・とりあえず、ボーカルは後でいいや、練習始めるぞ」
そう、この軽音楽部は個々のセンスはよく音を合わせることも非常にうまい。だが、ボーカルという要がいないのだ。特に今ある楽譜はないので各々の個人練習が今日の練習内容だ。そして、部活終了のチャイムが鳴ったので片づけを始める。
「ふぅ・・・譜面決めねーとやること地味なんだよな」
「はぁー疲れた・・・」
早見が呟くと忘れていたことを思い出されることを後ろから耳打ちされる。
「早見・・・お前、女出来たんだっけ?」
先ほどの内緒話の時に大西に言われたのだろう。それをたった今確認された。
「ああ、それっすか実は・・・「俺が女の子に告白をしたんです!!」
大西の台詞を消すように言う。そういえば、高山先輩は女を傷つけることに対して異様な信念があったことに気がついた。
「お前からか!大切にしてやれよ。女に嘘なんかついてみろ〜その子だけじゃなくて俺も制裁を加えてやるからな」
「はい!!嘘などもちろんつきませんとも!!」
この人は察しがいいのか悪いのかわからないが適切に今気にしていることを言ってくる。そして背中を思いっきり叩かれて前のめりに倒れ、うつ伏せになって言った後、早見は深い溜め息をついた。
部活動を終えるチャイムが鳴るころに軽音楽部はもう解散していて、高山先輩は原付バイクで先に帰っていった。大西も今日はギターを置いて行って早見のベースは今日持ち帰るようだ。そして、早見、大西、前島は駅まで変える方向が同じなので一緒に帰ろうと下駄箱で履き替えていた
「早見。お前自分の首絞めに行ってない?」
「もうわかんねぇ・・・」
早見はうんざりとした感じで上履きをはきかえている。とりあえず彼女・・・笠井玲奈について考えようとしたとき思った。
「ふと、思ったんだけど・・・笠井さんは何でいじめられてるんだ?」
「そういや・・・何でだ?ま、首突っ込むなんて善人行為はしないけどな、流れ弾は勘弁」
「なんか、一部から嫌われてて、そこから膨大にって感じ。俺、笠井さんと何て話したことないし休み時間は屋上とかで基本一人だし、わかんねーな」
三人合わせれば文殊の知恵ともいうがこのバカ三人が考えていても無駄だった。そして三人で頭を抱えていて校門を出たとき。人の気配を感じた。
「早見くん・・・お疲れ様です」
先ほどの悩みの種。笠井玲奈だ。ぼそぼそと言ってなんとか聞き取れるが、もう少しボリュームをあげて欲しい。
「(え!?なんでいんの?)」
そう思う早見は大西と前島にアイコンタクトで助けを求めるように言う。それに先ほどの会話が聞かれているかも心配になっていた。
「(これ、どうにかして!)」
「(二人で、帰らせるか)」
アイコンタクトは大失敗でお互いに親指をグッと立てるが、残念ながら意思疎通出来ていないが、大西と前島は子芝居を始めた。
「二人の邪魔をしないように、俺らは先に帰ろうぜー」
「了解です!大西大佐!」
二人は素早く早見から逃げるように去っていった。その時に振り向きざまの顔に腹が立つ。追おうとするがあの二人の足は異様に早く早見はベースを持っているので追いつけないと察し、諦めた。
「仲良いんですね」
「まぁ・・・な・・・」
早見はひきつった笑顔を返し、とりあえず、歩き出すと彼女もトコトコと後ろからついてくるように歩いてきた。少し沈黙の時間が続くが、早見から質問をすることにした。
「そういや、帰る方向とか合ってるのか?」
「たぶん、駅までは一緒だと思います。何度か、駅のホームで見かけましたから」
「ふーん。部活は?」
「帰宅部です」
「今まで何してたの?」
「早見君を待ってました」
「へ?」
バカみたいな声をあげて少し気はずかしい。しかしながら、彼女の言葉に少しドキッとしてしまい若干距離を取り、一人でぶつぶつと考えは始めた。
「・・・四時間近く待ってたのか?」
「まぁ、その・・・帰ってもやることなかったですし・・・せっかくなので、一緒に帰ってみたいなーとか・・・」
単純にそういうことだろう。なんでそんな行動をしたのかがわからなかったが、本人の言葉通り恋人関係になったからなのだろう。それ以外の理由は見当たらない。
「どうかしました?」
「うわっ!!ビックリした・・・」
考え事をしているときに不意に笠井の顔が目の前に出てきて少し驚いた。
「あっ・・・すみません・・・」
彼女は申し訳無さそうにする。しかし、これに関して彼女は何も悪くないので詫びることにした。
「いや、謝んなくて良いさ、俺もすまん。それより、早く帰ろうぜ、腹も減ったし」
「はい!!」
そういって、ついてくるスタイルだった笠井は早見の横に並び歩き始めた。