第一話 世界政府本部にて①
世には様々な魔法がある。
魔法は神から与えられた「力」だ。
生活は魔法で一気に豊かになる。
当り前の話である。
もし、火の魔法を使える「力」があれば、料理用の火は魔法で発生させれば良い。
しかし、魔法が人々を豊かにするのはほんの一瞬であり、すぐに悪用され始める。
そんなのに3日もいらない。
次第に使い方は武器と化していき、それを裁く者が現れる。
その内、魔法と魔法がぶつかり始め、巨大すぎる力はやがて人を死へと追いやる。
さらに、10年もすれば戦争が起き、死体が山を作り、それはやがて憎しみへと変わる。
憎しみは新たな争いを生み、その争いはまた憎しみへと変わる。
そうしている内に人々は本来の魔法の存在意義を忘れ、暴走し、止め方も分らなくなり、やがて滅ぶ
その無残な光景に人々血の涙を流し、痛みを覚える。
そこでようやく魔法の本質に気づき、正す。
しかし、それすらも一瞬である。
やがて、人々は痛みを忘れるのだ。
あれだけの苦しみや悲しみ、痛みや憎しみを覚えたにも関わらず、また同じことを繰り返す。
そうしている内に痛みを覚えることを忘れる。
そうなっている頃にはもう地球上に生物はいない。
戦争をやめるなどということは戯言であり、戦争を止めることなど絶対に出来やしない。
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バタンと、ソラは本を閉じた。
「はぁ~」
とため息をつく。
本を目の前の机の上に置き、本と引き換えにコーヒーをとった。
ソラはとびきりの美貌の持ち主である。
輪郭はきれいに整い、鼻は少し高め、目の青色はサファイアを思い出させる。
口に一杯のコーヒーを含んだ。
窓から差し込む光が眩しいが、心地の良い風が当たるのでカーテンは閉めない。
と、そんな時にドアがトントンとなったのだから少しいらっとするのも無理はなかった。
「はぁ~」
と、溜息をついて、椅子から腰を上げる。
トントン、トントン・・・
徐々に叩く音は大きくなりソラを急かした。
ガチャリと、ドアを開ける。
ドアの前にいた人は実に意外な人だった。
「カーシャ?」
と、なるべく驚きがばれないように言ったのだが無駄だった。
「何驚いているのよ、おはよう。入るよ~」
と、許可もなしで靴を脱いだ。
「ちょ、おい・・・。何の用だ?」
と、ソラは慌てて言ったが、
「中で話す」
との返事が返ってきた。
その時はすでにカーシャは部屋に上がっており、止めるのはもう無理だった。
ちぇっと舌打ちをして、カーシャの後を追った。
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「適当に腰かけて。」
と、カーシャを座らせ、コーヒーを取りに行く。
「シュガーとミルクは入れる?」
と、聞くと、思いがけない返事が返ってきた。
「いいよ、私が出すから。」
「は?」
と、ソラは思わず止まってしまった。
なんで、こいつ自分の部屋みたいな感じでいやがるんだ?
「いや、やっぱクリンにやらせるから良いよ。」
クリンとはソラの世話係だ。
2級戦士および、3級魔士以上には世話係がつく。
ソラは最高ランクの1級戦士と1級魔士の位を持っている。
これは世界で両手の指の中に入る。
こんな芸当が出来るのはクラウンエイトだけなのである。
クラウンエイトとは、八人の神の総称であるのだ。
雷神、風神、炎神、水神、土神、白虎、青龍、玄武、そしてソラである朱雀
全員が最高の騎士と言われ、九つのの門を司る。
北門の玄武
東門の青龍
南門の朱雀
西門の白虎
北東門の雷神
南東門の風神
南西門の水神
北西門の土神
そして、すべての門の中心にあると言われる、正門の炎神
世界政府に認められた神の称号を持つ九人である。
ソラは現在、世界政府本部にいるのである。
地上350階の巨大な建物である。
「いや、秘密の話があってね、クリンちゃんにはどうしても知られてはいけないことがあるのよ。だから、私が作るわ。」
「そ、そうか・・・。じゃ、頼んだ。」
と、ソラは少し顔を赤らめて言った。
「シュガーとミルクは?」
「砂糖は多めで、ミルクも入れて」
「はいはい、分りましたぁ。」
と、カーシャは笑顔で台所へ向かった。
世界政府の本部にいるカーシャはもちろん、魔法を使う。
2級中位の魔士であり、4級戦士だ。
しかし、それだけでは世界政府本部には入れない。
ここにいるやつらはよほど、魔法や剣術を極めたか、特異な能力があるかなのである。
彼女は後者にあたる。
そして、その特異な能力を持つものを称して、能力者と呼ぶ。