8 突撃!? 隣の三時のおやつ
新キャラ投入。彼は一応アレックスのライバルという位置付けのはずなんですが……。
使い魔は、魔物にあって魔物にあらず。
使い魔の食事が、一日二回、主人の魔力を分けて貰うことだと知って、愕然としました。
普通は人も魔物も、エネルギーは食物から摂取します。
なのにどういうわけか、使い魔はエネルギーをエネルギーの形で受け取るのです。
せっかく異世界に居るのですから、見るも恐ろしいゲテモノ料理にも挑戦してみたい、と思っていましたのに。
それに、食べないで生きていけるなんて……私はもはや普通の人間ではなくなってしまったようです。
おそらく今の私は、漢方医学で言う「気血水」の「気」のみで生きている状態です。
人間離れしてしまったのは、食事の面だけではありません。
使い魔契約をしていると、その期間は生殖能力をなくすそうです。つまるところ、私の場合は無月経になるということです。
これは、使い魔が子を持つと主人を疎かにする様になるから、だそうです。
でも使い魔の寿命は主人の数倍であることが普通なので、子孫を残す上で特に影響はありません。……私の場合は分かりませんが。
生理なんて面倒なもの無くていいと思っていましたが、いざ無くなってみると複雑な気持ちになりますね。
そんなわけで、今の私は、人間にあって人間にあらず。
じゃあ何かと言われれば、使い魔としか答えようがありません。
エリーちゃん曰く、契約を解除してもらえれば元に戻るそう。なので、一刻も早く元居た世界に帰る方法を見つけて、ご主人様に契約を解除してもらわなければ!
食べなくても生きてはいけますが、食べられないということではありません。
魔力だけで飢餓感は消えますが、美味しそうな匂いを嗅げば、やっぱり空腹感は刺激されます。
だからその日、匂いに釣られて食堂へ行っちゃったのは、完全に不可抗力でした。
何でしょう、このちょっと甘い匂いは……。
調理場に居たお兄さんが、これまた美形でした。
銀色の長髪に、薄茶の瞳。全体的に色素が薄くって、ものすごーく品が良さそうな雰囲気です。
なぜ白い割烹着などお召しなのかが激しく疑問ですが、それでも違和感無く着こなされているというのが、また何とも言えない感じです。
私はよっぽど物欲しそうな顔をしていたんでしょうね。
お兄さんはクスリと笑って手招きし、テーブルの一角に私を座らせてくれます。
そして、オーブンらしき箱から取り出したケーキを切って、私とエリーちゃんに出してくれました。
「どうぞ」
それでは遠慮なく。
「いただきまーす」
うわースポンジふんわふんわ。クリームも程よい甘さです。
エリーちゃんも思いっきりガっついています。仕方ないです。美味しいですもん。
お兄さんは、そんな私達を、ニコニコしながら見ていました。
「一度君に会ってみたかったんだよ。
……アレックスが黒眼黒髪のアンヤージの少女を従えたって噂は、本当だったみたいだね」
何か、聞き慣れない単語が入っていましたよ?
「アンヤージ?」
「……違うのかい?」
えーっと、「アンヤージ」が何なのか分からないので肯定も否定も出来ません。
エリーちゃんは、なぜかフォローをしてくれません。
お兄さんは疑問符を浮かべる私に、安心させるような笑みを浮かべて言いました。
「もし君がアンヤージだってことで奴に虐げられたりしてるなら、僕に言ってね?
力になれるかもしれないからさ。
いくらアンヤージが『魔王を崇拝し、闇の術を使う、悪しき魔法使いの一族』だなんて言われていても、僕には彼らを悪い人だとは、どうしても思えないからね」
魔王? 闇? 悪い魔法使い……?
部屋に戻っても、私の頭の中でそれらの単語がぐるぐるしていました。
今回初登場の彼も、魔法学校の生徒です。授業はどうした?
そしてなぜ割烹着なのか? それはなんとなく着せてみたかったから(つまり趣味)です。リボンとかレースの付いたフリフリ白エプロンも捨てがたかったんですけど!(オイ)
伏線も割と分かりやすく撒いてます。ああ、遂に魔王とか出てきちゃいましたよ。
それでも、これからも淡々と進みます。
次回はご主人様ご乱心!?の回かな。