7 魂の呼応
今回はちょっと短めです。
超能力者ごっこにも飽きましたので、気分転換にエリーちゃんと一緒に、寮内を探険することにしました。
白い壁はどこまでいっても幾何学模様が描かれています。
床はじゅうたんが敷かれていて、裸足でも歩き心地は悪くありません。
右側は気の茶色い扉が並び、そこに掛けられた白いプレートには文字のようなものが書かれています。 どのプレートにも文字が二行。多分その部屋の住人たちの名前でしょうね。
残念ながら文字は、エリーちゃんにも読めないそうです。
一つ一つの扉を開けて回りたい衝動に駆られましたが、人様のプライバシーを侵害するのは本意でないので、ぐっとこらえました。
左側は大きな窓があります。
外にはとげとげした樹木が……あれ? これマツではありませんか?
私は自分の名字に入っているだけに、マツには人一倍の愛着を感じているのです。盆栽もよいですが、やはり地面にしっかりと生えている雄々しいのが好きです。
でも、異世界にマツが生えているとは考え難いので、仮にマツもどきと呼ぶことにしましょう。
それにしても長い廊下ですねえ。
歩けども歩けども同じ景色しか見えなくて、ちょっと退屈してきましたので、エリーちゃんに疑問だったことをぶつけてみることにしました。
「エリーちゃんは、“人間どもが”とか“主らが”ってよく言いますよね。それって、エリーちゃんは違う見解を持ってるってことですか?」
(我らは“分類する”という概念に希薄じゃからの。低級の者たちの場合は尚のこと。敵か味方か、それしかない者も大勢居る)
へー。あ、そうだ。
「使い魔契約についてはご主人様に説明していただいたんですけど。
ぶっちゃけ、エリーちゃんはどう思ってるのですか?」
(どう、とは?)
「えっと、人に使われるのは嫌だとか、窮屈だなー、ですとか」
(それはないのぅ。そもそも、契約も召喚も、妾が応じねば成立せぬもの故な。あのような魔法使いのヒヨッ子に縛られたくらいでは、少しも苦しくなんかないわ)
ヒヨッ子……。使い魔に侮られる主人って。
――でも。
「エリーちゃんは自らの意志でジャックさんの使い魔になったんですね」
(力の弱い者たちは無理やり服従させられる場合もままあると聞くがの。
それでも基本的には、主と使い魔は魂の呼応が決めるもの。
どんな主でも、魔の方はすすんで従うようになる)
ほぇー。
(何を他人事のように感心しておるのじゃ。そなたもそうであろう?)
ん? 私も?
(あの男の呼びかけに、そなたは自ら応えたはずじゃ。意識的にせよ、無意識にせよ、な)
…………。
(何故かは知らんがの。そういうふうになっておるのじゃ)
とりあえず、使い魔さん達に悲愴感は無さそうで良かったです。