6 魔法修行? 超能力修行!?
前半は馬鹿なことやってますが、後半はちょっとカタイ話に……。
メグは、腐っても理系女子、のはず。
呪文が分からないのではご主人様式は実践できないので、エリーちゃん式でどうにかしてみることにしました。
ご主人様の机の上にあったペンを一本拝借。ぎゅっと握りしめて、念じます。
「曲がれスプーン! アイ・アム・ユリゲラー!」
『スプーンやあらへん、ペンやし。大体ソレ魔法やのーて超能力やんか』
脳内で雛ちゃんのツッコミを想像しました。彼女がこの場に居たなら、きっとそう突っ込んでくれた事でしょう。
(なるほど、それが異世界のボケとツッコミというものなのじゃな)
いや、感心しないでください、エリーちゃん。
ペンを折ってしまったら後始末が大変だと気付いたので、浮かす方に方針転換しました。
(そなたは、魔法を使う時に雑念が多いのぅ)
そうでしょうか?
(ペン一本浮かすにも、余計なことを考え過ぎじゃ)
余計?
――ペンには質量があります。そこに重力が掛かっています。
これを浮かすためには、重力と反対向きで、かつ重力より大きい力を与えなければなりません。
浮いたら、その場で維持するために、与えた力を重力と釣り合わせます。
……至って常識的に、ペンの浮かせ方をイメージしているつもりですけど。
(それはそなたの世界の“常識”であろう。
そなたの世界での法則全てが、この世界でも当てはまるというわけではないぞ?)
「それは分かってますけど……」
(そなたには元の世界での豊富な知識がある。
だがそれは、『魔法の存在を否定』することが、前提のものではないのか?)
…………。
(そなたの『科学的思考』が、自由な発想に枷を嵌めておる。
科学とは、世界を識る『手段』の一つではなかったか?)
そんなことが言えるエリーちゃんは、確実に私の思考だけでなく記憶も読んでいると思われます。
……良いですけどね、エリーちゃんだから。
確かにエリーちゃんの言うとおりだと思います。『科学』は絶対ではありません。
それは一つの概念であり、方法論であり、道具のようなものでしょう。
そしてそれはまだ、未だもって不完全なものでもあるようです。
今日は正しいと思われていることが、明日になったら変わってしまっているかもしれない――そんな可能性を大いに含んでいるものなのです。
『科学』は一種の『宗教』だ、と言ったのは誰でしたっけね。
でも、科学を捨てて、私は何を頼ればいいのでしょう?
(そなたの世界の考え方全てが、この世界では当てはまらない、というわけでもないのじゃ。
科学的思考も、有用な時はある。
ただ、そなたが今やろうとしていることとは少々合わない、というだけのことじゃよ)
うーん、突然話が難解な方に行ってしまいました。本当、なんのこっちゃ、です。
ご主人様に呪文を教えてもらっても、やっぱりイメージが上手く出来ません。
そもそも、「魔力」が何なのかもよく分かりませんしね。
多分、エネルギーのようなものだと思うのですけど。
この、エネルギーという概念もよく分かんないんですよねえ。
質量もエネルギーの一形態である、というのがかの有名な公式に証明されたる、我が故郷における常識であったわけですけど。それが、光になったり熱になったり。熱や光ならまだしも、運動エネルギーとか位置エネルギーとかになると、イマイチ実態がつかめないじゃないですか。
本質は何なのかと問われれば、私は疑問符しか浮かびません。
物理は苦手だ……。
科学に対する考え方には異論もあるでしょうが、フィクションなので大目に見てください。