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めぐる世界の光と闇と  作者: 弦巻桧
10年経つので蔵出し(過去拍手・活動報告の再掲)
64/65

メグちゃんとあっくん~もしも二人が現代日本で幼馴染だったら~

過去に拍手で公開していたものです。

もしも二人が現代日本で幼馴染だったら、というパラレル設定。現パロともいうのかも。

幼少期からメグ中一、アレックス小六まで。

【保育園編】


 アレックスは、金色の髪と目を持つ外国人の男の子です。みんなからあっくんと呼ばれ、その王子様のような容姿から、保育園でも人気者でした。

 そんなあっくんが一番だいすきなのは、あっくんよりも一つ年上のメグちゃんです。


 あっくんが初めてこの保育園にやってきた時、なかなかみんなに馴染めなかった彼に、最初に話しかけてくれたのがメグちゃんでした。

「かみのけも、めのいろも、とってもきれいです。おうじさまみたいです」

 そう言ってにこっと笑ったメグちゃんに、あっくんの胸はどきどきしました。


 その日から毎日、あっくんはいつでもメグちゃんにくっついていました。遊ぶ時も、お昼寝の時も、おやつの時間も、いつもメグちゃんの隣にいようとしました。他の男の子がメグちゃんに近づこうものなら、必ず割って入って、メグちゃんを独り占めしようとします。

 でもそんなとき、メグちゃんは必ず悲しそうな顔をして、「どうしていっしょに、あそんじゃだめなのですか?」と言います。

 また、あっくんの方も、王子様みたいで人気者なので、一緒に遊びたいという女の子がいっぱいいます。その子たちが誘ってくれるのを断ってばかりいるのにも、メグちゃんは良い顔をしません。

 あっくんはメグちゃんの悲しそうな顔は好きではないので、その時は我慢して、他の子とも混ざって一緒に遊びます。でもやっぱり、あっくんはメグちゃんが自分だけのメグちゃんでいてくれたらいいのに、と思うのです。そして自分は、みんなの王子様でなくていい、メグちゃんだけの王子様でいたい、と思うのでした。



 ある日あっくんは、メグちゃんがずーっと自分だけのメグちゃんとして、一緒にいてくれる方法を思いつきました。

 あっくんが見つけたのは、絵本の中の花嫁さんと花婿さんです。

(そうか、けっこんすればいいんだ)


 早速あっくんは、メグちゃんのところに向かいます。ブランコに乗ろうとしていたメグちゃんの手を引っ張って、人の少ない木の下に連れてきました。

「メグちゃん、あのね」

「なあに? あっくん」


 あっくんはどきどきしましたが、勇気をふりしぼります。


「お、オレ、メグちゃんのこと、すき。メグちゃんは、オレのこと、すき?」

「うん。わたしも、あっくんのこと、すきです」


 にこにこしながら答えてくれるメグちゃんに、あっくんはうれしくなりました。


「じゃ、じゃあ、……おおきくなったら、オレとけっこんしてくれる?」

「え? あっくん、わたしのこと、およめさんにしてくれるのですか?」

「うん」

「うれしいです。ありがとう、あっくん」

 えへへ、と笑うメグちゃん。

 あっくんは、またどきどきしました。


(これで、メグちゃんはずーっと、オレの、オレだけのものだ)

「じゃあメグちゃん、やくそくのあかしに、きすしよう」


 あっくんの言葉に、メグちゃんは首を傾げました。

「ちかいのきすは、けっこんしきでするんじゃないのですか?」

「けっこんしきでもするよ。でも、やくそくのあかしに、いますぐしないといけないんだ」

「そうなのですか」

「そうだよ」

 そう言って、あっくんはまんまと、メグちゃんの初めてのちゅうをゲットしました。


 あっくんはご機嫌で家に帰り、お母さんに報告しました。

「オレ、おっきくなったらメグちゃんとけっこんする」

「あらあら、そうなの」

 お母さんは、あっくんの頭を撫でながら、言いました。

「それじゃあ、カッコいい良い子にならないとね。もし嫌われちゃったら、メグちゃん気が変わって、お嫁に来てくれないかもしれないわよ」

「でも、やくそくしたよ?」

「それでも、他にもっと素敵な人が現れちゃったら、約束はなかったことにしてください、って言われちゃうかも」


 それは大変だ、とあっくんは思いました。

 結婚したらメグちゃんは自分だけのもの、だから結婚の約束さえすればいいのだと、あっくんは思っていました。でもどうやら、約束はなかったことにしてしまえるようなのです。

 あっくんは、お母さんに宣言しました。

「オレ、カッコいい、いいこになる」

 そして絶対、メグちゃんをお嫁さんにする、と固く誓ったのでした。






【小学生編】


 アレックスは、金色の髪と目を持つ男の子です。小さな頃から家族で日本に住んでいて、みんなからはあっくんと呼ばれています。

 あっくんは、一つ年上の幼なじみ、メグちゃんのことが大好きです。


 メグちゃんは、七才のお誕生日に、大きなクマのぬいぐるみを買ってもらいました。そのクマさんを、メグちゃんは大層気に入って、毎日抱きしめて眠っていました。

 その事を聞いたあっくんは、メグちゃんのクマさんを、とてもうらやましく思いました。


(メグちゃんに抱きしめられて眠ったことなんて、オレだってないのに。いつもメグちゃんと同じ部屋にいて、メグちゃんを見ていられて。メグちゃんにかわいがられて……。ああ、オレがそのクマになりたい)


 でも、今のあっくんは、メグちゃんがお嫁に来てくれるカッコいい男の子になるため、鋭意修行中なのです。クマさんになりたいだなんて、とても言えません。


 ある日、あっくんがメグちゃんのお家に遊びに行くと、例のクマさんはベッドの上に座らされていました。

 あっくんがじっとそのクマさんを見つめていると、メグちゃんはクマさんを両手で抱いて、「可愛いでしょう?」とあっくんに見せてくれます。

 つぶらな瞳が愛らしく、とてもふかふかしているクマさん。でもあっくんは、こんなクマなんかより、メグちゃんの方がずっと可愛い、と思いました。笑ったり泣いたり怒ったり、いろんな顔を見せてくれるメグちゃんの方が、こんなぬいぐるみなんかより、あっくんには何倍も目が離せなくなってしまうのです。

 このクマは、もしかしてオレよりずっと、いろんなメグちゃんを見ているのだろうか? そう思うと、あっくんはこのクマさんが憎らしくなりました。


「このクマ、男の子? 女の子?」

 女の子なら、まだ許せると思ったのに、

「男の子ですよ」

 男の子。ますます、あっくんはこのクマさんを許し難くなりました。


(オレ以外の男が、メグちゃんの部屋にいるなんてダメだ! ……そうだよ、まして一緒に寝てるなんて!)

 あっくんがクマさんを睨んでいると、クマさんが一瞬、あっくんを見下すように笑った気がしました。

 腹が立って思わず、あっくんはメグちゃんから、乱暴にクマさんを取り上げていました。

「あっ」

 クマさんを取り返そうとするメグちゃんに、あっくんは言いました。


「こんなの、いらないだろ。メグちゃんには、オレがいるじゃんか!!」


 その言葉に、きょとんとするメグちゃん。あっくんは、絶対にクマさんは渡すまじと、背中に隠しました。

「んー?」と言いながら首を傾げ、そのまま数秒固まっていたメグちゃんは、唐突にポンと手を打ちました。

「そっか、あっくん、クマさんが欲しかったんですね」


 なんでそうなるのか。とっさに返事が出来ないあっくんに、メグちゃんはさらに言います。

「そのクマさん、あっくんにあげます」

 あっさり「あげます」と言われて、あっくんは拍子抜けしました。


「……大事なものなんじゃないの?」

「大事です。私の一番のお気に入りです。でも、あっくんにならあげます。だってその子、あっくんに似てるじゃないですか」

「オレに、似てる?」

「はい、似てます。だから私、そのクマさん大好きなんです。ぎゅーっと抱きしめてると、安心します。可愛いです」


 自分に似てるから、大好き。そう言われたあっくんは、背中に隠していたクマさんを、もう一度じっくり見てみました。どこが似ているのか、さっぱり分かりません。でも、このクマさんと同じように、大事、お気に入り、可愛い、大好き――そんな風に、自分のことも思ってくれているのだ。そう考えて、あっくんは心があったかくなりました。


「返す」

 あっくんはメグちゃんに、クマさんを突きだしました。

「え? いらないのですか?」

「そこまで、メグちゃんがこのクマが好きなんだったら、しかたないからな。オレの代わりだと思って、ちゃんと可愛がれよ」

「はい、可愛いです。これからも大事にします」

 クマさんを受け取って、幸せそうに抱きしめるメグちゃん。


 あのクマは自分の分身。そんな風に思うことにしたあっくんでしたが、やっぱり、ぬいぐるみのクマがうらやましく思えて仕方がないのでした。






【メグ中一、アレックス小六編】


 俺がいつものように中学の校門前までメグを迎えに行くと、彼女は知らない男子生徒と一緒にいた。俺はとっさに身を隠し、二人の会話を盗み聞いていた。


「松影さん、僕と付き合ってくれないかな」


 どくん。心臓が大きく跳ねた。――メグが告白されている。


「え? 付き合うって何にですか?」

「そういうことじゃなくて、君のことが好きだから、付き合ってほしいって言ってるんだけど」

「……はあ」


 メグはずいぶん間の抜けた返事をしている。

 首を右に傾げたり左に傾げたり。彼女が考え事をする時の癖だ。


「えっと、ごめんなさい。よく知らない人とは付き合えません」

 俺は、ホッと胸を撫で下ろした。


「でも、付き合ってる人とかは居ないんだよね?」

「いません」


 ん? 俺とメグは昔、「大きくなったら結婚しよう」って約束したことがあるけど、あれでは付き合ってることにはならない、のか? 俺はずっと、彼女はいつか俺だけのものになるのだと思ってきたけど――。


「じゃあ、好きな人は?」


 またしても、俺の心臓はどきりと跳ねる。期待と、ほんのわずかな不安。


「いません」


 ……え?


 彼女の答えを聞いた瞬間、心臓にナイフを突き立てられた心地がした。

 幼い頃、メグと結婚の約束をして浮かれていた俺に、母が言った言葉が甦る。

『他にもっと素敵な人が現れちゃったら、約束はなかったことにしてください、って言われちゃうかも』


 母さん、メグには、他の素敵な人なんて現れてない。なのに。これはもしかして、約束をなかったことにされているんじゃないだろうか。だって結婚って、好きな人同士がするものなんだろ。

 好きな人はいないって――俺のことも、メグは好きじゃないのか。


 どうしてだと考え始めると、自分の背負っているランドセルが突然、重く感じられた。

 ランドセルを背負う自分と、セーラー服姿のメグを、脳内で並べてみる。

 小学生と中学生。一歳差でも、この違いは大きい。越え難い壁を感じてしまう。それは、メグが中学に入った頃からずっと思っていたことだった。

 俺が子供だから、彼女とは釣り合わないって、そう思われたのかな。


 思い返してみれば、小さい頃からずっとそうだったのだ。一つ年上のメグちゃんは、必ず俺より一歩先に居る。俺がやっとそこに追い付いたと思った頃には、彼女はもう次の、一つ上の段階に移ってしまっていて。

 俺はいつも、たまらない気持ちになるのだ。たまらなくて駄々をこねたら、メグちゃんはお姉さんみたいに俺を宥めるのだ。そしてさらに、俺はたまらない気持ちが増してしまう。

 ――どうやったら俺、彼女に好かれるカッコいい男になれるのかな。


「あれぇ? あっくん、いたんですかー」

「あ、メグ……ちゃん」

「帰りましょう」


 はい、と、当たり前のように右手を差し出してくるメグ。

 俺たちはいつも手をつないで一緒に帰る。それを俺は恋人の証と考えて、疑ってすらいなかった。けど、メグにとってはそうじゃないかもしれないと、初めて思った。


「その小学生……誰? 弟……じゃあないよね。見た目からして思いっきり外人だし」

 先ほどメグに告って撃沈した男が訊いてくる。

 俺の金色の髪と目はかなり目立つ。これを黒にしたところで、顔立ちで日本人でないことはすぐばれるけど。


「あっくんは私の幼なじみです。ちっちゃい頃から一緒で、もう弟みたいなものかもしれませんね」


 弟。


 メグにとって、俺は弟なのか。手をつないで一緒に帰るのも、『弟』だから……。


 例えば今ここで、俺がメグに告白したら。メグはきっと俺のことを好きだと言ってくれるはずだ。でも、その「好き」の意味合いは、俺と彼女では全然違うのだ。

 苦しかった。胸が、ぎゅっと詰まって。

 みっともなくて吐き出せない想いは、澱となって心の底に溜まっていく。

 それでも、俺が願うことはたった一つだった。初めて彼女が笑いかけてくれたあの日からずっと、変わらずに。


 彼女が――メグが、欲しい。


肝心の思春期で気まずいあれこれを経て恋人になるところまでは書けなかったので、その辺りは皆様のご想像におまかせします。

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