ししゅんきにやりがち?な辞書の使い方
活動報告に載せていたお話の再掲です。(初出:2011年4月)
「俺、一度でいいから腎虚になってみたいんだよな」
藪から棒に、何を言い出すのですか、アレックス? えーと、『ジンキョ』って言いました?
え、……『腎虚』? いやーまさか。もっと他の変換候補があるはずです。
そこでとり出したるは……じゃじゃーん! 電子辞書ー! 広辞苑だって入っているのです!
えーと、ジンキョ、ジンキョ……。
『じんきょ【腎虚】』
あれっ!? これしか出てこない!
次の単語はもう『しんきょう』です。な、なんてこと……っ!!
い、意味を見ましょう。
『じんきょ【腎虚】
漢方で、腎気(精力)欠乏に起因する病症の総称。俗に、房事過度のためにおこる衰弱症を指す。』
ええ? よく分からない単語がいくつか……。まず、『腎気』ですが、これは出てきませんね。じゃあ、『精力』は?
『せいりょく【精力】
①心身の活動力。根気。元気。性的な能力の意でも使う。「-を注ぐ」→せいりき。
②まごころこもった力。謡曲、恋重荷「-を尽くし候へども」』
「活動力、元気……の不足? アレックス、病気になりたいのですか?」
「大事なのはその後に書いてある事の方だろ」
「え、まごころの不足の方ですか? それならもともとじゃないですか。今さらなりたいとか言うことじゃないです」
よし、これで解決!
「じゃねえよ、おい。まだ腎虚の説明の方で、よく分からん単語が残ってるだろ」
う、『房事』ですか。嫌な予感がするから調べたくないんですけど。
「調べろ」
め、命令されちゃいました……。ええと。
『ぼうじ【房事】
閨房で行うこと。男女の交合。ねやごと。』
わー……。
「あと、これとこれとこれも、一応調べろ」
アレックスが指差した三つの単語を、順不同で調べます……。もう勘弁してほしいです。
『けいぼう【閨房】
①ねや。寝室。
②婦人の居室。』
『ねやごと【閨事】
男女の交合。房事。』
『こうごう【交合】
性交。交媾。』
ううう、い、嫌……。
「さすがにもう、俺の言葉の意味が分からないとは言わせないぜ?」
「つ、つまり、その……『衰弱するくらい、したい』? ――無理です!」
「なんで」
「体力が持ちません!」
何せアレックスは、……以下略! 自主規制です! 今更ですけどっ!!
「……ふーん」
「な、何ですかその含み笑いは」
「嫌だ、とか、恥ずかしい、とは言わないんだな。体力さえ持てば、お前も付き合ってくれる気になるわけだ」
「――!」
怪しい笑みを浮かべながら、私を抱き上げたアレックスは、寝室の扉を――ああ、もうこの人やる気満々ですよー……。でももう、抵抗する気の無い私も私というか……。
結局、私の方が腎虚になりました。
ううううう、でもこれも、幸せといえば幸せ、なのでしょうか……? 後は辛いけど、最中は気持ち良かったですし……。
――わああ! 何言ってるんでしょう私!!