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5 異世界の夜と朝と

エリーちゃんの例えがちょっと怖いので注意。

 異世界にも、夜はやってきます。

 空に浮かぶ月は、地球から見えるものによく似ています。

 十八年生きてきましたが、よもや異世界の空の下で生活する日が来るとは思ってもみませんでした。


 ああ、ちなみにアレックス様はお幾つなのかと尋ねたところ、

「十七才」

だそうです。なんと年下なんです。


「よっぽど苦労されてきたんですねえ」

「……どういう意味だ」


 そこで閃きが来ました。もしかして、年の数え方が違うのかなあと思ったのです。


 ところが不思議なことに、フェレス国の暦は日本の旧暦に近いです。


 この世界の月にも満ち欠けがあって、満月から次の満月までがちょうど三十日。これを一月ひとつきとします。

 一年は十二カ月なのですが、このまま計算すると誤差が出るんですって。だから、一年に二十四の節目を設定して、ズレを検出するんだそう。


 よく考えなくてもこれ、太陽太陰暦の考え方ですよね。二十四の節目て、まんま二十四節気みたいでしたし。


 四季もあって、日本とよく似た気候らしいことにも驚いています。ちなみにこちらの今の季節は、夏から秋の変わり目です。日本で言えば九月くらいでしょうか。


 一日の長さは、あくまで私の体感ですが、元の世界と同じくらい。


 正真正銘、私とアレックス様は一才違いと言っていいと思われます。数え年もないようですし。


 ちなみに、ジャックさんも十七歳。


「ふむふむ。納得です」

「……その反応の違いは何なんだ」


 言わぬが花です、ご主人様!





 翌朝。

 ――あいたたた。

 毛布で蓑虫になってたとはいえ、床に寝たためちょっと体が痛みます。今晩からは寝方を工夫しようと思いました。


 さて、私は今自分の服は洗濯中のため、ご主人様の服を借りています。

 ……下着が無いのがツライです。とは言え、こっちに飛ばされたのは寝る前で、薄手のシャツと短パンという超気を抜いた格好(しかもノーブラ)だったので、自分の服が戻ってきてもなんとなく着辛いですけど。

 寝る時もしっかりと服を着込む。これを帰ってからの教訓にしましょう。



 ご主人様は、まるで猫の子にでもするみたいに優しい手つきで私の頭を撫でてから(でも顔は笑ってません)、学校へ。私はエリーちゃんとお留守番です。


 その間、私はご主人様の命令に従うべく、渡された分厚い本を開きました。

 やっぱり、ここに置いてもらっている以上、その恩に報いないわけにはいきませんし。

 魔法を習得すれば、帰れるかもしれないじゃないですか。


 でも、表紙をめくった瞬間、早速心が折れました。

 だって、文字が読めません。

 陣は図形だから良いとしても、何の陣か分からないものをうかつに描けませんよ。


 アレックス様曰く、暴発すれば学生寮一棟が余裕で吹っ飛ぶ術もあるそうです。

 だから、一人前の魔法使いになるためには、きちんと学校で勉強する必要があるんだ、と。


 だったら何でそれを、私に生兵法でやれというのですか。無茶でしょう。

 本を閉じて、溜息一つ。


 そこでふと、思いついたことがありました。

「魔物さんたちは、魔法を使えるのですか?」


 間仕切りカーテンの向こうでゴロゴロしていたエリーちゃんが、むくりと起き上がりました。

(人間の言う“魔法”とは厳密には異なるものかもしれぬが、近いことはやっておる)


 エリーちゃん式魔法講座は、アレックス様のよりもっとシンプルでアバウトでした。


(イメージし、念ずる。そして魔力を注ぎ込むだけじゃ。分かるじゃろ?)

 ……分かりません。


(例えば、そなたの血を逆流させようと思えば)


 生体実験反対――――!!


(例えば、じゃよ。そなたの体をじっと見つめ、血が逆流する様を思い浮かべる。

 そしてそなたの体へと、まっすぐに魔力が届く様を、これまたイメージするわけじゃ。

 魔力は視るものではなく感じるものゆえ、これがなかなか困難な者もおるようじゃの)


 嫌な例えですし、やっぱりよく分かりません。


(魔法の対象物に体の一部が触れていれば、もっと精度の高いことも出来る。

 そなたの腕に触れて魔力を注ぎ込めば、腕から先の血のみ逆流させることも可能じゃ)


 魔物さん、怖いです。


(なに、敵認定されねば大丈夫じゃよ)


 三百年独りで生きてきた猛者は、やっぱりとっても頼もしく見えました。


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