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めぐる世界の光と闇と  作者: 弦巻桧
番外編・後日談
58/65

二月といえば 【メグの誕生日編】前編

 日本ではもうすぐ二月二十五日、メグの誕生日だ。

 自分の誕生日ならどうでもいい。だが、大切な人の誕生日となると別だ。

 さて、どうやって祝えばいいのだろう。


 教室で悩んでいると、イースがのほほんと話しかけてきた。


「真剣な顔してどうしたの、アレックス~。何か悩み事~?」


 何も考えていなさそうで意外に考えていたり、考えていそうに見えて何も考えていなかったりと、イースはとにかく頭の中が読めない奴だ。果たして相談相手としてはどうなのだろう。

 しかし、イースも一応婚約者がいる身だし、何か良いアドバイスをくれるかもしれない。


「メグの誕生日、どうすれば喜んでもらえると思う?」

「へー、誕生日なんだ~。そうかー、メグが喜ぶことって何だろうね~」

「お前は婚約者の誕生日に何か贈ったりするのか」

「僕はね~、彼女の誕生日は毎年デートだよ~。プレゼントはね~、いつもセンスがないって怒られちゃうんだ~」

「怒られてる割には、嬉しそうに話すよな」

「怒るんだけど~それでもちゃんと大事にしてくれてるみたいだからね~」


 えへへへ~と、締りのない顔で笑うイース。

 俺はノロケが聞きたいわけではないのだが――


「あ~、そうだ! アレックス~、僕、面白い物を手に入れちゃったんだけど~。使ってみる~?」


 イースが取り出したのは、小さな瓶に入った薄いピンクの液体。


「何だこれ」

「えーとね~、有り体に言えば『惚れ薬』かなあ~」

「な、何!?」


 そんなものが存在するなら、何故もっと早く出さない!?


「今さらそんなもの出されても、俺たちはもう両思いだぞ」

「それがね~、これ、催淫薬でもあるんだよ~」

「それは良いな」

「でしょ~?」


 これは、楽しい誕生日になりそうだ。俺は一人、ほくそ笑む。

「うわ~アレックス悪い顔~」

などと、イースが言うのは聞き流して。




 そして、その日がやってきた。夕方、部屋に戻ると準備を整え、彼女を呼び出す。

 俺が用意したケーキに、メグの視線はずっと釘づけだった。

 そんな彼女の紅茶の中にこっそり、ピンクの液体を一滴垂らす。イース曰く、効き目に個人差はあるものの、ほとんどの場合飲めばすぐに効果が表れ、かなり持続するという。


 ケーキに向けられる、今にも涎をこぼしそうな、物欲しそうな顔。この顔はもうすぐ、俺に向けられるのだ。

 何も知らないメグが紅茶を飲むのを、固唾をのみ、生唾も飲み込みながら見守った。

 メグの顔が少しだけ赤らみ、フォークを握る手の動きが、徐々に緩慢になっていた。確実に、薬が効いている。


 ――さあ、存分に俺を求めてくれ!

 脳内で肥大する楽しい妄想に、いてもたってもいられず、自分から水を向けた。


「今日はお前の誕生日だからな。俺が何でも望みをかなえてやる」


 とろんとした目で、メグが俺を見る。それはとても蠱惑的なまなざしだった。


「ほんとですか? ほんとに何でも言うこときいてくれますか?」

「ああ、本当だ。男に二言は無い」

「えへへ~、それじゃあ~」


 メグはニッコリ笑って、予想外の言葉を放った。


「今夜は、手を出してきちゃ、だめですよ」



     *



 今日は私の誕生日です。教えた覚えは無いのに、何故かアレックスもそのことを知っていました。

 いつものように呼ばれていくと、そこにはケーキが用意してあったんです!

 それは生クリームたっぷり、イチゴのような赤い実がいくつも並んだホールケーキで、見た瞬間から口の中で涎が止まりませんでした。


「誕生日おめでとう」

「ありがとうございます!」


 そんなやり取りをしている間も、ケーキが気になって、早く食べたくて仕方ありませんでした。

 アレックスはそんな私に苦笑しながら、ケーキを大きめに切り分けてくれます。紅茶も淹れてくれました。アレックスが自分から給仕してくれるのも珍しいですね。特別だなって思います。


「いただきます!」


 ケーキも紅茶も、じっくり味わいます。

 ――味わっているうちに、なんだか体がぽかぽかしてきました。頭も、ぼやーっと、少し霞がかったような……。でもちょっと、気持ちいい……かも?

 ふわふわした感覚の中で、アレックスが嬉しいことを言ってくれます。


「今日はお前の誕生日だからな。俺が何でも、いくらでも望みをかなえてやる」


 ……何でも?


「ほんとですか? ほんとに何でも言うこときいてくれますか?」

「ああ、本当だ。男に二言は無い」

「えへへ~、それじゃあ~」


 一晩くらい、何の憂いも無く、心おきなくアレックスに甘えたいですねぇ…。

だから……


「今夜は、手を出してきちゃ、だめですよ」


 そう言った瞬間、アレックスががくっと肩を落としました。




「そういえば、アレックスの誕生日はいつですか?」


 膝の上に乗せてもらい、彼に背中を預けながら、気になっていたことを訊きました。


「三月二十四日だ」


 んん? それって、こっちの暦で、ですよね。こちらはすでに六月で――


「とっくに過ぎてるじゃないですか! なんで言ってくれなかったんですか!?」

「ああ、忘れてた」


 わ、忘れて……。


「だが、メグの誕生日は忘れないぞ。大事な日だからな」


 私だってアレックスの誕生日は大事ですよ。ちゃんとお祝いしたいです。

 それで、感謝したいです。無事に生まれてきてくれたことも、今日まで元気に生きてきてくれたことも、私と出会ってくれたことにも。


 そう言うと、アレックスの両腕が腰回りに絡みつこうとしたので、払いのけました。

 ダメですよ、ベルトが自分から伸びてきちゃ。


「本当に、手を出しちゃいけないのか?」

「何でも言うこときいてくれるんじゃないんですか?」


作者がぼんやりしている間に、18才になってましたねアレックス……。

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