二月といえば 【節分編】
アレックスが下ネタしか言いませんでした。
もう完全にギャグですね。できれば広ーい心で受け止めてください。
今日は二月三日、節分です。
節分と言えば豆まきをし、豆と恵方巻を食べる日です。
私も、帰りにスーパーで豆と恵方巻を買いました。
食べるのを楽しみに、家に帰り着いたその時。
アレックスの部屋に飛ばされました。豆と恵方巻の入ったエコバックを手にしたままで。
「ふーん。『節分』ね……」
豆のおまけでついていた紙製の赤鬼のお面をしげしげと見つめるアレックス。
「そのお面、つけてみますか?」
「断る」
「じゃあ私が付けますね!」
「なんで嬉しそうなんだ。鬼の面だろう」
「えへへー。私、鬼の役ってやったことないんですよ~」
「『初体験』、だな」
その言葉に他意は無い、はずなんですが、何か言い方と顔がいやらしいですよアレックス。
「ただの思い出し笑いだから気にするな」
気にしますよ! ニヤニヤして、一体何を思い出しているのか――そうか、これ聞いちゃいけない話題ですね。回避です。
うっかりすると、また年末年始みたいなことになります。
冬休み、私は結局実家に帰ることが出来ませんでした。アレックスから解放された後に電話したら、開口一番、母にこんなことを言われました。
「雛子ちゃんから聞いたわよー。ずーっとアレックス君と一緒だったんですって?
いいわねぇ、若いって元気で。それで、孫の顔はいつ見せてくれるの?」
夏休みにアレックスを連れて帰って以来、母もアレックスも孫だ子だと言い過ぎです。どれだけせっかちなんですか、私の周りの人たちは!
それはさておき、早速お面をつけてみました。目の部分はくり抜かれているのですが、やっぱり視界が狭いですね。あと、ゴムが切れないかちょっと心配です。
「駄目だな。その付け方をしたら顔が見えない。上か横へずらせ」
そうですねぇ、視野が狭いのはやっぱり不便ですしね。
顔が出るようにお面を上にずらしてみると、超至近距離にアレックスの顔が――
「『節分』と『接吻』って、なんか響きが似てるよな」
――さて。
気を取り直して、恵方巻と豆を食べましょう。
「それ、二本も食うのか?」
私が買った恵方巻は、二本入りのパックです。
「一本入りのはもう残って無かったんですよ。余った一本は明日にでも食べればいいと思ってたんですけど。……食べます?」
「ああ。もらう」
恵方巻を食べるときの心得その一、恵方を向いて食べます。今年は南南東です。
心得その二、食べてる間は無言。喋っちゃダメです。
同じ方角を向いて、黙々と恵方巻をかじる私とアレックス。なかなかシュールな光景です。特にアレックスは、いかにも外国人な顔立ちとファンタジーな服装で手には巻寿司なわけですから、もの凄く似合いません。
「ごちそうさまでしたー」
一本丸ごと食べると、それなりのボリュームなんですよね。育ち盛りのアレックスにはちょっと足りないかもしれませんが。
アレックスは空になったパックを見つめ、お茶で一服する私を見て、何を思ったか、
「もう一本、食うか?」
と言い出しました。
「はい?」
もう一本も何も、もう無いじゃないですか。
疑問符を思い切り顔に張り付けていただろう私に、アレックスは狩猟本能が見え隠れする視線を向けてきます。い、嫌な予感がひしひしと、
「俺の恵方巻は少し硬」
最後まで言わせちゃだめ――!!
「ああっ! そ、そうだー、豆は、年の数だけ食べるんですよ!!」
ふー。危ない危ない。
棒状の物が出てきたら、大きさ・太さ・硬さに関わらず警戒。これ重要ですよ。
今回は、年末年始の二の舞には絶っ対に! なりませんから!
幸い、アレックスの関心は机の上に置かれた豆の方に移ってくれたらしいです。
でも、ホッと一安心していたのも束の間で。
「豆、か……。それもいいな」
何がいいのか意味不明な呟きとともに、粘り気のある彼の視線が、私のそれと絡まります。
その視線は私の顔から少しずつ下に移動して……。
アレックスの顔にはまたしても、意味を知りたくはない笑みが浮かんでいます。
な、何を想像されているのですか――!?
「年の数だけ、だよな?」
じりじり、にじり寄ってこようとするので、私も一定の距離を保ちながら離れます。
再びエマージェンシーモード発動!!
「や、やっぱり食べなくていいです! 考えてみればそもそも、アレックスは節分関係ないですし!!」
あからさまに舌打ちされましたが、無視ですよ無視。
恵方巻食わせといて今さら無関係とは何だ、という突っ込みも受け付けません。
決めたんです。今日はもう流されません!
思い通りにならないからといって不貞腐れている誰かさんのことは放っておいて、豆を撒きます。
「鬼は~外~!」
そして鬼畜もそと、ですよー!
「福は~内~!」
撒いた豆は、その都度自分で回収します。魔法を使えば早いですが、そんなことには使いません。
「『鬼は外、福は内』か」
アレックスが噛みしめるように、しみじみと呟くので、私は油断していました。
だから、次いで彼がボソッとこう言うのを阻止できなかったんです。
「俺はメグの内側に入りたい」
瞬時には意味が理解できませんでした。
言葉を咀嚼しているうちに、私の体はアレックスの逞しい腕に抱え上げられていました。
私をベッドに下ろし、その上にのしかかる彼。ああ、目の前に鬼が……いえ、鬼畜がいますよー。
両腕を掴まれ、卑猥に笑う鬼畜のなすがまま――。
「豆が好物の鬼もいるからな。鬼は内。ふくは……服は、脱ごうな」
その時の私の顔は、赤鬼のお面と同じくらい、真っ赤になっていたことでしょう。
……もう、こじ付けにも程があるというか、無理があります。
強引なのもいい加減にしろって話ですよ、本当に。
でも結局、アレックスは自分流の解釈で『節分』を楽しみ、私もそれに付き合わされてしまいました。鬼畜と金棒の恐ろしさを思い知らされましたよ、ええ。
――流されまいと思ったのに、やっぱり今回もこんなオチですか!
こんな下品なことしか言わないヒーローってアリなのだろうか……。