メグの初夢
あけましておめでとうございます。
皆さんは良い初夢を見られましたか?
メグの場合はこんな感じです。
目が覚めて、なにか頭がむずむずすると思い、目の前にあった鏡を見て仰天しました。
なんと、ウサギの耳が生えていたのです。
どんなに強く引っ張ってみても、痛いだけで、取れません。
体の違和感は、それだけではありませんでした。何やら、お尻の方もむずむずします。
そっと手を伸ばしてみると、ふわふわ、もこもこした丸いものに触れました。まさか。
――どうやら、ウサギの尻尾のようです。
そして、私が着ているのは、レオタード風の衣装でした。
耳、尻尾、そして衣装。
どこからどう見ても、バニーガールでした。
それにしても、む、胸が足りない……。
「メグ」
いつからそこにいたのか、私の真後ろにエリーちゃんがいました。
「この時計を持って逃げるのじゃ。アレックスが追ってくるからの」
そう言って手渡されたのは金の懐中時計。
んん? これってもしかして、不思議の国のアリスですか? なんでそれで私がウサギなんですか?
「いいから早く逃げないと、アレックスが来てしまうぞ。捕まりたいなら、逃げずとも良いがな」
エリーちゃんの怪しい笑みからは、嫌な予感しかしませんでしたので、とりあえず逃げます。どっちへ逃げたら良いですか?
「奴はさっき、あっちで見かけたぞ」
私は、エリーちゃんが指差した方とは反対の方へ駆け出しました。
少し走ったところで、日本人形みたいな女の子に出会いました。彼女は華奢な腕で豪快に杵を振りかぶっていました。餅つきですね! お一人ですか?
「ええ。手伝わせるはずの方が、まだお見えでないので」
じゃあ、ちょっとだけお手伝いしますね!!
初対面のはずなのに、私はこの少女に妙な親しみを覚えていました。特に胸囲的な意味で同族意識が湧きます。ぺったん、ぺったん。餅をつく音さえ、嫌味に聞こえてきますね。
「それにしても『月でウサギが餅つき』ならぬ『月子とウサギが餅つき』とは、作者も芸がないですね。才能ある方ならこんなことはしません」
臼を叩き割らん勢いで杵を振り下ろしながら、彼女は毒舌を吐きました。
つきあがったお餅には、彼女の並々ならぬ情念を思わせる粘りと弾力がありました。私も一つ、頂きました。一個で十分お腹に溜まりましたよ。
月子ちゃんは三個目のお餅を食べながら、私の持っていた時計に目を止めました。
「その時計の針が一周するまで逃げ切れれば、あなたの勝ちです」
そういうルールなんですか。エリーちゃんってば何にも教えてくれないんですから~。
「このお餅でお雑煮を作っておきますので、逃げ切れた暁には是非食べにいらしてください」
はい! 楽しみです! 私はうきうきしながら走りだしました。
「まあ、あなたが食べられてしまう可能性の方が高いですけどね。その時は、お雑煮は全部食べておきますからご心配なく」
後ろで何やら変な呟きが……。気のせい、気のせい、です。
私、疲れているんでしょうかね。前方に、コスプレ集団が見えます。
目の錯覚でなければ、あれは亀ですね。亀が三匹……いえ、三人。と、なんでか亀仙人が一人混じってますね。亀になってるのは、トムヤムクンと水泳部さんと筋肉馬鹿、もといソリアム君とスイアーブさんとフレイムさんですね。ということは、亀仙人はイースさんですか。
「やいウサギ! オレたちとかけっこで勝負だ!!」
ああ、ウサギとカメですかー。なんて安直な。そして亀仙人は関係ないじゃないですか。
トム、じゃないソリアム君以外はやる気なさそうな集団ですね。スイアーブさんとフレイムさんは呆れ顔、亀仙人はひたすらニコニコ。でも、あの、なんでこんなことに……?
「よーい、ドン!」
人の話を聞かないソリアム君が、勝手に走り出してしまいました。残りの亀二人と亀仙人も渋々といった態で走り出しました。
四人の姿は、あっという間に見えなくなりました。亀なのに早すぎです。それにしても一体何だったんでしょう?
「ウサギとの勝負に勝てば、出番が増えるらしいよ」
わっ!? いつの間にか隣に、ジャックさんとチヨコさんがいました。――出番って?
「亀の格好をしてウサギとの勝負に勝ったら、アレックスとの絡みで番外編への出番を増やすと作者が言った――というデマを、私が流しておきました」
デマですか! しかも発信源チヨコさんですか!
「いやあ、僕もチヨコも冗談のつもりだったんだけど。ソリアムは簡単に信じちゃったね」
爽やか笑顔のジャックさん。なのに何だか黒い! 黒いですよご両人!!
「スイアーブさんとフレイムさんも付き合いがいい方ですよね。イースさんは……」
あの恰好は、完璧に楽しんでますよね。そういえば、あの人なんで亀仙人知ってるんですかね。
ところでお二人は、ここで何を?
「それは内緒。それよりメグ、逃げなくていいの?」
ああ、そうでした。
ジャックさんとチヨコさんのことが気になりつつも、逃亡再開です。
はあ、疲れました。アレックスの姿は全然見えませんし、大丈夫でしょう。
ちょうどいい所に椅子があったので、休憩しようと思って腰掛けました。
「メグ」
座った途端、耳元でアレックスの声がしました。
ビックリして振り向いても、誰もいません。気のせいか、と思って前に向き直ったその時。
椅子の硬い感触が柔らかいものへと変わり、背後から伸びてきた腕に腰回りをがっちり固定されました。
「メグ。俺だ」
椅子から人の姿に戻ったアレックスは、逃げようともがく私の体を抱きすくめ、ウサ耳に唇を這わせました。
――――!!
だ、ダメです耳は!!
思わずびくりと体を震わせると、そんな私の反応を楽しむように、彼は耳を食み、食み――。
抵抗する気力もなくなり、ぐったりする私を支えながら、彼はなおも両耳をいじめてきます。私は変な感じがして、涙まで出てきているというのに、アレックスは妙に嬉しそうです。
私の体を片手で抱え直すと、空いたもう一方の手を、彼は私の尻尾へ……。
――!?
彼の指が、手のひらが、私の尻尾に触れるたび、体が勝手にピクリと跳ねてしまいます。
その手はやがて、ゆっくりと私の衣装へと伸び、少しずつ、私の素肌が彼の目にさらされていきます。
こういうのは、まだ、こわいのに。流されちゃ、だめだ……って思うのに。
このままじゃ、私――――。
「はっ!?」
目が覚めました。何だ~、夢ですか。
でもあれ? なんだか頭がむずむず……して……。
「ぎゃ――――!!」
鏡に映っていたのは、ウサ耳を生やした私でした。そしてその後ろには、獲物を狙う目をしたアレックスの姿……。
夢、ですよね? お願いですから、早く醒めてください――!!
*
「メグ、めっちゃうなされてるやん! アレックス、そんな舐めるような変態ちっくな目でメグを見んとって! メグが汚れるやろ!!」
「お前が新年早々寝ているメグにべたべた触るなというから、視線で犯すにとどめてるんだ。俺が脳内でメグにどんなことをしてようがお前には関係ない。
そもそも、なんでお前がこの空間にいる? 俺はメグ以外、この空間に立ち入る許可を出した覚えはないぞ」
「一週間も同じ魔法を維持しつづけたら、ナンボあんたでも綻びが出る。力技で入れたわ。
そんなことより、いい加減メグを帰し! クリスマスからこっち、メグを監禁して引きこもりって何考えてんねん!! ってこら! 魔法を強化するな――って、もう聞こえてへんな。何ちゅう早業や。メグ、成仏しいや……」
アレックス「ウサギのメグの口に俺のニンジンを(以下略)」
新年からこんな話でごめんなさい。
ほぼオールキャスト! と思ったのに、赤毛王子を忘れました。それについてもお詫び申し上げます(汗)
今年もどうぞよろしくお願いします。