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めぐる世界の光と闇と  作者: 弦巻桧
番外編・後日談
50/65

恋は五感でするものなのです②

アレックス視点の後日談を二本、お送りします。

【触覚】あの素晴らしいアレをもう一度


「魔王征伐でのアレックスの、メグへのベッタリぶりは目に余ったね」

 スイアーブが、やれやれと溜息を吐きながら言う。


 今日は征伐隊のメンバー全員で、殿下への報告へ向かっている。帰還してすぐにある程度の報告は行っているはずだが、俺の回復を待って、確認を兼ねて改めてきちんと――ということになったらしい。


「ああ、あそこまで堂々としていられると、突っ込めないものだな」

 フレイムがそう言えば、ソリアムは、

「忌々しい女め。あれはやっぱりアレックス様にふさわしいとは思えない。いくらあの女の作戦で魔王が倒せたと言っても、そんなのは結果論で――なんでもありません」

 よしよし。メグにケチをつけたければ俺の目を見て堂々と言え。


「アレックスが一方的に好きなのかと思ってたけど~。あの使い魔さんも結構、アレックスの事好きだよね~。膝枕しちゃってさ~。らぶらぶだー」

 イースの能天気なセリフが……ってちょっと待て!? 何か聞き捨てならない単語が入っていなかったか!?


「おいイース! お前今何て言った!?」

「え~? らぶらぶだー、って」

「その前だよ!」

「あの使い魔さんも結構……」

「その後!!」

「ああ、膝枕~? そうか、アレックス爆睡してたもんねえ~」


 そうだ、覚えていない。何ということだ!! い、今すぐあの時へ帰りたい!!


「もう一度してもらえば~?」

「おい、イース!」

 フレイムが制したが、イースのセリフはしっかり聞こえていた。


 そうだ、今すぐメグを呼び出して、もう一度膝枕をさせれば良いのだ!!


「アレックス、俺たちはこれから殿下のところに報告に行くんであってだな――」

「構わないだろ。あの赤毛の前では散々キスした」


 四人ともが、揃ってそっくりな表情を浮かべた。すなわち、呆れ顔。つける薬は無い、といったような。


「殿下を『あの赤毛』呼ばわりっていうのも……。いくら君でもそれはちょっと……」

「じゃあアン男か?」

「なんですかそれは」


 ――さて。

 俺は今、殿下が滞在している寮の一室で、メグに膝枕されている。まだ体調が万全じゃないから横にならせてくれと言ったら、殿下はあっさり許可してくれた。さすがは我が親族にして幼馴染み。


 四人が殿下に魔王退治の顛末を語っているが、心底邪魔な音響効果だ。

 時折、殿下がこちらを見る。その度に、メグが赤面するのが窺えて面白い。というか可愛い。

 メグの太腿は肉付きが良くて、弾力も十分。良い感じだ。足が太いとメグは気にしていたが、俺専用なんだから気にする必要なんてない。他の男は、見ただけでも私刑で死刑決定だ。


 強いて言うならば、薄い布越しなのが気に入らない。俺は、メグの体温を直に感じたいというのに。

 ――まあそれは、先々の楽しみに取っておくことにしようか。




【味覚】まずは味の好みから


「うふー美味しいですー」

 めぐるが、本当に幸せそうにケーキを頬張る。


 俺たちは今日、ケーキバイキングに来ている。フェレス国にもケーキバイキングがあると知ったメグが、キラキラした目で「行きたいです!」と言ったからだ。


「アレックス、もしかして甘いものは苦手ですか?」

「嫌いじゃないが、ここまで甘ったるい臭いが充満してるとな……」

「そうですか……」

 メグが手を止めて、考え込む。

「よく考えると私、アレックスの食の好み、全然知らないんですよね」


 それはそうだろう。約二カ月、同じ部屋で一緒に生活したと言っても、メグの食事はいつも魔力の受け渡しだったし、俺の食事の時にメグを食堂に連れて行ったことなんてない。


「これからは、一緒にご飯食べる機会を、積極的に設けましょう!」

 俺はご飯より、メグが……いや、これは自重しよう。


「知ってますか? アレックス。動物行動学的に言えばですね、動物は、警戒する相手とは、一緒に餌を食べることを警戒するんです」

「つまり、『安心できる相手とならば、一緒に餌を食べる』と」

「そうです! だから、アレックスももっと私の前でご飯食べてください。それで、私、アレックスの好みをさりげなくチェックしますから」

 宣言されてりゃ、さりげなくも何もないだろうに。


 まあでも、メグがこうも無防備に食べてる姿を見せるのも、俺に対する全面的な信頼ゆえに、なのだと考えれば、悪い気はしない。俺の好みを知りたいと思ってくれているのだって、単純に嬉しいと思う。


「それに私、家族が似てるのって、遺伝子のせいっていうのもありますが、同じ空間で同じものを食べてるからというのも、要因としては大きいと思うんです。だから……あれ? 私、何を言おうとして……」

「つまり、『同じ空間で同じものを食べて、俺と家族になりたい』ってことだろう?」

「わー! そうなりますかっ!!」

 自分で言っておいて自覚がないところがな。


 俺は、メグの食べかけのケーキにフォークを刺した。口に入れると、甘い香りがいっぱいに広がった。 ――なるほど、メグの好みはこういう味か。


 よく考えてみれば、メグの味の好みを知らないのは俺だって同じだ。それどころか俺は、メグがこれまでどういう世界で、どういう人生を送ってきたか、なんてことも全然知らない。日本とフェレス国との違いを、メグはあまり意識せずにあっさり受け入れてしまっているようだから、俺も今まで深くは考えなかったのだが……。


 俺の好きな、今のメグを形作ってきたもの。――気になるな。


 まずは味の好みから。そして、その他のどんな些細なことでも、彼女の事なら知りたいと思う。彼女が笑っていられる毎日を、一緒に作っていけるように。

 そんなふうに、日々の小さな発見を喜びに変えていけることを、きっと幸せというのだろう。


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