4 よくわかる? 魔法の使い方
ベッドの上で胡坐をかき、腕を組んだご主人様はとてもエラそうに見えます。
私はその正面に正座しました。正座なのは、つい、思わず……です。
「ところでお前、特技は?」
特技ですか?
「鼻から牛乳飲むことです」
これで小学生時代は随分人気者だったんですよ、給食の時間だけ。
カーテンの向こうから、プッと吹き出す音が聞こえました。
「……無駄な特技だな。もっと使い魔として役に立ちそうな事を言え。
魔法は? 使えるだろ」
何を当たり前のように「使えるだろ」って……。
「使えませんよ」
こちとら、科学の恩恵受けまくりの文明人ですよ。
魔法ってどっちかって言うと、怪しげな宗教のノリでしょう。
ご主人様は、すごーく渋い顔をしています。
「使い魔契約は、魔力を持つ者同士でなければ成立しない。これはいいな?」
そして、私の左手を取り、刻印に触れながら、
「俺とお前は、契約が成立した。……ということは?」
「私も、魔力はあるってことですか」
これでチートだったりしたら、いかにもこの手の話の王道ですけどねー。
ご主人様は頷きながら、私の左手をぎゅっと握りました。
「魔力を持つ者なら全て、何らかの魔法を使うことが出来るんだ。
使える魔法の性質には個人差があるが」
いやいやいやいや。
力があるからって、それが使えるとは限らないでしょう。
だいたい私、魔法の使い方なんて知りませんよ。
「――知らないなら、知ればいいだろ」
そしていきなり、アレックス様による魔法講座が始まってしまいました。
「まず、魔力には属性というものがあってな」
さっきのドラゴンの話を思い出して、何となく見当はつきました。
ご主人様は右手で私の左手を握ったまま、左手の指を順番に折って、
「火、水、風、土。そして、この全てを扱える者が、光だ」
光、ですか。何にでも便利な例外さんは居るものですな。
「その五つが正当な――簡単にいえば“良い”魔法使いの属性だ。
悪しき魔法使いの属性は全て、闇だとされている」
光があれば闇もあるのですね。光が善、闇が悪。分かりやすい二極対立の図式です。
「ご主人様の属性は?」
「光だ」
わあお。
「主人と使い魔は大抵同じ属性だから、お前の属性も光のはずだぞ」
まじっすか!? パート2。
ちょっ……オラワクワクしてきただー!!
万能魔法使いの、資質があるってことですよね!?
キャラも壊れます。
でもちょっと、落ち着きましょう。
深呼吸。ヒッヒッフー。……ラマーズ法は、素朴な疑問を生んでくれました。
「ジャックさんは、水属性ですか?」
「そうだ」
何せエリーちゃんは、“水”竜ですものね。
「で、ここからが肝心の、力の使い方だ」
アレックス様の三分クッキング……じゃなかった、三分魔法講座。
用意するものは、書くものと自分の体と魔力です。
①まず、床にペンで陣を描きます。この時、ペンは水性にしておかないと、後で掃除が大変なので気をつけましょう。
土の地面の場合は、木の枝などの、棒状のもので可。普通は、魔法使いの必須アイテム・杖を使います。
②そして、陣に手をつき、呪文を唱えます。このとき、頭の中で発動させたい術をしっかりとイメージしつつ、掌から魔力を注ぎ込みます。
③すると、魔法が発動します。
「掌をパンと打ち合わせるだけでそれが出来たりは……」
「しない」
残念!
とまあこんな具合に、アレックス様はあっさり言ってのけますが、これって結構大変だと思います。
気になるのは、「陣」と「呪文」。
陣というのは、丸とか四角とかが組み合わされた不思議な図形です。自分の属性、使いたい魔法に合わせて、それぞれ違う陣を使います。
呪文の方も、使いたい術によって違うそうです。
また、陣と呪文の組み合わせによって、発動する術も変わるとか……。
数学の順列組合せの図と公式が、脳裏をちらつきました。
それ、全部覚えろと!?
「さすがに俺でも全部ってわけにはいかない。
だが一応、よく使うものは頭に入っているし、防御陣は緊急時に備えて杖にも描いてある。
複雑なものに関しては魔導書を常に携帯している」
なかなかめんどくさそうですね。研究・改良のし甲斐はありそうですけど。
「何でもいいからとにかく覚えろ」
ご主人様は机の上にあった分厚い本を差し出しながら言いました。
この本、辞書並に重いです。これでも初級編のテキストですって。うへぇ。
「いいな? この俺様の使い魔が、全くの役立たずでは困るんだ」
辟易する私の頭にポンと手を載せ、言い聞かせる口調です。
このご主人様、なかなか見栄っ張りで、プライドの高いお方のようです。
メグの特技は、女としてどうよ……。
メグは一つのことに集中すると、他が完全にお留守になるタイプなので気にしていませんが、説明の間ずっと、アレックスはメグの手を握りっぱなしです。