恋は五感でするものなのです①
拍手で公開済みの短い番外編を、三本まとめてお送りします。
メグの乙女スイッチを入れてみました。
本編では語られていませんが、実はこんなことを思っていたかも、という話です。
【嗅覚】Smell of you
突然ですが、ヒトの匂いにも相性があるらしい、ということをご存知ですか。
匂いの好き嫌いは、遺伝子の違いによって決まっているんです。
ヒトは、自分とかけ離れた遺伝子を持つ相手の香りに惹かれるんですって。
その遺伝子はMHCという、免疫力と関係のある遺伝子で、様々な型があるのですが、より多くの種類のMHCを持っている人は免疫力が高いんです。
全く違うタイプのMHC遺伝子を持つ人同士の子供は、健康になる可能性が高いのですね。
つまり、その人の匂いが好きってことは、特別な意味があることなんです。
そのことを知ってか知らずか、ご主人様は、
「メグは、いい匂いがするな。ほのかに甘くて、いくら嗅いでも飽きない」
なんてことをよく言います。
あのう、そんなに匂い嗅がないでください。犬じゃないんですから!
ご主人様は匂いを嗅ぐのをやめずに、フッと笑って、
「いい匂いだって言うと、必ず赤くなるよな」
だって、匂いの好み=遺伝子の相性、って思ったら――。
それってつまり、運命の相手ってこと、では……。
ああ、私は認めません! ご主人様の匂いが好きだなんて、絶対思いません!!
嗅いでるとなんだか胸がきゅーっとしてくるのも、錯覚なんです!
遺伝子は絶対のものではありませんから、自分が好きになる人は、自分で決めます!!
でもご主人様のフェロモンは強力で、たまに誘惑に負けそうになります……。これはやっぱり、いい匂いかも、もうちょっとこのまま離れたくないかも、なんて…………。
【視覚】コンプレックス
「ご主人様って、ホントに美青年って感じですよね」
「どうした、いきなり」
「羨ましいな、と思いまして」
目は金色で形もいいですし、よく見ると睫毛も長いみたいです。鼻筋もすっとしてますし、眉の形も綺麗ですし。唇も薄過ぎず厚過ぎず、柔らかくて――ってそれは置いておきます。
整ってるのは顔の造形だけじゃないんですよね。髪も綺麗な金色です。日本人が色を抜くのとは違う自然な色合いで、髪質も良さそうです。
それから、背が高いんですよね。もやしみたいにひょろっと長いんじゃなくて、ちゃんとしっかり筋肉ついてて、スリムマッチョかもしれないです。十七歳なのに、見た目が与える印象はもうしっかり大人の男のひとって感じです。
それにひきかえ、私はと言えば……。
まず、顔は十人並です。
それから体型についてですが、身長・体重は標準だと思います。ですが胸囲は、無駄なお肉を一生懸命寄せ集めてやっとAカップですよ。それなのに、何故か付いてほしくない所に無駄なお肉がいっぱいついてます。お腹とかお尻とか太腿とか……。はい、要するに洋ナシ型の体型なんだと思うんです。ダイエットをしても、どう言うわけか減ってほしくない所ばかりが減って、肝心なところが痩せません……。
そして全体的に見て、子供っぽいとよく言われます。情緒面での発達の遅れが、見た目の雰囲気にも影響してると思われます。
「いや、子供っぽく思われるのは、好奇心に任せてちょろちょろしてるせいだろう。それに、ダイエットなんてしなくていいだろ。抱き心地は今くらいがちょうどいいし」
私を膝の上に乗せて、後ろからふわっと抱きしめるご主人様。こうされていると、今のままの私でもいいのかな、と思えてきます。不思議です。
それでもやっぱり、もっとご主人様の隣に並んでも遜色ない女子になりたいと思うのは、欲張りな願いでしょうか?
【聴覚】魅惑の声?
ご主人様の声は、凶器だと思います。少なくとも、私にとってはそうです。
私を召喚した時、初めて聞いたあの声には、ついつい耳を傾けちゃう引力みたいなものがあったんです。あれ、もしかして私呼ばれてるのかな? って。
で、次に聞いたのは契約の呪文を唱える声だったと思うんですけど、それもまるで見えない手で、心がぎゅーっと掴まれているような感じがする声でしたね。今にして思えば、ですが。
それで何だか分からないまま使い魔になってて、帰れないならここに居るしかないって言われた時も、ちょっとドキッとしました。言われた内容だけじゃなくて、その声にも、です。初めて名前を呼ばれた時も、なんでか分からないけどホントは嬉しかったんです。もっと呼んでほしいなって気がしたりして……。
ご主人様は、ちょっと低めのいい声をしています。それが、時にはビックリするくらい冷たい音を紡ぎます。でも、私と話す時にはそれが少しあったかい感じになります。たまに、妙に熱っぽく響いたり、甘く耳の中に残っちゃったり。
その時には何とも思ってなくても、夜眠る前とか、昼間一人でぼんやりしてる時なんかに、ふっと耳の奥でクリアに再生されることがあります。そんな風に思い返してる自分が恥ずかしくて、頭を振って必死に考えないようにするのですが、一度思い出してしまうとどうにも忘れられなくなるんです。それに、心のどこかではその声を、忘れたくないとも思っているんです。
ご主人様の声が、言葉の一つ一つが、私の心の深いところに食い込んでしまうのです。これは本当に、厄介です。それを嫌だと思えないことも、本当に厄介なんです。
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「な、なんか、こうしてまとめて見直すと、私、相当恥ずかしいこと言ってますよね……」
「ふうん。お前、こんなこと考えてたのか」
「あ、アレックス!? どこから!? っていうか一体いつからいたんですか!!」
「最初から。全部見てたし聞いてたぞ」
「あああああ! 一生の不覚ですっ」
「メグもかなり早い段階から俺のこと意識してたんだな」
「いや、あの、その、これは!! 別人ですよきっと! 異世界のメグ二号とか!」
「……認めないなら、実力行使で認めさせるまでだな。これから思う存分、俺を感じさせてやるよ。それこそ、体全体、五感全部でな」
「な、なんでそんな恥ずかしいセリフをさらっと言えるんですか! ちょ、放して下さい――」
「そうだ、メグ二号が本当にいるんなら連れて来いよ。二人まとめて可愛がってやるから」
「い、いるわけないじゃないですか二号なんて! いたとしてもアレックスの毒牙にはかからせませんよ!」
「じゃあ、お前が二人分相手してくれるってことでいいよな」
「どうしてそうなるんですか!? ……ひゃああっ! や、駄目ですちょっとこんなとこで――――」
アレックス自重!
次は、残りの「触覚」「味覚」をアレックス視点でお届けして、ひとまず完結とします。どっちもそれほどエロくはない、はず。