ハロウィン小話 愛しのカボチャお化け
「閑話 作って遊ぼ?」の後あたりの話です。
フェレス国の暦を現代日本の暦に換算すると、そろそろハロウィンです。
カボチャお化けを式神で大量生産していると、授業を終えたご主人様が戻ってきました。
「……何だこれは」
「おかえりなさいご主人様! Trick or treat! なのですよ!」
「『お菓子をくれないといたずらするぞ』か。いたずらってどんなことする気なんだ?」
そうですねー。ご主人様の杖に落書きでもしましょうか。魔導書を水浸しにするとか……。
「それ、いたずらレベルで済まないからな。実害があり過ぎる。……分かった、菓子はやろう」
やったー!
えへへ、クッキー貰っちゃいました。いい匂いです、美味しそうです。ご主人様、一体どこに隠していらっしゃったんですか、こんなの。
……ん? ご主人様、なんでニヤニヤしてらっしゃるのですか?
「メグ、俺からも『Trick or treat!』だ」
あ、しまった。お菓子を用意してなかったのですよ。貰うことしか考えてなかったです。
うう、仕方ありません。貰ったクッキーを返すしか……。
「菓子は返さなくていい。俺が欲しいのは……」
そう言いながら私の腕を掴むご主人様は、何やら纏わりつくようなオーラを醸し出しておいでです。それが一直線に私に向かってきてるのが分かってしまいます。何だかまずい、この流れは大変危険ですよ!
「お前の体は俺にとっては菓子みたいなもんだからな」
今のご主人様は捕食者ですね!?
「お、お菓子はあげられません!」
「じゃあ、イタズラするしかないな」
あ、あれ!? なんで? ご主人様さっきより笑い方がいやらしくなってませんか?
しかもその言葉の響きには、セクシャルなニオイがぷんぷんしてませんか!?
そ、そんな……、まさかどっちを選んでも結果は同じですか!?
「甘くされるのが良いか、イジメ倒されるのが良いか。それだけ選ばせてやろう」
どっちも選びたくありません!!
でも、私は既に両腕を拘束されていて、逃げられません。
ああ、なんでもうこの部屋に、ジャックさんはいらっしゃらないのですか!?
誰か助けてー!! 急急如律令――!
ドカドカッ! という音がしました。
ご主人様の頭に、何かがぶつかったようです。それも、一つじゃなく三・四個くらい。
「いってー……。何だこれは」
ぶつかられた部分をさすりながら、ご主人様は屈みこみます。床に転がっている、自分にぶつかってきた物体――カボチャお化けを掴んで、恨めしそうに見ていました。
私は思わず、自分の足元に転がってきていたそれを、抱きしめて叫びました。
「ありがとうございます、ジャック・オ・ランタン!」
ああ、ちゃんとジャックさんはいらっしゃいましたよ! 私にとっての救世主、この部屋唯一の良心が!!
*
メグの叫びを聞いて、苦々しい顔になるのを禁じ得なかった。
くそ、ジャックめ……。この期に及んでまだ……またしても俺の邪魔をするのか!!
しかも。
「うふふ、カボチャのジャックさん、すりすりしちゃいますー」
く……、抱きしめて頬ずりされるとは……っ! カボチャの分際で! ジャックの癖に!! 俺すらそんなことされたことがないというのに。羨まし過ぎるじゃないか!
今すぐ俺と変わりやがれ、そこのカボチャ野郎!!
つーか結局また、俺のライバルはシキガミか!!