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めぐる世界の光と闇と  作者: 弦巻桧
番外編・後日談
40/65

後日譚 誓い

三人称、アレックス視点。

たまには真面目なテンションで。

 かつてフェレス国の侵攻によって滅んだ村――今はフェレス人が移入しているこの地域に、アレックスは立っていた。

 十三年前の今日、この場所で、彼の友人・ジャックは全てを失った。

 ジャックの村への侵攻を命じたのは、アレックスの父だった。



 アレックスは、村の中を歩く。

 村からは、もうすっかりかつての惨劇の跡は消え、活気が感じられるほどになった。

 しかし、十三年前のこの日まで、この場所で平和な暮らしを営んでいた罪なき人々は、もう二度と戻ってくることはない。




 半年前、この村のはずれに慰霊碑が造られた。

 魔王の件が片付いた後にめぐるが提案し、王子の承認を得て、アレックスの父親が資金を出した。

 父は、この十三年間ずっと、罪の意識を背負い続けてきたらしい。そしておそらくは、今後もまた、背負い続けていく。


 この村を攻め落とすよう、父を動かしたのは国王陛下だ。陛下は陛下なりにこの国の未来を思って行動し、責任も負っている。だから父も、王が負う責任と罪悪感を共に背負った。


 今にしてみれば、もっと平和的な解決手段が無かったか、いやあったはずだと思う。しかしそれは結果論で、時間は戻せないし過去も消せない。

 他に選択肢が無かった以上、その時の父にとって、それは貴族としての義務だった。


 亡くなった人たちに対して悪いと思うなら、同じことを繰り返さないよう、彼らのことを心に留め続けること。それしか償う方法はないのだと、めぐるは言った。

 陛下も父も、おそらくその覚悟なのだろう。この石碑は、その決意の証だ。まさか彼らがこの石碑を、自らの行動の免罪符だと思ってはいないだろう、と信じたい。



 ジャックには、魔王征伐の最中にメグを助けてもらった。その時久しぶりに連絡を取って、じっくり話した。

 ジャックはもう、誰も恨んでいないと言った。そして、アレックスに対して攻撃したことを、何度も謝っていた。アレックスも、ジャックの苦しみに気付けなかったことを謝った。

 それからは再び、二人は以前のような友人関係に戻っている。


 しかしそれでも、アレックスは忘れない。

 自分が今後、魔法使いとして国の中枢に関わっていく時、ジャックのような体験を持つ人たちとは、少なからず出会うことになる。

 そして自分も父と同様にまた、彼らに対して責任を負う立場になっていくのだ。


「アレックス」

 どこからか花を摘んできたらしいめぐるが、慰霊碑を眺めていた彼の隣に立った。

 蕾も混じったその花束をそっと石碑の前に置くと、めぐるは静かに手を合わせ、目を瞑る。しばらくそうしていたと思ったら、彼女は唐突に

「お線香があれば……でも火とか煙が出たりするのはまずいでしょうか……」

などと、何やらぶつぶつ言い出した。


 現在彼とは婚約中、いずれ彼の妻となるこの女性のことも、彼には守る責任がある。

 しかし、結婚という形でそれを約束するということは、同時に彼女にも自分の人生を共に背負わせることを意味する。

 最初こそ強引に彼女を引きとめていたアレックスだったが、今ではきちんと合意の上だ。

 彼が彼女に、一生一緒に生きてほしいと言えば、おそらく彼女は笑って頷いてくれるのだ。……多分。


「この国は……好きか?」

「そうですね」

 アレックスの問いに、めぐるはすぐに肯いてくれた。


「いろいろありましたし、まだ問題は山積みみたいですけど……。でもそれってきっと、これからまだまだ良い方に変わっていけるってことですもんね。誰も傷つかなくていいような、素敵な国にしたいですよね」

 素敵な国に「なればいい」ではなく、「したい」という言葉に、この国で生きていこうという彼女の意志が見えた。


「でも私は、アレックスが居る所ならどこでも……なんて、やっぱり恥ずかしくて言えません!」

「そこまで言いかけておいてか」

「いいじゃないですか分かってるんならそれで!」

「分かっていても聞きたいんだ。ほら、ちゃんと最後まで言えって」

「むりむりムリムリ、無理です!」


 真っ赤になって顔を背けるめぐるに、アレックスがもう一押ししようとしたところで、邪魔が入った。


「……あのね、慰霊碑の前でいちゃつくのはやめてくれないかな……?」

 呆れ顔のジャックが、エリシアを伴って現れた。

「あ! ジャックさん!! に、エリーちゃんも! 助かりました――!」

「メグ、後で覚えてろよ」

「はうっ!?」

(相変わらずじゃのう……)


 にぎやかな彼らの横を、やわらかな春の風が駆け抜ける。


 アレックスは、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐きだした。心身ともに、力が満ちているのを感じる。

 ――俺は、これから先の人生、自分が負うべき責任からは決して逃げない。


 エリシアと何事か話しているらしいめぐるに目を向けた。

 ――そして、隣にいてくれる人と共に、一歩ずつ、前に進み続けることを誓う。


 誰に聞かせるでもない誓いは、そっと彼自身の心に染みていく。


 新しい季節は、もうすぐそこに訪れようとしていた。


ここで終わっておけばキレイなんだろうなーとは思いますが、残念ながら次はアホなパロディ(のようなもの)です……。

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