後日譚 誓い
三人称、アレックス視点。
たまには真面目なテンションで。
かつてフェレス国の侵攻によって滅んだ村――今はフェレス人が移入しているこの地域に、アレックスは立っていた。
十三年前の今日、この場所で、彼の友人・ジャックは全てを失った。
ジャックの村への侵攻を命じたのは、アレックスの父だった。
アレックスは、村の中を歩く。
村からは、もうすっかりかつての惨劇の跡は消え、活気が感じられるほどになった。
しかし、十三年前のこの日まで、この場所で平和な暮らしを営んでいた罪なき人々は、もう二度と戻ってくることはない。
半年前、この村のはずれに慰霊碑が造られた。
魔王の件が片付いた後にめぐるが提案し、王子の承認を得て、アレックスの父親が資金を出した。
父は、この十三年間ずっと、罪の意識を背負い続けてきたらしい。そしておそらくは、今後もまた、背負い続けていく。
この村を攻め落とすよう、父を動かしたのは国王陛下だ。陛下は陛下なりにこの国の未来を思って行動し、責任も負っている。だから父も、王が負う責任と罪悪感を共に背負った。
今にしてみれば、もっと平和的な解決手段が無かったか、いやあったはずだと思う。しかしそれは結果論で、時間は戻せないし過去も消せない。
他に選択肢が無かった以上、その時の父にとって、それは貴族としての義務だった。
亡くなった人たちに対して悪いと思うなら、同じことを繰り返さないよう、彼らのことを心に留め続けること。それしか償う方法はないのだと、めぐるは言った。
陛下も父も、おそらくその覚悟なのだろう。この石碑は、その決意の証だ。まさか彼らがこの石碑を、自らの行動の免罪符だと思ってはいないだろう、と信じたい。
ジャックには、魔王征伐の最中にメグを助けてもらった。その時久しぶりに連絡を取って、じっくり話した。
ジャックはもう、誰も恨んでいないと言った。そして、アレックスに対して攻撃したことを、何度も謝っていた。アレックスも、ジャックの苦しみに気付けなかったことを謝った。
それからは再び、二人は以前のような友人関係に戻っている。
しかしそれでも、アレックスは忘れない。
自分が今後、魔法使いとして国の中枢に関わっていく時、ジャックのような体験を持つ人たちとは、少なからず出会うことになる。
そして自分も父と同様にまた、彼らに対して責任を負う立場になっていくのだ。
「アレックス」
どこからか花を摘んできたらしいめぐるが、慰霊碑を眺めていた彼の隣に立った。
蕾も混じったその花束をそっと石碑の前に置くと、めぐるは静かに手を合わせ、目を瞑る。しばらくそうしていたと思ったら、彼女は唐突に
「お線香があれば……でも火とか煙が出たりするのはまずいでしょうか……」
などと、何やらぶつぶつ言い出した。
現在彼とは婚約中、いずれ彼の妻となるこの女性のことも、彼には守る責任がある。
しかし、結婚という形でそれを約束するということは、同時に彼女にも自分の人生を共に背負わせることを意味する。
最初こそ強引に彼女を引きとめていたアレックスだったが、今ではきちんと合意の上だ。
彼が彼女に、一生一緒に生きてほしいと言えば、おそらく彼女は笑って頷いてくれるのだ。……多分。
「この国は……好きか?」
「そうですね」
アレックスの問いに、めぐるはすぐに肯いてくれた。
「いろいろありましたし、まだ問題は山積みみたいですけど……。でもそれってきっと、これからまだまだ良い方に変わっていけるってことですもんね。誰も傷つかなくていいような、素敵な国にしたいですよね」
素敵な国に「なればいい」ではなく、「したい」という言葉に、この国で生きていこうという彼女の意志が見えた。
「でも私は、アレックスが居る所ならどこでも……なんて、やっぱり恥ずかしくて言えません!」
「そこまで言いかけておいてか」
「いいじゃないですか分かってるんならそれで!」
「分かっていても聞きたいんだ。ほら、ちゃんと最後まで言えって」
「むりむりムリムリ、無理です!」
真っ赤になって顔を背けるめぐるに、アレックスがもう一押ししようとしたところで、邪魔が入った。
「……あのね、慰霊碑の前でいちゃつくのはやめてくれないかな……?」
呆れ顔のジャックが、エリシアを伴って現れた。
「あ! ジャックさん!! に、エリーちゃんも! 助かりました――!」
「メグ、後で覚えてろよ」
「はうっ!?」
(相変わらずじゃのう……)
にぎやかな彼らの横を、やわらかな春の風が駆け抜ける。
アレックスは、深く息を吸い込み、ゆっくりと吐きだした。心身ともに、力が満ちているのを感じる。
――俺は、これから先の人生、自分が負うべき責任からは決して逃げない。
エリシアと何事か話しているらしいめぐるに目を向けた。
――そして、隣にいてくれる人と共に、一歩ずつ、前に進み続けることを誓う。
誰に聞かせるでもない誓いは、そっと彼自身の心に染みていく。
新しい季節は、もうすぐそこに訪れようとしていた。
ここで終わっておけばキレイなんだろうなーとは思いますが、残念ながら次はアホなパロディ(のようなもの)です……。